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トロントの各界で活躍する著名人にインタビュー

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Shaena Lambert
シャエナ・ランバート
作家

平和って、人間同士の触れ合いから
生まれていくものだと思うの

太陽が燦々と降り注ぐ夏、私達は今年もまた、原爆の日を迎えようとしている。
1945年8月6日に広島、9日に長崎に投下された原子爆弾が引き起こした惨禍は、過ちを繰り返さないようにと次世代へ語り継がれ、”ノーモア・ヒロシマ、ノーモア・ナガサキ“のスローガンの下に展開される全世界的なピースムーブメントの種を蒔いている。今回は、80年代にバンクーバーで行なわれた大規模な平和大会にボランティアとして参加したことをきっかけに平和活動に興味をもち、今年初めには、広島で被爆した若い女性の心の機微を描いた『RADIANCE』を出版したカナダ人女性作家、シャエナ・ランバートさんにお話を伺った。

”原爆乙女“という言葉をご存知だろうか? 被爆後遺症に悩む年頃の(または、当時年頃だった)女性の総称である。小説『RADIANCE』の主人公は原爆乙女のケイコ。彼女は原爆による熱風で顔に重度のやけどを負った。
「小説の舞台は1952年。ケイコはアメリカに渡って、顔の形成外科手術を受ける決心をするの。実際に起こった出来事からヒントを得たのよ」
実際に起こった出来事? 調べてみると、1955年、顔や体にケロイドが残る独身の女性被爆者25人が、アメリカで無償治療を受けるために、海を渡っている。アメリカ人ジャーナリストで平和運動家でもあったノーマン・カズンズ氏と被爆者で広島流川教会の牧師だった谷本清氏(いずれも故人)が協力して実現させたもので、これを機に日本国内でも被爆者援護を求める声が高まり、57年には原爆医療法(現在の原子爆弾被爆者に対する援護に関する法律の被爆者援護法)が制定された。 「ニューヨークに渡った彼女達は、1年ぐらいアメリカに滞在したと聞いているわ。原爆の悲惨さを直接描くより、多感な時期に顔に傷を負い、かつての”敵国“で暮らした彼女たちの気持ちや、彼女たちを取り巻く人々の思いを、1人の少女に託して描くことで平和を訴えたいと思ったの」
終戦から10年しか経っておらず、強い反日感情が残っていた55年に、原爆を落とした国、アメリカに降り立ち、身をもってその悲惨さを伝えた彼女たち。写真で見る彼女たちの姿は、作家として、また平和活動家としてのランバートさんの心を掴んで放さなかったという。
「物語の年代を実際に渡米治療が行なわれた55年から52年に変更したのは、まだ水素爆弾が発明されていなかった時に舞台を設定して、ケイコを水爆実験反対のスポークスパーソンに仕立て上げようとする周りと、頑なに口を閉ざし、自分の顔の傷を利用されまいとするケイコの女性としてのプライドと葛藤を描きたかったから。そして、大切なことは利益とか目的を超えて人間として心のレベルで触れ合いを持つこと、それが本当の平和活動だと訴えたかったの。ちょっと内容について話しすぎちゃったかしら(笑)」

ランバートさんは、この小説を書き始める10年以上前に平和大会に参加し、広島と原爆に対する知識を深めている。
「1986年にバンクーバーで行なわれた平和活動に参加したの。当時の広島市長の荒木武氏もバンクーバーへ足を運んで平和を訴え、大きな大会となったわ。運営ボランティアとして参加していた私は、荒木氏が原爆資料館から持ってきた”原爆遺品“を箱から出すという仕事をもらって、ディスプレイの手伝いをしていた。木の箱に入れられた遺品は、真っ黒になってしまった三輪車や放射能によって木の葉の影が焼き付けられたコンクリートの破片だった。それらを箱から出している間に、なんだか指先が温かくなってきて、そして痒くなった。遺品を見て人類の犯した間違いの大きさに悲しくなったのはもちろんだけど、それと同時に、遺品から何か、例えば、まだ放射能が出ているんじゃないかしら? という気持ちになった…。そんな出来事がきっかけで、広島と原爆についての小説を書こうと思ったの」
もちろん、日本・広島も何度か訪れたという。しかし、原爆資料館で資料を見て愕然とした。
「(何も)書けないと思ったわ。余りにも悲惨で…。カナダに戻って、いままでのリサーチ資料をすべてクローゼットにしまいこんで何年も放っておいた。
でも、01年に全米同時多発テロが起こった時、やっぱり書こうと思ったの。原爆もテロも人類の歴史において、ある意味で同じ、いわゆるランドマークだという感じがした。そこをいったん踏み越えてしまったら、もう後には戻れない。原爆投下後、世界は変わってしまった。爆弾をなくすか、それとも人類がなくなるか…。そして今度はテロが起こって、また世界は変わった。安全というものがとっても壊れやすいものであることを知った」
ランバートさんは語る。
「日本にお化けっていう言葉があるでしょ? 西洋のゴーストと違って、日本のお化けは伝説や歴史、言い伝えによって培われた豊かな背景をもったものだと思うわ。見えたり、見えなかったり、姿を変えたり…。『RADIANCE』の主人公、ケイコは”お化け“なのよ。ある人は彼女を妹のように思い、またある人は娘のように、そして、ある人は彼女に自分自身を投影する。自分の心と向き合ったり、自分に欠けているものを彼女の中に見つけるの。
この本を、広島への原爆のことを記した本だ、とは思って欲しくない。自分の内面や弱さと向き合うことで他の人間のことがもっとよく理解できるようになる。ストレートではないけれど、そこから始まるピースムーブメントがあってもいいと思うのよ」。



〈インタビュー/西尾 裕美〉

Shaena Lambert 〔シャエナ・ランバート〕
バンクーバー在住。小説や詩をトロントライフ誌などに執筆する傍ら、トロントのハンバー・カレッジの修士課程にて、クリエイティブ・ライティングコース(遠隔授業)で教鞭をとっている。著書に、グローブ・アンド・メール紙の年間ベストセラーの一つに選ばれた短編集『The Falling Woman』(Vintage, 2002)。www.shaenalambert.com
『RADIANCE』(Random House Canada)
原爆によって顔に深い傷を負ったケイコ。思春期を迎え、傷のために辛い毎日を送る彼女に、アメリカでの整形手術の話が舞い込む…。

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