デリヒさんインタビュー その2

【デリヒ】さんの取材記その2では、モンゴルの神秘的な多重唱法・喉歌(ホーミー)や、彼の哲学の部分に迫っています。読んでいただければ分かりますように、ホーミーはお腹に力を入れて息を吹き込みます。「魂」が入っていないと、ホーミーは上手くできないのです。モンゴルの内蒙古民族芸術楽団に所属し、首席馬頭琴奏者でもある【デリヒ】さん。この楽団で日本全国を回った経験があり(1998~1999)、これが日本にご興味を持たれたキッカケになっています。08年には来日して音響の専門学校に通い、最新の機材についても勉強を重ねたようです。現在のループマシンを使ったパフォーマンスを始めたのは2011年のこと。伝統楽器の確かな腕前と、ループマシンを使った斬新なパフォーマンスで私たちを魅了し続けます。



「Tom gol」日本語で「大河」という曲のライヴバージョン。日本盤の1曲目に収録されています。【デリヒ】さんの深遠な世界観を表すホーミーに始まり、ループマシンで伝統楽器の音を重ねていきます。


― 喉歌についてお伺いします。モリンホールの音色とともにデリヒさんの喉歌(ホーミー・モンゴル音楽特有の歌唱法)にも魅了されました。ホーミーの歌い方について、簡単に説明をしてくださいますか?

「ホーミー、アマンホール(馬頭琴)、モドンチョール(※9)、イギルチョール(※10)は、皆ひとつの「家族」です。お腹を使って、そこに「火」を入れて(※11)、喉と口を使って「息」を入れて音を出し、高音でメロディを奏でる。これは自然の中で遊牧し、羊や馬の音を聴きながら生活してきたからこそ生まれた歌唱法です。
ホーミーは、「地球」と「人間」「天空」そして「太陽」を象徴していると思います。低音のドローン音がなければ、ホーミーではない。それではホーミーは成立しないのです。それはまるで、太陽がなければ、すべてが存在しないのと同じです。またもし、地球がなければ、水がなければ、そして人間がいなければ―すべてがなくなってしまうのと同じことなのです。」

― ホーミーで歌い方を変えることにより、聴いていて、一人で歌っているのに数人で歌っているかのような感覚に陥りました。これは意図的なことでしょうか。

「ホーミーは同時に複数の音が出るので、大勢で歌っているように聴こえるかもしれません。しかし、それは決してワザとそう仕向けているのではありません。自然にそうなるものなのです。それこそがホーミーの素晴らしいところ!ホーミーこそ自然なのです。実は自然界にはたくさんの音があります。人間の耳には聴こえないだけなのです。」

― ホーミーの歌唱法は、西洋のロック~メタルで言うクリーンヴォイスとアンクリーンヴォイスとの使い分けにも通じるように感じられました。いわゆる“デスヴォイス”と呼ばれる、こうした歌唱法はご存知でしょうか?

「ホーミーとデスヴォイスは全く違うものです。ただ少し似ているところがあるかもしれません。ホーミーにはいくつもの種類があって、その中でも「ハリガラ(カリグラ)(※12)」という超低音の唱法は、デスヴォイスと似た音に聴こえるかもしれません。」


― ライヴについてお伺いします。ループマシンを使って即興でライヴを行うようになられたのは2011年ごろとのことですが、ヒントとなったミュージシャンやきっかけになったことがあれば教えてください。

「1998~99年にかけて、ライヴをしながら日本全国を回ったことがありました。ある時、どこかで、アメリカの著名なベーシストであるヴィクター・ウッテン(1964~)のライヴ・ビデオを見たのです。彼はライヴ中、1トラックだけ録音をして、その上に音を乗せていくというパフォーマンスをやっていました。「これはとても面白い!」と感じました。
やがて、沢山のトラックが重ねられるループマシンが開発されました。そこで、ループマシンにモンゴルの色々な伝統楽器の音を入れて、新しい作品を作ってみたいと思いました。」


― さかのぼって08年に日本にいらして音響技術と日本語を学ばれたとのことですが、日本を勉強の場として選んだ理由があれば教えてください。

「留学する以前に、内蒙古民族芸術楽団(※13)という楽団の仕事で日本各地を演奏して回ったことがありました。その時に、日本人の仕事のやり方、特にレコーディングの方法などを見て、とても素晴らしいと思いました。またモンゴルに比べると音源もとてもいいし、機材の面でもモンゴルでは買えないものが日本では容易に手に入れることができます。もちろん、モンゴルにも楽器店はありますが、種類が限られてしまうのです。
そして何より、日本はモンゴルから近いです。世界中のことが見える国でもあります。日本であれば、モンゴル民族の音楽をきちんと人々に聴かせるための音楽作りができるのではないかと感じました。日本で勉強したいと思ったのです。実際、今使っているループマシンもWAVEDRUM(KORG製)も皆、日本で手に入れたものです。
日本に留学したことで、自国の文化を外から見直しながら、日本の文化の良さを吸収することができました。本当に良かったと思っています。」


― デリヒさんの音楽にはロックの要素だけでなくジャズやブルースの要素も多く含まれています。モンゴルでの情報源はどのようなものがありましたか?影響を受けたミュージシャン、今現在よく聴いていらっしゃるミュージシャンを教えてくださいますか?

「15~16歳の頃は、ロック、ブルース、ジャズなどジャンルを問わず、いろんな音楽を聴いていました。パンドラ、マイケル・ボルトン、ホイットニー・ヒューストン、りんけんバンドなどを特によく聴いていました。ジャニス・ジョプリン、ジミー・ヘンドリックスも好きでした。それ以外も、少数民族の音楽やワールド・ミュージックも聴きました。とりあえず何でも聴きまくっていました。
20歳の頃は、ライヴなどのギャラが入るとすべて、CDやミュージック・ビデオに使ってしまいました。2011年以降は自分の音楽を作ることに専念しているので、あまり他の音楽は聴いていません。たまに聴く程度です。」


― デリヒさんはライヴでも「音楽はなくてはならないもの」と仰っていました。デリヒさんにとっての音楽、音楽で伝えていきたいことはどんなことでしょうか。

「世界中を回って、モンゴル民族の音楽を多くの人に聴かせていきたいです。
子どもの頃、朝起きて顔を洗う時に、井戸水を使いました。井戸水は自分だけのものではありません。タライに注がれた水は、汚さずに綺麗に使えば、また次の人も使うことができます。井戸水は誰のものでもなく、皆のものなのです。
遊牧民は、モノを大切にします。この世界を「母」のように守ろうとします。今の時代は、そういうことをもっと大事にしたほうがいいと思います。確かに社会は発展したかもしれませんが、人間は自然やモノを大切にしなくなってしまいました。
私の音楽は、すべて「自然」から生まれています。自然を大事にすることは、人間にとって長い将来・これからの未来を大事にすることに通じると思っています。」


― 「懐かしいのに新しい」音楽を作り、伝統音楽を「今聴くべき音楽」として提示しているデリヒさん。今後の音楽の目標について聞かせてください。

「今後も、自分の民族の音楽を中心にして音楽作りをしていきたいけれど、次のアルバムは全く違う音楽になるかもしれません。これからも自分独自の音楽を作って、パフォーマンスしていきたいです。そして、世界中のミュージシャンとセッションして、いい音楽を生み出していきたいと思っています。」

― 日本のファンの方々、このインタビューをきっかけにデリヒさんのファンになられたカナダの日本人の方々に、一言お願いいたします!

「かつて日本で4年間、生活をしながら学校へ行って勉強したり、ライヴやコンサートをやったりしましたが、行く先々で出会った日本人はみな、優しく接してくれて、応援してくれました。本当にありがたいと思いました。今も日本に来るたびに日本の友達は変わらず、私を応援してくれています。そういった日本人の大切なファンの方々の輪は、どんどん広がっているように思います。心から感謝しています。
もっともっと世界の多くの人々に、自分の音楽を聴いてもらいたい。そして幸せになってほしい。カナダにも行きたいです。カナダの皆さんにも、私の音楽を是非とも聴いてほしい!
私は世界中に行って皆の前で歌い、演奏して、パフォーマンスをして、皆の「幸せの顔」を見たい!と心から思っています。」




「アルダルガナ」永遠に変わることのない、普遍的な両親のわが子への愛情を歌った曲。日本盤のスペシャルトラックには、この曲の日本語バージョンがおさめられています。柔らかな楽器の音色がどこか懐かしく感じられます。

※9)モドンチョールとは、第一部にも出てきましたが、モンゴルの伝統的な縦笛を指します。今ではこの縦笛を吹けるのも【デリヒ】さんだけになってしまったといいます。
※10)イギルチョールは、馬頭琴の基となったモンゴルの楽器です。
※11)丹田(たんでん)と呼ばれるお腹の中心部にエネルギーを入れます。魂を入れているとも言えます。
※12)ハリガラ(カリグラ)について、「ハリガラ」はモンゴルの言い方、カリグラはトゥバの言い方です。どちらも超低音のホーミーで、デスヴォイスに似ています。
※13)【デリヒ】さんはこの楽団の首席馬頭琴奏者です。

~自然から生まれたモンゴルの音楽。モンゴルの音楽を、自然を愛することは、私たちの将来を大切にすることにつながっていくと【デリヒ】さんは訴えます。そして音楽を聴いて幸せになれる瞬間は、とても尊い時でもあります。今回のインタビューでは、【デリヒ】さんの哲学に迫ることにもなり、筆者もとても光栄な経験をさせていただきました!【デリヒ】さん、ありがとうございました!!次のアルバム、そしてカナダや日本でのライヴを楽しみにしています♪

デリヒさんインタビュー その1はこちら



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