トロントは、米ニューヨークのブロードウェイや英ロンドンのウエストエンドと肩を並べる舞台芸術の街だ。しかし、2大エンターテインメント・シティの陰に隠れがちである。そのトロントの、ひいてはカナダの演劇シーンを世界に知らしめるべく、コンテンポラリーダンスをプロデュースし続けるプロダクション、カンステージ(CanStage)。このプロダクションは現在、『オーバーコート(The
Overcoat)』を上演している。台詞が一切ないにもかかわらず、メインキャラクターをはじめ俳優たちの演技力が感動を伝えるとして、世界に認められたカナダ発のシアターアートだ。
カンステージの演目の選択はアーティスティック・プロデューサーのマーティン・ブラッグ氏の仕事。アメリカ各地、ヨーロッパ各地へ足を運び、新しい演目を探し回る多忙なブラッグ氏に、カンステージと舞台『オーバーコート』の魅力を伺った。
―カンステージとは、どの様なプロダクションなのですか?
「カナダ最大のコンテンポラリーダンス・カンパニーです。シェイクスピアを野外ステージで上演する夏のイベント『Dream
of High Park』はクラシック作品ですが、そのほかの演目は全てコンテンポラリー。カンステージで作るときもあれば、トロントで上演するために演目の上演権を買ってくるときもあります。上演権を手に入れた後は、カナダ人のディレクターや俳優を雇って、演目にカナディアンの解釈を入れ込みます」
―アーティスティック・プロデューサーとは、あまり聞かない肩書きですね。ブラッグさんの仕事の内容を具体的に教えてください。
「アーティスティック・プロデューサーとしての私の仕事は、半分はシアターアート、もう半分はマネージングです。つまり片方はアート責任者で、もう片方はお金の管理者。プロダクションでは、それぞれの仕事に違う人材を当てるのが普通だけど、ここでは、その営業モデルを変えてあります。だから、いつも自分との闘い。私の半分はもっと大きなショーを! って叫ぶけど、もう半分は、そんなにお金がないよ〜って言う(笑)。
ハイパークにある野外ステージを含めて、カンステージは4つの劇場を持っています。観客の皆さんには、訪れた劇場によって異なる体験をしていただきたいと思っていますから、各劇場にはそれぞれ『色』を持たせてあります。例えば赤いレンガ造りのバークリー劇場は150年の歴史があり、カナダ国内ではアンティークに近い建物です。ここでは、(建物の歴史とのギャップを持たせるように)新しい作品や、エッジの効いた作品を上演することが多いです。オフ・ブロードウェイのようなものですね。しかし、ブルマ・アペル劇場ではもっと一般受けするものを上演します。900席もあるシートを埋められるような、ユニバーサルな作品ということです」
―カナダ発にこだわる理由はなんですか?
「ニューヨークに行くと、素晴らしいディレクターが素晴らしい俳優を使ってショーを上演している。もちろん、セットも言うこと無し。そして、カナダに戻ると何があるか? 同じように素晴らしいディレクターがいて、同じように素晴らしい俳優がいるんです。カナダの演劇は世界レベルです。しかし、私たちは、自分たちが十分素晴らしいものを作っているとは思っていない。そんなものを作れるはずがないと思っている。対照的に、ほとんどのアメリカ人は自信に満ち溢れていると思います。自分たちのことを『世界一だ』ということに躊躇がない。
もちろん、状況によって謙遜することは良いことです。しかし、カナダ人がブロードウェイやロンドンのウエストエンドにかなわないと思っているのは間違いです。だから、カナダから世界的に高い評価を得る演目を発することが大切なのです。その点で、『オーバーコート』はとても大切な位置を占めています。世界各国で上演され、サンフランシスコでは歴代5位のチケット売り上げを記録しました。ウォールストリート・ジャーナル誌では、どんなことがあってもチケットを取って、見に行きたいショーだと評されました。私たちカナダ人が、世界中でベストだと呼べる作品を作り上げたんです」
―『オーバーコート』には台詞が一切ありませんね。
「はい。このショーは、2人のクリエーター達が行なった面白いアイディアから作られました。演劇を上映する際、彼らが俳優としてすることはストーリーを伝えること。では、そこから言葉を取ってしまったらどうなるのか?俳優として、表情と動きだけでどの様にストーリーを客席に伝えるのだろうか? そんな考えから『オーバーコート』は制作されました。
私が初めてこの舞台を見た時、ストーリーを伝える言葉がなかったのに、涙があふれました。台詞がないことによってイマジネーションが働き、言葉の壁を越えた感動が生まれるのです」
―言葉のハンデがないということは、マルチカルチュアル都市のトロントで上演されるのに適した舞台ですね。
「その通りです。それに、この演目は今年で10年を迎えますから、最後尾のシートに座っていても、同じ感動が手に入るように演出がなされています。ハウス(劇場内)が一つになれるこの『オーバーコート』は、ぜひ多くの方に観ていただきたい、カンステージが誇る演目の一つですね」。
〈インタビュー/西尾 裕美〉
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