デリヒさんインタビュー その1

今回は筆者がライヴを見て虜になったモンゴルのアーティスト、【デリヒ】さんにメールインタヴューすることができました!内モンゴル出身の【デリヒ】さんは、モンゴルの伝統楽器を駆使して、“伝統(民族)音楽(※1)と現代音楽(※2)との融合”を模索されているアーティストです。伝統楽器を演奏する腕前もさることながら、伝統楽器を使いながらも古さを全く感じさせないアレンジも秀逸です!10種類以上の伝統楽器とモンゴルの歌唱法「ホーミー(喉歌)」を駆使して、モンゴルの雄大な自然や、誰もが共感できる家族への思いなどを歌にします。これまでも世界約10か国でパフォーマンスしている国際的なアーティストでもあるのです。そんな【デリヒ】さんの音楽にどこか懐かしさを感じるのは、私たちが日本人だからなのでしょうか?それとも他に理由があるのでしょうか。“懐かしいのに新しい”【デリヒ】さんの音楽に迫ります!まずは【デリヒ】さんをご存知ないかたのために、こちらの映像をご覧ください!



こちらはコンサートの最後に演奏されることの多い「Glassland」(「草原」)という曲です。今回のアルバムには収録されていません。ループマシンを駆使してモンゴルの民族楽器の音を重ねる斬新な手法を取ります。“民族音楽と現代音楽の融合”と評される所以です。


―イベントでは、デリヒさんご本人のパフォーマンスだけでなく、モリンホール(馬頭琴)などを使って他の方々と演奏された「no woman no cry」などからも、モンゴル音楽の可能性を感じてしまいました。まずは簡単に、モンゴル音楽の起源はどこにあるのか、お教えいただけますか?

「モンゴル音楽はモンゴル人の遊牧生活から自然に発生したものです。モンゴル独自の音楽だと思っています。」


―デリヒさんの音楽は、「古いものの良い部分を残しつつ、現代に聴かれるべきものとしてアップデートされたもの」と感じました。モンゴルの「伝統音楽と現代音楽の融合」を目指してきたデリヒさんですが、これに関して最も苦労された部分はどこですか?

「苦労したことといえば、何よりも「時間がかかる」ということです。アンプやピックアップをどうやってループマシンに繋いだらよいか。また、今は絶えてしまった昔の楽器(※3)を「復刻」させることは大変な労力が必要でした。そして、アレンジにもとても時間がかかりました。以前、古い機材を使っていた頃は大変でした。いい音も出なかった。だんだん機材を良いものに変えていき、綺麗な良い音が出るようになってきました。」


―リズムが単調ではないことも、西洋的なダイナミズムを感じる所以かと感じられました。伝統的な楽器を使い、西洋的なリズムを取り入れる中で工夫したことはありますか?

「ロックやジャズは、そのままのリズムではどうしても合いません。民族の色彩を残しながらも、うまくアレンジすることを心掛けました。そして新しいやり方を考えだして、気に入ったアレンジをすることができました。」


―デリヒさんは少年時代からモンゴルの伝統楽器に親しんでいらしたようですが、モンゴルの方々にとってこれは一般的なことでしょうか。例えば、モンゴルではギターよりもモリンホールのほうが手に入りやすいでしょうか?

「私の子どもの頃は、今とは違って普通の生活(※4)の中に楽器もなかったし、またそれをやるチャンスもほとんどない時代でした。しかし私の家には何故か古い「イギル(※5)」や「四胡(※6)」があって、私はよく両親が寝ている間に草原に行って演奏していました。両親にそのことがバレると、いつも怒られたものです。また、よく夕方6時くらいになると近所の人たちが集まってきて、一緒に食事したりしました。皆で歌ったり、踊ったり。私は遊び半分で楽器を演奏したりしました。

昔は、ギターやベース、ドラムなどの洋楽の楽器をやっている人はほとんどいませんでした。私が初めてそれらの楽器を見たのは、おそらく小学校の4年か5年生の頃ではなかったかと思います。

今はギターとかベースをやっている若者はとても多いです。実はここ10年ほど、若い人たちの中でも、馬頭琴やホーミー(ホウメイ、喉歌)をやる人も増えているようです。しかし、ギターを弾いている若者の方が多い。馬頭琴人口よりも、ギター・ピアノ・ヴァイオリン人口の方が圧倒的に多いと思います。 」


―楽器について教えてください。ライヴで「大切にしている」と仰っていたモリンホールは、2本の弦を弓で弾く弦楽器ですね。この楽器はどこからモンゴルに伝わってきたのでしょうか。モンゴル人の魂の源とも言える楽器なのでしょうか。

「馬頭琴は数千年もの太古からあったという説もありますが、詳しくは分かっていません。しかし少なくとも、ヴァイオリンやチェロといった西洋の弦楽器よりは古い歴史を持っています。

馬頭琴は“草原のチェロ”などと呼ばれたりもしますが、遊牧生活の中から自然に生まれた楽器です。モンゴル人は馬を愛し、とても尊敬しています。馬頭琴は馬のために作られた楽器。だから、馬の嘶き(いななき)や走る音を表現することができるのです。(※7)


―ライヴではヴァイオリンにも似た音の出るモリンホールの音色にうっとりとしてしまいました。モンゴルの弦楽器は、ショオドラガ(三線)にしても、棹の部分が長く、共鳴箱(ギターで言うボディ)は四角いですね。これには何か理由があるのでしょうか。

「世界には様々な民族がありますが、各民族が生活によって使う器具も全く違っています。草原で暮らすモンゴル民族は、家畜を遊牧したり、チーズなどの食べ物を作ったり、衣服をこしらえたりするのに色々な器具を使ってきました。そういった生活の器具から発展していったのが「楽器」ではないかと思っています。例えばモンゴルでは、水を汲んだりするのに柄の長いレンゲを使います。それに皮を張り、弦をつけて、楽器になったのかもしれません。そうやって生活用品が少しずつ変化していって、今のような楽器の形状になったのではないかと思います。馬頭琴は、自分が愛していた馬の頭を楽器の頭につけたものです。そして牛の革を張り、馬のしっぽで弓を作ったのです。」


―口琴・アマンホールについて、この楽器は音を出すのがとても難しいと聞いたことがあります。とても神秘的で不思議な、時間軸まで歪んでしまうような音が出ますね。遊牧民が使っているという、この楽器のモンゴル音楽での役割・意味を教えてください。

「モンゴルの口琴は、ユーラシア大陸北西部の「ウイグル」や「トゥバ」などの地域で発達したといわれています。モンゴルでは複数の音を同時に出す楽器を「チョール」といいますが、口琴もその仲間です。 自然の川の流れ、鳥のさえずり、小動物の鳴き声など、自然の生活の中にある音をイメージして、それを口琴で表現することができます。(※8)


※注釈

※1)その国や地域に古くから伝わる音楽。日本では雅楽・神楽などがこれにあたります。【デリヒ】さんはモンゴルの古い楽器を復刻して練習し、モンゴルに伝えられてきた伝統音楽(民族音楽)を再現しようとしています。また個人のアーティストとしての活動以外に、内モンゴルの国立音楽楽団に所属し、馬頭琴代表として世界をめぐる活動もしています。

※2)西洋音楽の流れを汲む音楽を指しますが、ここでは広く「時代の最先端の音楽」といった意味を表します。【デリヒ】さんは民族楽器を駆使しつつ、民族音楽をブルースやロックに近い形で提示しています。

※3)ここではモンゴルの伝統的な縦笛(モドンチョール)、三線(ショオドラガ)を指します。モドンチョールは穴が3つしかない縦笛で、ホーミー(喉歌)をしながら音を出します。【デリヒ】さんの三線(ショオドラガ)は、実家で飼っている羊の皮を使って、ご自身で作ったものなのだとか。

※4)内モンゴルの人々は、草原で遊牧生活をしています。草原にゲル(テント)を張り、羊を100頭くらい飼って自給自足の生活をしています。馬は移動にも欠かせない存在で、人間の次に尊敬されています。

※5)イギルは、馬頭琴(モリンホール)の先祖となった伝統楽器。イギルチョールともいいます。

※6)四胡(しこ)とは、二胡の弦が4弦となったモンゴルの伝統楽器。

※7)遊牧生活の中で、羊を主食とする内モンゴルの人々ですが、日本人のように馬肉を食べることはないのだそうです。馬は人間の次に大事な存在で、【デリヒ】さんは演奏の最後にお辞儀をする際、馬頭琴にもお辞儀をさせます。馬頭琴(馬)も一緒に演奏してくれた仲間なのです。

※8)口琴は、ホーミーをしながら音を出すことで、様々な音を表現できます。口琴だけの曲も【デリヒ】さんのCDに収められています。




Information


『Delehei』

今年日本でリリースのアルバム。【デリヒ】さんのホーミーから始まり悠久の自然が感じられる1曲目の「大河」、先述の「アマンホールの調べ」、馬に乗って恋人に会いに行く、はやる心を表した「恋する人」などの11曲(ボーナストラックを含む)を収録。
馬の嘶きや走る音も随所に聴くことができます。何度も聴いてみると、その度に発見のあるアルバム。



第一回はここまでとなります。続く第二回では、喉歌(ホーミー)についての【デリヒ】さんの深ーいお話を掲載予定です。地平線が見えるほどの大自然に囲まれて生まれたモンゴル音楽。雄大な自然世界で生まれた悠久の音楽、それがモンゴル音楽なのです。次回もお楽しみに♪

デリヒさんインタビュー その2はこちら


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