|
以前は断然「シーフード派」だった私も、トロントに来てからお肉を食べる回数が増えている。スーパーに行ってみても魚の種類は少ないし、新鮮な魚介類が手頃な値段で手に入らない。そんなシーフードに飢えた私が向かったのは、ケンジントンマーケットにあるタパスバー「TORITO」。タパスとはスペインの小皿料理、つまり”おつまみ“のこと。色々なものを少しずつつまみながら、ちょっと一杯…という私にはピッタリのレストランのようだ。
入手困難! モロッコ産タコへのこだわり
メニューを見て、思わずにんまり。タラ、鱒、エビ、蟹、そしてタコ!日本人には馴染みの深いタコも、北米のレストランで味わうチャンスは少ない。そこで「タコのテリーヌ」という、ちょっと意表をついたネーミングの一品をオーダーしてみた。
タコの頭から足まで、まるまる一匹を使うこの一品。まずは新鮮な材料を入手する所から、シェフ、カルロスの仕事は始まる。「トロントで新鮮なタコを仕入れるのはとても難しいんだ。うちはケンジントンマーケットで魚屋をやっている友人から、モロッコ産のタコを仕入れているから間違いないよ」という。そのタコを下ゆでし、濾したゆで汁に更に味付けをして弱火でじっくりと柔らかく茹でていく。タコにどんどん味がしみ込んで、水がシロップ状になってきたところで火を止め、今度は冷やす。タコのエキスをたっぷり含んだシロップは、冷えるとゼリー状に固まり、テリーヌになるのだ。
日本の料理を彷佛とさせる、繊細な味わいと美しい盛りつけ
説明を聞いているだけでは、一体どんな料理なのか今ひとつイメージし難かったのだが、「とにかく見れば分かる」「食べてくれれば分かる」を連発するカルロスを信じて待つことに。やがて運ばれて来たのは、妖しい艶のある100%タコのテリーヌ。テリーヌというと、よく魚のすり身や鴨肉などが使われているが、このテリーヌは全てタコ。タコの色んなパーツが見事に、ギッシリと詰まっている。まずは一口。ふっくらとした柔らかさ、そして繊細だがしっかりとした味が口に広がる。旨味を凝縮したようなゼラチンの味がタコによく染み込んでいて、まるで溶けるように口の中で消えてしまう。
そして、サイドには色鮮やかなミニトマトとオニオンのサラダ。こちらもテリーヌの味を邪魔しない、サッパリとしたオリーブオイルのドレッシングとケッパー、パセリで爽やかに仕上げられている。もちろん、全てマーケットで仕入れた新鮮な野菜だ。
タコをイメージしたような、可愛らしい形の小皿に盛られたこのテリーヌ。「おかわり!」と言いたいところだけど、ここはタパスバー。品揃え豊富なスペイン産のワイン、カヴァ、ヘレス(スペインのシェリー酒)とともに、たくさんの小皿料理で楽しい一夜を過ごしたい。
〈文・写真/大村 絵理〉
|