bits lounge
トロントの各界で活躍する著名人にインタビュー

ホームへ > インタビュートップへ > Noboru Tsubaki/椿 昇
BACK NEXT

Noboru Tsubaki
椿 昇
アーティスト

モラトリアムな親父の
健康的な不謹慎


トロント市庁舎ビルの中に、ぽつんと白いトタンの小屋が建っている。日本人アーティスト、椿昇氏のプロジェクト『Radikal Dialogue Project』だ。これは市内各所で行なわれている『Live with Culture』イベントの一環として展開されており、パレスチナで現在、問題となっている分離壁のミニチュアに絵を描くことで、その問題に少しでも関心を持ってもらおうと試みるものだ。今回はこのプロジェクトの仕掛け人である、椿氏にお話を伺った。

―椿さんは、アーティストとして個展を開くのでなく、都市型イベントに参加されていることが多いですね。

「プロジェクトメーカーなので、都市と一緒にプロジェクトをすることが多いですね。出身は現代美術なんですけど、どちらかというとコンセプチュアルというか…。アートのためのアートではなくて、アートを直接、どういう形で社会に機能させることが出来るか。アートには、その人のメンタリティーとか、モノの考え方を高めていく機能がありますよね。それはそれで、僕は高く評価します。でも、基本的にお金持ちのためのものになってしまってるでしょ? それが、僕は好きじゃないんやね。
江戸時代なんかや、漫画の力が強いのを見たら分かるけど、アートってポピュラーカルチャーなんやね。民衆が作っていく美術には、やはり力があって、影響力の強いものが出来る。これは日本の伝統でもあると僕は思ってる。それが明治になって、急に西洋の技術が入ってきてね、岡倉天心が東京芸大を作ると(アートが)一部の人のものになっていくんよ。それまでは、江戸の庶民は誰でも朝顔を作ったり、高い美意識をみんなが持ってた。それが、東京芸大を作ったりすることで、芸術が一部の人がする『仕事』になった。そうなったことで、みんなが朝顔を作ったり、田舎のあぜ道をきれいにしてたような、DNAに組み込まれた美意識があったのに、自分達では出来ないのじゃないかと思っちゃった。当事者意識を無くしていくんですよ」

―今回の『Radikal Dialogue Project』のような参加型のプロジェクトは、本来の姿に戻れと呼びかけているようですね。

「当事者意識っていうのは、人類全体にとって凄く大切なことやと思うからね。一番良くないのは、みんなが政治への興味を失ったり、世の中から関心を失うことやね。当事者であったら、みんな意見を言う。「関わり」っていうことが、僕はとっても大事やと思う。(今回のプロジェクトで提唱されている)パレスチナの問題でもね、テレビのニュースで観たり、凄く悲惨なことが起こってるっていうのは誰でも言えるでしょ。じゃあ、直接パレスチナの壁(イスラエル軍がヨルダン川西岸地区に建設中の障壁。イスラエル側では「テロリスト」の侵入を阻止するための「安全フェンス」と呼んでいる)に行って絵を描くのか、戦うのかというと、そういう話じゃない。もっとコンビニエントでいいから、みんながちっちゃな声をあげられる方法はないかなと思ってね。で、ミニチュアの壁。それだったら世界中から描けるようにしようと。参加した人たちは、ポスト(送信・作品の掲載)した瞬間からパレスチナの問題に関心を持つと思う。そういう人が1人でも増えていかないといけないと思うんやね」

―楽しく作品を作ったり、観たりすることが、世界的に大きな問題を考えるきっかけとなっているんですね。

「悲惨なことを悲惨に伝えても、皆、分かってることでしょ?(遊びの要素を盛り込むのは)健康(的)な不謹慎です」

―バングラディシュでも体験型のプロジェクトを行なっておられますね。

「バングラディシュでは、ユネスコが井戸を掘っていったんですよ。でも(地中奥の)土の層から砒素が出た。だから、見かけはきれいなんだけど、(砒素入りの水を飲んで)みんな水俣病みたいになって…。井戸水を飲まないように赤で『ペケ』をつけたりしてるけど、川の水よりそっちがきれいだから飲んじゃう。砒素の汚染(の人体への影響)って、10年、20年で出てきて、出たらもう遅いんですよ。そんな状態で、自分はアーティストやからって、お絵描きしてるのはやっぱりおかしい。
案内してくれた友達とかと村を周ってね、簡単に、お金かけずに僕達がコミュニケーションを取れることは無いかな…ということで、じゃあ、日本の炭焼きをしようと。竹炭って凄く力があって、水を浄化するフィルターになる。竹はむこうには山のようにあって、田んぼの中に埋めてトタンをかぶせておくだけで焼けるから、それを教えて、川の水を浄化できるように…。
アーティストって世界の問題とか、向かってる状態に声をあげたり、自分なりの考えを述べるものやと思うから、周りで人が死んでるのに写生してるやつは信じられない。僕は、神戸で地震が起こった時から2年間、絵を書かなかったけど、それでいいと思ってる。まず人を助けるのが先で、それから絵を描いたらいいんやと思う。人間であるということが芸術家ということよりも先だと僕は思ってるから。でも、人間性を捨てて芸術とかをやる人を誉めるでしょ? 天才やって言うでしょ?僕はそれは、傲慢な考えやと思ってるから、余り賛成できない。そうまでしてスーパーなものを作りたいと思わないから。ある種のアマチュアリズムって言うか…。
まあ、アートとかをやってるから、会社勤めをしている一番上の息子からは『いいなぁ、親父はモラトリアムで』と、いつも言われますけどね(笑)」。





〈インタビュー/西尾 裕美〉
つばき のぼる
アーティスト。京都造形芸術大学空間演出デザイン学科教授。横浜トリエンナーレ 2001などのイベントに参加する傍ら、プロジェクトごとに若いクリエイターと「椿組」を結成しての制作も行っている。
Radikal Dialogue Project
8月6日(金)まで市庁舎内(1F)にて参加可能。パレスチナの分離壁に見立てたミニチュアの壁をデザインする
サイト: http://anj.or.jp/una

E-mail: webinfo@bitslounge.com | Copyright (C) Bits Box. All Rights Reserved.