のんびりアート Vol.55

大きい絵小さい絵

(2011年07月15日記事)


アデレイド通り西、ジョーンとダンカン通りの間にある、トロント・ファイヤー・ステーション332の入り口横に、ビルボード広告用の大きな壁面がある。ビルの3階目の天井ぐらいまでの高さがあるだろうか。その高さと同じ程の横幅がある白のスペースに、ある日、4人のアーティストがアイパッド2の広告をエアースプレー・ブラシで描いていた。それを真下から見ていた僕に上から声がかかって来た。おどろいて声の主を良く見ると…だれだっけ? そうだ、10何年は会っていないジェルミーさんではありませんか。高い所の部分を描くのに組み立てた足場の上から地上に降りて来たジェルミーさん、その後、1時間ばかりも僕と話をした。ほかの3人は上で仕事中なのに、僕との会話にこんなに時間を使っていいのだろうか? と最初、気が気でなかったのだけれど、現場の雰囲気から察すると、どうやら彼がこのグループのボス、つまり雇い主の様だ。

絵の描写に使うペイントは水溶性のアクリル絵の具で、ジェット噴射するエアースプレーのノズルは線の太さの違う4種類ほどを持っているとの事。その中に日本製の物もあって、なかなか調子がいいらしい。仕事としては、雑誌や新聞サイズの広告原稿(主に写真で、人物、商品、風景と色々…)を受けとり、それを超拡大してビルの壁面に描く訳なのだ。人物などは似ていなければならず、また、単純な絵柄もあれば複雑な物もあったりで、特別な技術と経験を必要とするのであろう。

ジェルミーさんの話によると、彼の仕事もコンピュータ・デジタルの風に追われぎみだとの事。言われてみれば、最近、壁面に直接描いた絵ではなく、デジタルプリントしたのを壁にピッタリ貼りつけた広告を多く見る様になった。折しも、ジェルミーさんに会う数か月前、AGOで開かれたJ・シュナーベル展を友人と3人で見に行った。彼のアブストラクトの絵も大きかった。アイパッド2の広告スペースぐらいに大きかった。「抽象画は大きい程いいネ。でも結局は人間が造った物。青い空の広がりと白い雲の方がいいサ」Bさんが言った…。

小さい絵の事を書く。Gおじいさんは96年に亡くなる数年前に水彩画を描いた。それまで絵を描いた事がないと言うので、スケッチブックと水彩絵の具を渡し、彼の目の前でトマトを単純に描いた。その後、自分で数種の野菜を描いて練習し、やがては好きな絵柄を雑誌で見つけ、それを自分風に描いたりしていた。よほど嬉しかったのか、人生最後のイギリス行きに、それらの絵を持参して親族の人達に見せた程である。素朴な線と構図がかわいらしく、子どもの絵の様だった。Gおじいさんの絵描きは健康の都合で長くは続かなかった。でも楽しい時間の中で、彼は確かにアーティストだったのだ…。