キャシーの日々ハッテン day.125(2016年8月19日記事)

差別に礼儀正しい街

蒸し暑い中、日陰のない通りを歩いていると看板の可愛いカフェの前を通りかかった。ひんやり冷たいアイスティーでも飲んで一休みしようと中に入ると、とてもトロントらしい光景が目に入った。「30年前のカナダは白人国家だったのに、今はすっかりアジア人に占領されてしまった」その声の方向に目を向けると、杖をついた白人のおじいさんが座っていた。一人でテーブルに座っていたそのおじいさんは大声で独り言を話しながら、周りを見渡して反応を期待していた。カフェを見渡すと、みんなそのおじいさんと目を合わせないように聞こえないフリをしていた。なんとも居心地の悪い空間だ。アジア人としてそこで言い返すこともできたかもしれないが、朝からずっと歩いていて汗びっしょりだったから、とてもそんな気分ではなかった。少し座っていく予定だったが、考え直して持ち帰りカップに変えてもらった。

「ちょっと、人種差別なら他でやってよ」カウンター越しでアイスティーを入れてくれていたおばちゃんは慣れたようにそのおじいさんの独り言に割り込んだ。「人種差別じゃない!」怒りながら反論した後、そのおじいさんは下を向いて黙った。ずっと沈黙していた周りの人たちはスイッチが入ったかのように会話を始めた。さっきまでの気不味い空気がウソのようだ。「ちょっと涼んでいったら?」おばちゃんは持ち帰りカップに入ったアイスティーをテーブルまで運んでくれた。言葉に甘えて、まったり座ることにした。

トロントは礼儀正しい街だ。一方で、差別に対しても礼儀正しすぎることがある。多文化共生の街だから、みんなが仲良く共存しているときは誇らしいが、そこに存在する問題には目を向けない人が多い。目を向けたくないのだろう。無視すればまた平穏な日常に戻ると思っているのかもしれない。しかし、ダイレクトにその問題の影響を受ける人からすればそれは深刻なことで、自分の力だけではどうにもできないときもある。だからこそ、こうして声を上げてくれる人の存在は頼もしい。差別は差別であると口にしてくれる人がいるからこそ変化が起きる。アイスティーをあっという間に飲み干して、また外の灼熱に戻った。



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