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自分の目の前で起きている出来事に対し「嘘であってくれ!」と心から願ってみた。然し、その嘆願が神様には一切届かなかったのだと、涙が自分の意識から外れ勝手に頬をつたい延々と流れ落ち続けるのに気付いた時、私は知った。 「この現実を受け入れろ!」と強く自分に命令すると、表面上は簡単にその命令に従おうとしていても、奥底の自分は「嫌だ! 嫌だ!」と子供が駄駄を捏ねるかの如く拒み続けているのか涙が止まらず、自分が、悲しくて泣いているのか、辛くて泣いているのか、苦しくて泣いているのか、何故泣いているのか、それすらも分からない状態になっていた。 『彼女が男と2人で夜な夜な遊んでいた』 其処に嘘は無かった。然し、何処までの関係になっているのかは分からない。もしかすれば、単に趣味が一緒で気の合う仕事仲間が偶然男性であっただけで、何一つとして疚しいことをしていないのかも知れない。彼女がその男性と漫画喫茶やカラオケといった他を遮断出来る個室のある場所でただ楽しく漫画を読んだり歌っていただけかも知れない。自分にとって都合の良いおぞましい現実から逃避するだけの解釈が次々と生み出されていくが、自分がその男だったとしたら…と考えた瞬間、涙の理由が取り敢えずひとつ分かった。 私は悔しくて泣いていた。 自分がその男だったら… 別に彼氏が居ようが居まいが関係無い。自分のお気に入りの女性が目の前に居る。しかも、個室で邪魔は殆ど入らない。となれば、キスは絶対しようと試みる…そして、キスが成功したなら、自分の身体に力が入るのとは逆に相手の身体を解そうと、利き手が勝手に胸元をまさぐり出し、その手は次第に下へ下へと… してはいけない空想が普段し慣れてるエロ妄想の勢いを借りてか瞬く間に広がっていき、発狂しそうになるほど自分自身を精神的に追い込んだ。それでも、恐いもの見たさなのか、興味本位なのか、「そいつとは何処までやったんや?」と訊きたくて仕方無かった。然し、自己防衛本能とでも言おうか、この質問に対する答えを聞いた瞬間、完全に自分を見失ってしまうような気がした上に、私が現段階で彼女に何も無かったと信じるように努め、彼女が私に謝罪し、その男とはもぅ二度と会わないと約束してくれれば、何とかギリギリ許せて、私の心の中だけで翌月に準備していた『彼女の両親に結婚の承諾を得に行く』というプランを決行させることが出来るような気がしただけに、自分が今からしようとしていることが原子爆弾投下のスイッチに手を掛けている並に取り返しのつかないことをしようとしているのだと思え、少し冷静さを取り戻し、喉元まで出掛かった言葉を何とか飲み込んだ。 そして、もしその男が好きならそんなお前ごと愛してやるという気持ちで、彼女が、9年間2人で築いてきたものの大切さを理解してくれていると信じてこう訊いた。 「俺とのことはどうするつもりやねん?」 すると、彼女は私への謝罪の気持ちをブラ下げながら潔くあっさりと言った。 「潮時やな…」(つづく)
nob morley 吉本新喜劇で活躍中のお笑い芸人。過去の恋愛話を長々とするつもりは無かったんですが、書き出したら思い出が溢れ出てきてしまった…泣。
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