14世紀に生まれたインドの伝統楽器シタールとオーストラリアの先住民アボリジニが持つ唯一の楽器ディジュリドゥ。この、見た目も音も異なる楽器を見事に融合させた音楽ユニットがカミナリ(ヨシ&チエ)だ。そのユニークな音楽のルーツを探るため、夏らしい晴天に恵まれた日曜日、オンタリオ湖に浮かぶ水鳥達を見ながらヨシとチエの2人にお話を伺った。 もともと、大阪でバンド活動をしていたという2人。旅行先のオーストラリアでディジュリドゥに、そしてインドでシタールに出会い、ミュージシャンとしての好奇心から、現地のミュージシャンにその扱い方と演奏方法を学んだ。 「その時は、これらの楽器で音楽を制作するということは考えていませんでした。旅先から持って帰ってきて、遊びで演奏していただけですから…。実際に人前でプレイするようになったのはカナダに来てからなんです。珍しい楽器だからこれで生活費を稼ごうか…というこから始まったんですよね(笑)」 ヨシが持つシタールは、伝統的なスタイルに少し手を加えたもの。弦は上下に合計20本張られており、上弦でメロディを奏でる。下弦は共鳴弦だという。アコースティック・ギターのような外見だが、ギターよりも繊細な音を放つ。その澄んだ音色はどこかノスタルジックだ。 一方、大地を揺るがすようなチエのディジュリドゥからは、狩猟採集生活を営んできたアボリジニのたくましさと同時に、自然を神として崇めてきた生活が生み出した素朴さが伝わってくる。シロアリが喰い、空洞になった1本のユーカリの木から作られる楽器がディジュリドゥ。とても深く、神秘的な音を奏でる楽器だ。 その楽器を持ち、アーティストとしての自分たちの宣伝と、コネクションを作るためにバスキン(路上演奏)をしながら車でカナダ全土とアラスカ、アメリカを周った。知り合いは一人もおらず、言葉の壁は非常に高いものだったという。1年やって何も評価を得られなければすっぱりと諦めて帰る予定だった。 「でも、NYのような大都会へ行ってもユーコン準州の小さな町へ行っても、行く場所、行く場所で多くの人々が輪を作り、様々な人種、年齢層が一緒になって私たちの音楽に耳を傾けてくれたんです」 そんな人々の暖かさに支えられた2人は、やがてトロントに拠点を置く。凍えそうな冬のクイーン通りで演奏したこともあるという。そこでも、雪の積もる路傍に腰を下ろして、曲が終わるまでじっくりと聞き入ってくれる歩行者に出会った。そして、選考レベルが高いといわれるトロントの地下鉄構内での演奏許可を手に入れる。 「もちろんミュージシャンとしては、路上ではなく、どこかの会場でライブがやりたいと思います。でも地下鉄の構内では、チケットを買った人だけが聞けるようなコンサート会場や、バーなどで演奏していたら出会うことが出来ないような年齢層の人たち、例えば小さな子どもからお年寄りまでの耳に届く。彼らは決して僕達の音楽を聴きに来たのではなく、そこを通らないと目的の場所にいけないから僕達の前を通ったんですよね。そういう人たちが、ふと足を止めて聞き入ってくれる。そんな瞬間がうれしいですね」 ヨシがこう語るとチエが付け加える。 「地下鉄の構内で偶然、私たちの音楽を聴いて『気持ち良く』なってくれた人は、家に帰って家族に気持ち良く接する。その家族はやっぱり、気持ち良くなりますよね。そんな風に、小さいけれどポジティブな波動を、音楽を通して伝えていきたいんです。その波動はいずれ私たちのところに、そして、私たちの子どもに帰って来るんですよ」
音楽で生計を立てられるようになった今も、トロントが長い冬を迎える時期や、様々な悩みなどから生活がつらいと思うことがあるという。そんな時でも演奏していると、その悩みがつまらないことだと思えるようになる。人の心に巣くうネガティブな感情。それをポジティブな思考に変えていくのに、音楽はとても有利だとチエは言う。そしてヨシがふと呟いた。「音楽は飽きませんね…」この言葉に表れる、純粋に音楽を愛する気持ちが聞き手に伝わり、そのポジティブな波動は広がっていくのだ。 水面に出来る波紋のように広がっていく温かい気持ち。その波紋を作り出す小石を投じ続ける彼ら。世界一のマルチカルチュラル・シティから発信されるその小さな波紋は、いつか大きな輪となり、世界中へ浸透していくのだろう。 インタビュー/西尾 裕美
■Dust Dance 2005 日時:7月19日(火)〜24日(日)19:30〜 場所:Dufferin Grove Park(Dufferine Mall 東) 連絡先:416-516-4025