蔵の道其の四十七(2016年6月3日記事)

熊本大地震と酵母

2016年4月14日午後9時26分、熊本県を中心に震度7の大地震が発生して、大きな被害をもたらしました。5月25日現在で、死者69人、行方不明者1人、負傷者1,676人。地震直後の避難者は最多で18万人以上に上りました。

そんな熊本県は、実は日本酒の長い歴史の中で重要な場所でもあります。熊本県には「香露」という銘柄を醸す、熊本県酒造研究所という蔵があります。この「香露」の蔵は、実は「協会9号酵母」の発祥の地として大変有名です。

熊本県の「香露」の蔵で見つかった香露酵母(熊本酵母)は当初、一部の他の蔵に提供されるだけでした。しかしその評判が高まり、全国から要望が多く寄せられるようになったため、日本醸造協会がその酵母を譲り受けて協会9号酵母になりました。

協会1号から18号まである協会酵母は、日本醸造協会が全国の酒蔵に提供しており、高品質な酒造りをするうえで大きな原動力となっています。その中でも協会9号酵母は特別な存在で、昭和から平成の初めにかけて、日本の「吟醸酒」を牽引した酵母でもあります。


そんな日本酒の一時代を築き上げた協会9号酵母の元となる香露の酵母。酵母は冷蔵保存が必須ですので、地震で電源が落ちてしまうとダメになってしまいます。そうなれば、日本の醸造業界の「宝」を失うことになり、あまりにも大きな痛手になってしまいます。今回の熊本大地震ではたして香露の酵母はどうなってしまったのでしょうか…?

そんな懸念をしていた時、香露の森川杜氏から電話がありました。九州は台風が頻繁に通り停電するため、自赤発電装置をすでに導入しており、酵母の冷蔵庫は全く問題がないとのことでした。さらに酵母の保存技術が発達していて、今では酵母を乾燥させて常温保存もできるようになったそうです。「乾燥常温保存もバックアップのためにしており、二重の対策をすでに施していた」とのことでした。「熊本酵母は香露のものだけではない。必要としてくれる蔵が全国にあるので、しっかりとした管理を整えています」と森川杜氏。本当に素晴らしい考え方です。ぜひ熊本のお酒を飲んで、復興の応援に繋げていきたいと思います。


<「蔵の道」一覧へ

<コラム一覧へ