村上龍氏原作の「69
sixty nine」などのメガホンをとり、今、一番注目されている若手監督・李相日(リ・サンイル)氏。今回は、トロント国際映画祭で世界各国から訪れた映画ファンの拍手喝采を受け、日本でも先月の23日からの全国ロードショーで多くの観客の感動の涙を誘っている新作「フラガール」について、お話を伺った。
―「フラガール」は、福島県いわき市にいまも営業を続ける「常磐ハワイアンセンター」(現スパリゾートハワイアンズ、以下ハワイアンズ)が舞台ですが、この施設をテーマに作品を作ろうと思ったきっかけは何ですか?
「プロデューサーのほうから、こういうテーマがあるんだけど作らないか?といわれたんですが、僕が(このテーマに)惹かれたのは、まずこれが実話だってことですね。
それまで、ハワイアンズについて耳にしたことはあったんですが、行ったことはなかったし、こういう(映画で描かれているような、炭鉱の町に住む少女達が町の新しい産業のために奮起したという)背景があったことに驚いた。日本のある時代、変革期の中で生きてきた人々を描けることに惹かれたんです」
―日本で人気の漫才コンビ南海キャンディーズのしずちゃん(山崎静代)が初めて映画に出演したことでも話題になっていますが、キャスティングはどのようにして決められたのですか?
「しずちゃんはね、あんまりあんな大きい子(身長182センチ)いないですからね…(笑)。
台本は私が書いたんですが、その台本の登場人物のイメージに副う人をキャスティングしました。じゃあ、まず、しずちゃんからいきますか? 彼女は、今大人気ですからね。彼女もそうだけど、コメディアンはテレビでその人柄が出るじゃないですか?
そういう人たちの違った面や生の顔が、映画だと出せるんじゃないかなっていう期待があったし、純粋に笑いも取りたいというキャスティングです。
蒼井優(あおい ゆう)は、前から一緒に仕事をしてみたいと思っていたんですよ。彼女は、若手女優の中で演技力って言うか、スクリーンで見ている人を惹きつける力に、ずば抜けたものがありますね。だから、彼女にはすごく関心がありました」
―蒼井さんが子どものころにバレエをやっていたことはキャスティングに影響したのでしょうか?
「フラダンスは体の動かし方がバレエとは違いますので、(キャスティングとは)あまり関係はないですが、やっぱり体のしなやかさとか姿勢など、クラシックバレエをやってたという基礎はプラスになりましたね」
―実際にハワイアンズには行かれましたか?
「ええ。一番はじめは、シナリオを書くために、ハワイアンズに行ったんですが、行く前とだいぶギャップがありましたね。
行く前は、もっとこう、ちょっと大き目の温泉に、やしの木が2本ぐらい(笑)それで、みんなで雑魚寝できるところで、ビール飲んだりしてるのかなって思ってましたが、ぜんぜん違いましたね。大規模なんですよ。ダンスも本格的。かなり驚きました。
フラダンスについても、話を受けた時にはイメージが乏しかったんです。初めは、優雅でゆったりした、奥様たちがカルチャースクールでやるようなものだというイメージがありましたが、実際のダンスは本当に色々な種類の踊りがあるし、見ると聞くとは大違いというか、見た時に、これはひとつの映画のクライマックスになるなと思いましたね」―撮影はスムーズだったのですか?
「いや、スムーズにいく撮影はありませんからね(笑)。色んなことが(撮影をしている)2ヶ月間で起きるんですけど、そういうことを全部含めて撮影なので…。撮影は、実際のハワイアンセンターに泊まらせてもらって行いました。踊り子たちは、撮影がない時は練習でした」
―映画では少女たちの紆余曲折が感動的に描かれていますが、撮影の最中に感動して涙を流してしまうことはあるのですか?
「撮っている最中は泣きやしないですよ。それがどう見えるかっていうのを客観的に見てるんで…。編集とか、映像っていう素材になって、それを見たときは、グッときたりしますけどね。自分にそういう感情がこみ上げてこないならだめですからね」
―涙を誘う場面には、日系、アジア系を問わず、観客は皆さん、感動の涙を流されていましたね。
「泣きの場面では、観客は絶対『この子がこんな台詞を言って、こうなる』って、予想をするだろうなって分かりますよ。でも、その通りになったほうが気持ちいい瞬間ってありますよね。
当たり前のことなんですが、そんな『泣き』の場面で泣くんだなと思いました。日本の観客と同じところで(海外の観客も)泣くんですね。『笑い』ってちょっとずれたりするじゃないですか。でも、『泣き』は近いですね。国の文化の違いを越えて楽しんでいただけたことは満足です」
優しい眼差しで描かれた炭鉱の町に住む少女たちの実話。若干32才の李監督が現代を生きる人に贈る瑞々しいメッセージは、温かい感動を伝えた。
次回作の構想も着々と進んでいるという李相日監督。その将来性にますます期待したい。
〈インタビュー/西尾 裕美〉
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