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言語だけでなく、文化も違い、人間自体の質が異なる別世界において、日本と同じような生活をしていこうとする段階で無理があるのかも知れない。それでも、海外(特に余りの寒さで死者が出るような場所)での路上生活など考えもしない以上、当然住まいが必要となり、それを維持するお金は不可欠となり、それを得る仕事は生死を左右する絶対条件となる。
ある日、神がカナダの或る、しみったれた日本食屋に使いを遣したのか、一人の天使が突如私の前に立ちはだかり「私は天からの使い”汚酢使“。左は生、右は死。さぁどちらかお選びなさい」と私に選択を迫った。常に「いつ死んでもいい」と思いながら生きているだけに、あっさり右の死を選ぼうとすると、”汚酢使“は物凄く残念そうに「そう…じゃあ仕方無いわね。来月から貴方が寝泊まりする所はあそこね」と、人間の吐く息が寒さで白くなるように、冬場に限り地球の呼吸とも思える生温かい蒸気のようなものを、もうもうと上げ続けるマンホールを指差して云った。元来何事にも従順な私は、汚酢使の云うことに一切抗うことなく、マンホールでどのように夜を過そうか考え、「あんなトコ、寝泊るどころか命止まって死んでしまうわ!」と、迷わず左の生を選び直した。すると、汚酢使は安堵の表情を浮かべ「じゃあ頑張ってね!」と優しい微笑を浮かべながら、私に”天の羽衣“を手渡した。その羽衣のあまりの美しさに見惚れていると、「じゃあ私はこれで…」を最後の言葉とともに姿を消そうとしたので、せめてお礼だけでもと思い顔を上げると、目の前の天使は店主になっていた。
夢だったのかと肩を落とすも、手には確かに羽衣を持つ感触、サツキとメイのように「夢だけど、夢じゃなかった!」と踊り狂いそうな衝動を抑え、丁寧に羽衣を広げると、所々に油の染みが浮かび上がり、瞬く間に天の羽衣は”天ぷら用の前掛け“に姿を変えた。それと同時に、先程まで小川のせせらぎのように聞こえていた爽やかな音は流しに延々と注ぎ込まれる蛇口からの勢い良い水の音に、意味は分からなくとも心地よく聞こえた妖精たちの囁き声は厨房での中国人の小競り合いに変化した。そして私の両肩に今日からの自分の仕事場が厨房なのだという現実が重く圧し掛かった。が、厨房の中国人がそれを払い除けるように私の肩をポンっと叩き、私に話し掛けた。 「☆@%$¥…£жШИ」
さっぱり意味が分からない。首を傾げ、理解不能と英語で伝えると、「自分が今からやることを手伝え」と云いたいらしく、肉の電動スライサーを取り出し、身振り手振りと2、3の英単語を駆使し、私のすべきことを必死で教え、くれぐれも怪我のないようにと注意した。彼の前向きな姿勢に心打たれ、何とかお役に立とうと昔やった調理補助の仕事を思い出しながら作業に取り掛かると、私の目に突然涙が浮かび出した。すると、急に彼が理解不能な言葉を発し始め、涙の所為か、彼が得体の知れない妖怪に見え出した。そして、ふと手に目をやると、私の右人差し指第一関節が斜めにパックリと割れ、血を噴き出していた。厨房で働き始めてたった10分で私は負傷した。
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