bits lounge
トロントの各界で活躍する著名人にインタビュー

ホームへ > インタビュートップへ > Emma Nishimurai/エマ・ニシムラ
BACK NEXT
Emma Nishimura
エマ・ニシムラ
プリントメーカー
同居する古のみやびと洗練されたモダン
今、まさに飛び立とうとしている若手版画家

小学生の時、図工の時間に木版画を作ったことがあるだろう。筆を使って描くのではなく、木や金属などの板を使い、描かれた絵を紙に写し取る版画の手法を駆使して作品を作り出すアーティストは”プリントメーカー“と呼ばれる。今回は、毎年3月末に開催される人気のクラフトショー『One of a Kind Show』に数回にわたって出展、また今年夏、トロントで開催される『世界和紙サミット』にも参加予定の注目若手プリントメーカー、日系2世でもあるエマ・ニシムラさんのスタジオでお話を伺った。

ダウンタウンにあるエマさんのスタジオは小さいが清潔感に溢れ、陽射しがたっぷり入る明るい空間だ。紙や大小のカンバスが所狭しと置かれ、絵の具がありとあらゆるところに転がる…というアーティストのスタジオを予想していたが、良い意味で裏切られた。壁には明るい色合いの可愛らしい作品から、シックでモダンなものまで、いくつかの作品が飾ってある。その中には和紙を使った作品も多く見られる。
「和紙の持つ、独特の質感が好きなんですよね。インクを紙に良く吸わせるために絵をプリントする時は紙を濡らすんですけど、和紙だと乾いた時に表面に出来るデコボコが素敵なんです。小さい作品だったら乾いた後に普通の紙(ウエスタン・ペーパー)に貼り付けますし、大きな作品だったら、小さい原版をいくつか作って刷り上った和紙自体を縫い合わせることもあります」
エッチングとは、表面を防食剤でコーティングした銅版や亜鉛版にニードル(エッチング・ニードル)で絵を描き、その後、酸に浸して腐食させる技法だ。エマさんは作品(ページ下の作品、彼女の最新コレクションのひとつ)の原版を取り出して、詳しく説明してくれた。
「これは亜鉛版。はじめはこんな風にツルツルしてるんですよ。この表面をコーティングしてからニードルで絵のアウトラインだけを取ります。それから板を酸に浸すと、削ったところだけが侵食されて、さらに凹むんですよ。それから絵にトーンを付けていくんです。
プリントメイキングには沢山の工程や様々な技法があるんですが、私はエッチングを多用してます。まだまだ勉強中なので、他のアーティストと話す機会を持ったり、必要があれば学校に戻ったりして新たな技術を学んでいきたいですね。プリントメイキング、刷るという技法にはいろいろな可能性があるんですよ」
もともとアートを仕事にするという考えはなく、大学ではメジャーとして心理学を取ったと言う。しかし、マイナーで専攻していたファイン・アートとのダブルメジャーに切り替える。
「小学生の時に陶芸のコースに参加したりして、小さな頃からものを作ることは好きだったんですけど、アーティストという職業は選択肢の中にはありませんでした。それで生計を立てていくことが考えられなかったからだと思います。でも、アートに触れて、恋をしてしまったんでしょうね。今は、アートなしの人生は考えられません。
その中でもプリントメイキングは、同じものを作り出すことは不可能ですから刷ったもの全てがオリジナルであるのに、一枚の原版から複数枚のプリントが取れるから比較的コストが抑えられる。そうすることで、より多くの人の目に留まり、手にとって貰える機会が増えます。そんなところもプリントの魅力のひとつでしょうね」
エマさんの作品には、樹木などの植物や鳥を描いたものが多い。そこからは、直に自然と触れ合いながらカナダの空や光を描いた画家集団『グループ・オブ・セブン』に通じるものが感じられる。
「作品のインスピレーションが、カヌー旅行から来ているからかもしれません。私はフルタイムのアーティストとなる前はキャンプで働いていたこともあるんです。大学生の時を合わせると7年間ぐらいかな? 最近では、ヌナブット準州まで16〜17歳の子達を連れてカヌーキャンプにも行きましたよ。もちろん食料などは全て自分達で持参して。6週間です。ヌナブットに行ったのは7月中旬だったんですが、現地の気温は2度。本当に『ワイルド』でしたよ(笑)。豊富な水と緑のなか、多くの野生動物に出会いました。
カヌーを漕いでいると、自分の考えに没頭できるんです。ある意味、とてもいいメディテーションになっています。そして頭上を飛んでいく鳥たち。その自由さは憧れですね。それに、彼らが組む美しいフォーメーション。その野生の感にはいつも感心させられます」
夏になると、両親に連れられてよくキャンプに行ったものだというエマさん。キャンプやカヌー旅行からだけでなく、ジャパニーズ・カナディアンの父親とスコティッシュの母親の家庭で育った影響も画風に良く現れているように思われる。最新の作品に使われている青色、描かれた波の表情、鳥の姿形に、どことなく、古の日本を感じる。しかし、それらが集まるとモダンな雰囲気を湛えた一つの作品となるから不思議だ。
「最近は青をよく使っていますね。なぜだろう(笑)。青の魅力に、使わずにはいられないんです。
秋からの新しい作品には、もっと日本の影響が入るかも知れません。まだ固まっていないのではっきりとは見えていませんが、私の日本人としてのヘリテージを時代の流れとともに振り返り、人種として『ミックス』であることがどういうことか、作品を通して見つめていきたいと思っています」。


〈インタビュー/西尾 裕美〉
えま にしむら
アーティスト、プリントメーカー。
05年、ゲルフ大学卒業。プリントメイキングとフォトグラフィーを専攻。その後、プリントメイキング・スタジオ『Open Studio』に所属、作品展などをするほか、アーティストの卵のためにインストラクターを務めている。また、年2回行われるクラフトショー『One of a Kind Show』などのイベントにも積極的に参加している。
www.emmanishimura.com

E-mail: webinfo@bitslounge.com | Copyright(C) Bits Box Inc. All Rights Reserved. 掲載の記事・写真の無断転載を禁じます。