キャシーの日々ハッテン day.103(2015年9月18日記事)

『キンキーブーツ』を見に来た親子

ずっと見たかった『キンキーブーツ』のブロードウェイ・ミュージカルがトロントにやってきた。『ブロークバック・マウンテン』と並んで、お気に入りのゲイ映画が『キンキーブーツ』だ。あの名作がどうミュージカルになっているんだろうと期待しながら、パンフレットを手に握って客席に着いた。ふと周りを見渡すと、真後ろに子連れの母親が座っていた。「どんなミュージカルなの?」と興味津々な子どもに、その母親は少し言葉に困っていた。

それもそうだ。キンキーブーツを和訳すれば「変態長靴」となる。絵本や教科書に出てくるような物語では決してない。「ステキな男性たちが派手な女装に身を包んで、歌ったりダンスしたりするミュージカルだよ」と巧みに答えたその母親の声から緊張が伝わって来る。しかし、そんな答えじゃ子どもは満足できない。「で、それって男の人なの? 女の人なの?」振り返らなくても、その母親が頭を抱えているのがわかる。下手に答えれば、周りに座っている観客に失言を聞かれてしまう。早く答えないと、「どっちなの?」と聞いてくる子どもの声がどんどん大きくなっていく。もう逃げ場はない。その瞬間、照明が落ちて辺りが静かになった。ショーの幕が上がるのだろう。「シーッ!」と子どもに言い聞かせて、その母親は命拾いをした。

久しぶりに『キンキーブーツ』の物語に浸って、意外なことに気付いた。ゲイやドラァグクイーンといった、社会からは子どもにふさわしくないと思われているトピックを扱っているのに、内容自体はどこまでも王道なのだ。自分とは違う人間を受け入れるとはどういうことなのか。派手な衣装や迫力ある歌とダンスを楽しみながら、そんな道徳の授業で出てきそうな大事なテーマをスーッと学べてしまう。偏見のせいで「ゲイが出てくるから子ども向きではない」と決めつけてしまっては、大切なことを学ぶチャンスを失ってしまう。それではあまりにもったいない

ミュージカルの幕が下りて、まだスタンディングオベーションの興奮が覚めやらない中、後ろからまた子どもの元気な声が聞こえてきた。「ドラァグクイーンたち、みんな超カッコよかったね! あのブーツ欲しいな!」。もうすっかり男か女かどうかという質問は忘れているようだった。


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