フィガロの結婚、カルメン、蝶々夫人…、劇場に足を運んだことがなくても、多くの人が一度は耳にしたことのあるタイトルだろう。その起源をイタリアに持つオペラは、1894(明治27)年11月、東京音楽学校(現在の東京芸術大学)奏楽堂でオーストリア大使館館員によって日本に紹介された。その時に演じられた演目は『ファウスト』第一幕。これは世界的に有名な演目だが、最近では演じられなくなったタイトルの一つだという。トロントで『ファウスト』が最後に演じられたのは約20年前だが、今回、新しくダウンタウンに建設されたフォーシーズンズ・センターにて、この作品が再び上演されると聞き、その舞台に立つオペラ歌手ローレン・シーガルさん(上写真右)とブレット・ポレガトさん(同左)のお二人に『ファウスト』をはじめとするオペラの魅力を伺った。
―職業として『オペラ歌手』を選んだ理由は何ですか?
ローレン(以下L)「昔から音楽は好きだったけど、オペラを始める前はヨーク大学で物理と天文学を学んでいたの。3年生の時に音楽のある生活を求めて入った合唱団で出会った同期生が、オペラを習っていたことがこの世界に入るきっかけとなった。最初は、『私でも歌えるのかな?』という軽い感じでレッスンを始めたんだけどね。そして、4年生になって物理の博士号を取るために進学するのか、オペラを選ぶのかって問題にぶつかった。でも、私がやりたいことはもう、一つしかなかった。迷わずオペラを選んだわ」
ブレット(以下B)「僕の場合は、オペラが…というわけじゃなくて、歌うこと一般が好きだからね。コンサートも好きだし、オーケストラとの舞台も好き。それに、パズルが好き。
音楽はパズルに似てるんだよね。音楽をするっていうことは、誰かが紙に書いた黒いドット(音符)に命を与えることだから。この作曲家は何を思ってこれを書いたのか、何を訴えかけているのかを探していかなきゃいけないところが、パズルにすごく似ていると思うんだ。音楽をやることの一番の魅力は『探っていくこと』。そこが僕が音楽を愛する理由だと思う」
―歌手として日ごろ気をつけていることなどはありますか?
L「体の管理と合わせて、自分の時間を管理することかな。
オペラは、フランス語、イタリア語、ドイツ語で歌われることが多いけど、ロシア語、チェコ語のものもある。今まで聞いたことのないような発音が入っている歌詞の曲を歌う時には、覚えるまで時間がかかるわ。全ての単語を正しく発音しているかのチェックもするので、習得するまでに何年もかかる場合もある。だから、自分がどれだけの時間を必要とするのかを自分で判断して時間を管理することが大切。
では、母国語で歌えば簡単か、といったらそうでもないわね。私は英語を(母国語として)話すけど、正しく発音しているかって聞かれたら、そうとは限らないから」
―オペラは好き嫌いがはっきり分かれる芸術だという人もいますが?
B「興味深い意見だね。オペラ歌手はマイクを使ってないって知ってた?会場で聞こえるのは、すべて歌手の『本物』の声なんだ。例えばオリンピックの競技を観ている時、好きじゃない競技でも、選手から何か素晴らしいものを感じ取ることが出来ると思うんだ。人間の体の素晴らしさを…。
多分、嫌いだという人は舞台上で何が起こっているのかが分からなかったからだと思うよ。作曲家の嗜好が合わなかっただけかも知れないし。いろいろな作曲家の作品を観て、自分に合っているかどうかを判断して欲しいな」
L「そうね、オペラの演目は非常に多いし、たとえ同じ演目を観たとしても、大きなかつらを付けて演じるトラディショナルな舞台もあれば、比較的コンテンポラリーなものもある。曲自体は大昔の人が作曲したものだから、ほとんど変えることは出来ないけど、解釈は各カンパニーで違うことも多い。同じものを同じように演じていては、つまらないしね」
―オペラを楽しむコツは?
B「オペラに行くときは『予習』をしていって欲しい。オペラは映画と違って、ポップコーンを食べながら観客として見てればいいという芸術じゃないんだ。(劇場に足を運ぶ前に)ストーリーラインを知らなきゃいけない。
最近は、受身になることが多く、考えることが少なくなってしまった。『これはどういう意味なの?』と考察をする力が弱くなってしまってると思う。オペラは本と同じで、参加するアート。野球などのスポーツは、観客がいなくても、試合をする意味があるよね。試合で勝ち負けができるから。でも、オペラはちょっと違う。いつも観客が必要で、誰かのためにパフォーマンスをしなければ、ショーをする意味がなくなる。だから観客の参加は必要不可欠。舞台上の俳優は、観客のエネルギーを感じとることができなきゃいけない。
さっきも触れたように、オペラは生の声が聴けるアート。誰かが歌を間違うかもしれないし、観客によって舞台の雰囲気が変わることもある。それが生の良さ。そういう良さを楽しんで欲しいね」。
〈インタビュー/西尾 裕美〉
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