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トロントの各界で活躍する著名人にインタビュー

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築地豊治・坂田憲一・田中寿男
熊本金春流 能楽師
日本が誇る伝統芸能、能。金春流能楽を守りつつ、広く世界にその素晴らしさを伝えるために精進を続ける3名の能楽師にお話を伺い、奥深く計り知れない幽玄の世界を語っていただいた。

老松が描かれただけの、飾りを一切廃した簡素な舞台。ゆったりとした、無駄のない優雅な動き。2001年に第1回ユネスコ世界無形文化遺産に認定された日本の『能』は、約600年前の南北朝時代末期から室町時代初期にかけて、観阿弥・世阿弥の親子によって大成された世界最古の舞台芸術である。その能を1人でも多くの人に知ってもらうため国内外で活躍し、今年初の海外講演・公演としてトロント郊外のブロック大学を訪れていた能楽師、築地豊冶(メイン写真中央)、坂田憲一(同左)、田中寿男(同右)の各氏にお話を伺った。

今回、日本の舞台芸術に魅入られた同大学教授に招かれ、ドラマティック・アート学部の学生達に能の歴史などを語った三氏。

「日本では、敷居が高い、言葉も分からないし表現も理解しにくいというのが能の一般的評価ですね。能は舞台芸術の表現方法の1つで、台詞あり、歌あり、楽器あり、いわゆる歌舞劇(かぶげき)ですね」

日本の能舞台を真似て作られたブロック大学内、ショーン・オサリヴァン劇場の舞台上に正座をした三氏は、にこやかに『能』という芸術について語る。

「世界中にはたくさんの舞台芸術があります。オペラやミュージカル、日本では歌舞伎、中国では京劇。それらの舞台劇を一線上に並べると能は1番左。そしてミュージカルは1番右に位置します。ミュージカルというのは、我々が普段行なっている、知っている表現方法で演じられる。そのため、子供であろうとおじいちゃんであろうと見れば理解できる。しかし、1番左の端にある能は抽象的なのです」

その抽象的な表現方法が、『幽玄』と語られるものだ。

「絵画で言えば抽象画です。抽象的なものは、見るほうが勉強しないと分からない。何にも知らない人は、『これはなんだろうか?』で終わってしまうかもしれない。しかし、現在我々が生きている、生活している上での表現を舞台上で表してしまうと能でなくなる。日常を一切廃して、極力、抽象的な表現をする。私達は、幽玄を目指して舞うのです」

幽玄とは室町時代の芸術観といわれており、目には見えなくても、その奥に人間が感じることが可能な美の世界があるとするものだ。「今、そこにある姿」の美しさを楽しむだけでなく、そこに「隠された姿」の美しさを想像すること…。世阿弥は、奥に潜む美しさである幽玄美を追求する夢幻能を確立させ、能をさらに高度な舞台芸術に育てあげた。そして能は、時の勢力者の寵愛を受けることで全国に広がっていく。その中で幾つかの流派が起こった。

「能には5つの流派がありますがどの流派でも家元っていうのがトップにいて、ピラミッドを形成している。そのため、お弟子さんはがんじがらめ。ここまで踊りができるようにならないと免状を挙げませんよ…とか、その逆もあるんですよね。免状を取らなければこの踊りが出来ませんよ…てね」

「ところが、我々金春流の熊本は新座といって、昔から『金春上らず』といわれています。各流派の家元たちは、ほぼ集中的に東京へ行ってしまいましたから、家元にこの曲をやりたいというお伺いを立てるために東京へ行く。地方から見れば、『上る』ということです。でも金春の肥後だけは新座といって、240番の中で3つだけはお許しを得なければならないんですが、それ以外は何をやっても良い。それだけ実力があるということなんです」

金春流の特長をこのように語る三氏、実はボランティアで能を舞っているという。

「熊本は昔から神事が盛んなところで、北岡、藤崎、出水(いずみ)、阿蘇などの神社に奉納する神事だけでも年間に何回もあります。見物は無料です。神社が費用を出してくれますからね。費用といっても、謡などの人にはギャランティ(報酬)が出るんですが、私達はボランティアもしくは、少しだけ戴きます」

その様な状況の中でも能を続けるのは、日本の伝統芸能を守る使命があると考えるためだ。

「世界無形文化遺産に指定されたことで、能は世界中から認められました。その素晴らしい芸術を私達が守っているのです。日本人の皆さんには特に、自国が誇る芸術、本物の能を見ていただきたいと思います」

見返りのためではなく、ただ自分の使命を全うしているだけという三氏。能面に隠された奥に潜む、見えない美しさが垣間見えた瞬間だった。

インタビュー/西尾 裕美
能は約600年の歴史を持つ、現存世界最古の舞台芸術。五穀豊穣を祈る民族芸能や田楽、物まね芸能の猿楽などが影響しあい、徐々に発展したもの。南北朝時代に大和猿楽の観阿弥が大成。能の謡や舞を担当するシテ方(主役)には観世流、宝生流、金春流、金剛流、喜多流の5流派があり、演目、謡の言葉、謡の節、所作、演出、装束などに違いがある。金春流は5流派の中で最も古い歴史を持つ。
(金春流参照サイト:金春円満井会
 
Information
■Noh Mask 能 面
仮面劇である能では、全ての役が面をつけるのではなく、「シテ」と「ツレ(連れ、主役の従事)」と呼ばれる一部の役のみが面をつける。能面の種類は200以上、6系統に大別できるが、ここではそのうちの4系統から代表的な面を紹介。(参照サイト:www.iijnet.or.jp/NOH-KYOGEN/)
翁系
「翁(おきな)」は能の中でも特別に祝言を述べ、神聖視された演目。翁面は、神が老人の姿で舞った(翁舞)姿を表しており、翁面をご神体とした神社もある。能面の中では最も発生が古いといわれている。
【翁面(おきなめん)】普通の能面にはない特異な形で、上下にわかれた口(切り顎)をひもでつなぎ、眉は丸い形をした白い房で飾られている。シテの面を白式の翁面(白式尉)といい、同じ形で黒い彩色が施されている三番三(三番叟)の面は、黒式の翁面(黒式尉)という。
男性系
王朝の物語に登場する男性の主人公や平家の公達の役に使われる。
【中尉(ちゅうじょう)】在原業平の顔を写して作られたと言われる面。平安初期の歌人眉が描かれており、眉間のしわには王朝貴族の憂愁が感じられる。悲劇の主人公として使用。
女性系
喜怒哀楽の表情をはっきりと出さず、中間的な表情で作られている。面を照らしたり(あおむける)曇らせたり(うつむける)することで喜びや悲しみの表情を出す。
【小面(こおもて)】女性面の代表的な面。「小」は可愛らしい、若くて美しいという意味。純真さを表すあどけない処女の顔を模していると言われている。
怨霊系
戦で無念の死を遂げた武将、自害などして、死後成仏できない亡者、嫉妬に狂う女性の表情などを表す。目は金色に塗られ、怪しさがある。
【般若(はんにゃ)】女の怨霊と悲しさを表現する面。恨みや復讐、敵愾心を芸術化したものと言われている。白眼全体を覆った金輪は鬼神に近い強さ、恐ろしさ、恨みと怒りを表わす。

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