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The Road to Gold
カナダと日本、国境を越えて体操の無限の可能性に賭けた監督達が語る

次期北京オリンピックでの金メダルを期待される『男子体操』。今回は、その日本体操男子の未来を担うジュニア選手がトロントの郊外で強化合宿を行っていると聞き、練習風景を見せていただいた。

〈インタビュー/西尾 裕美〉


トリノ冬季五輪の熱狂冷めやらぬ中、気の早いスポーツ好きは既に2008年北京オリンピックでの日本選手団の活躍を夢に思い描いていることだろう。
中でも、注目されるのは『男子体操』。アテネ五輪で28年ぶりの団体金メダル、続いて、オーストラリアで行われた世界選手権では31年ぶりの個人総合優勝、そして同大会では準優勝まで日本人選手がさらっていった。
今回は、その日本体操男子の未来を担うジュニア選手がトロントの郊外、ニューマーケットで強化合宿を行っていると聞き、早速、練習風景を見せていただいた。
強化合宿の会場は『Pulsars Gymnastics Club』。広いジムに入ると、このクラブで子ども達を指導する日系人の猶崎正明コーチが出迎えてくれた。
ジム内でカナダのジュニア達と練習に励むのは15歳から18歳の日本ジュニア強化選手10名。
「2008年の北京はまだ早いかもしれませんが、2012年のロンドンオリンピックの代表は、まず間違いなくこの中から出ます」
そう語るのは日本から選手団を引き連れてきた清風学園教諭の吉田・強化選手団監督だ。
「高校3年生3人、高2が3人…と、中学・高校全体の1番から10人でなく、各学年の上位の子を連れてきてます。実は、一昨年のアテネで金メダルを取ったメンバーっていうのが、こういうことをし始めた最初のメンバーなんです。鹿島とか、米田とか、冨田とかね。米田は年齢が少し上だけど、冨田、鹿島、そして中野大輔は、一緒にロシアでこういう形の合宿をしたこともあるし…。
今、見てもらって分かるように、誰が誰のコーチかっていうのが、区別つかないでしょ。そういうことをし始めたんです。もちろん、試合をしたらみんな敵ですよ。でも、この子らはみんな日本の宝なんやから、こうやって集まった時には、どこの所属とかそういうのはやめようということですね」
今回のカナダでの合宿は、その新しい試みにさらに実験的な要素が加えられている。
「今まで、中国やロシアで一緒に練習をさせてもらっていたんですが、今回、エドワード・ヤロフコーチ(元世界選手権チャンピオンとして体操史に名を刻むリューキン選手のパーソナルコーチ)に直接指導していただけるのであれば…ということで、カナダに来るものいいだろうということになったんです。子ども達の指導もそうですけど、各種目に対して、我々コーチ陣がヤロフさんから講習してもらうっていう目的も大きいですね」
その足がかりを作ったのが猶崎氏だ。学生時代から体操をやっていた同氏は知人に勧められてカナダに渡った。
「2年のつもりがもう34年もいます」そう笑う氏はカナダ男子体操オリンピック代表選手団のコーチを2回にわたって務めた経歴を持つ。
「日本の選手はよく練習するね。凄いですね。カナダは体操自体の人気がまだないですからね。特に男子はね。でも、いい選手はいるんですよ。アテネでは男子床でカイル・シューフェルト 選手が金メダルとかね。でも、日本ほど層が厚くない。(世界の舞台で大活躍するまでには)10年ぐらいかかるかな。ただ、体操には無限の可能性がありますから面白いですよ」


体操と子供の無限の可能性

体操には無限の可能性がある・・・。そう語る楢崎氏に吉田氏も口を揃える。
「どの子どもに体操選手として伸びていく素質があるのかは、正直わからない。もちろん柔軟性だとか、空中感覚が良いとか、筋力が優れているっていうのはありますよ。でも、それのどれにも当てはまらないような子が伸びることがあるんです。例えば、池谷と西川(2人ともに清風高校出身、ソウルとバルセロナ、二度のオリンピックに出場、活躍する)。あいつら2人は足先もキタナイし、ドンくさいしね、まあ、西川なんかは器用ですけどね。あの2人を教えてようゆったのは、あいつらは努力できる天才だっていうことですね。
だから、あいつら2人に対しては『そこをこうしなさい』とか『もう少しこうしなさい』とは言うたことない。『もうやめとけ。もう、今日はそんでやめとけっ。それ以上やったら怪我する』それしか言うたことないぐらい、練習するんですよ。そこがやっぱり凄い。でもそういう子でないと伸びないのかっていうと、そうでもない。本当に『こいつドンくさいな』ていうような子でも、一生懸命、一生懸命やってるとね、別人みたいに化けるんやね」
では、その中でオリンピックレベルまで育つ選手にはやはり何か特別なものがあるのだろうか? 
「いや、普通の子ですよ。まあ、親が体操をしていたりして、体操クラブに入りやすい環境の子とかもいるけど、普通の家庭で育った選手が多いですよ。運動といえば、小さい頃は野球、サッカー、水泳ね。この3つがあかんかったから、まぁ体操でもしとけや(笑)、とか、バタバタ、バタバタしとるから、とりあえず体操教室いれよか? とかね。そういうことからスタートしてる子が殆どです。もちろん、体操教室に親がつれて来なきゃいけないから、まず親が体操に興味を持たなきゃいけないですけどね。まあ、ごく普通の子ばっかりですね。
その中で、オリンピックまでいく子は、色んなもんが重なっていると思うんですね。運もあるやろうし、ちょうど、その年齢の時にピークが来なあかんやろうし、周りも助けてやらないかんやろし。そういうのがすべていい方向に行った子が6人出場できる。くじ引きみたいなモンやね。だけど、そこへ行くまでは、ある意味、どんな子でも情熱とやる気があればカバーできる。まあ、一番大切なのは素直さぐらいかな。
それにね、例えば、今から3ヶ月の陸上競技の強化合宿をするとするよね。色んな事を教えても、一番最初に計ったタイムと、3ヵ月後に計ったタイムは殆ど変わってない。特に短距離はね。ところが、マット運動とか、鉄棒とか、跳び箱とかは、ぜったい進歩する。それが、体操の種目なんです。必ず上達していく種目。だから、子どものやる気と、指導者の情熱があれば、本当、不可能はありません」



来る北京五輪への挑戦

「アテネで中国がああなる(5位)なんて考えられなかったですよ。でも、今度の北京五輪は彼らの地元。ほんま何してくるかわからん(笑)。互角に戦うことは難しいとは思うけど、勝算がないこともない」
そう語る吉田氏を見ながら猶崎氏は言う。
「アテネ以前に日本体操男子が最後に団体金メダルを獲ったモントリオール大会は7大会前。一度王座を離れたら、それ程返り咲きは難しいということです。でも、28年間のコーチの努力がやっと実ったんですよ。これから先がますます楽しみですね」




〈インタビュー/西尾 裕美〉

 

 

 

 

Kazufumi Yoshida/ 吉田 和史
清風学園 教諭
06年日本男子ジュニア強化選手海外合宿監督

清風学園ではソウル五輪で、個人床銅メダル、バルセロナ五輪では同種目銀メダルを獲得した池谷幸雄、そして西川大輔の両選手を始め、アテネ五輪男子個人あん馬で銅メダルを獲得した鹿島丈博選手、同じく個人鉄棒で銅メダルを勝ち取った米田功選手らを指導。

Masaaki Naosaki/ 猶崎 正明
トレーニングキャンプコーディネーター
ソウル、バルセロナオリンピックカナダ男子元監督

88年ソウル、92年バルセロナの両オリンピックでカナダ体操男子体操団のヘッドコーチを務める。現在は、Pulsars Gymnastic Clubで将来のカナダ体操界を担う子ども達を指導。88年、ペトロ・カナダ・コーチング・エクセレンス・アワード受賞。01年カナダ体操協会永久会員入り。



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