サンドウィッチのなかみ (2012年8月4日記事)

Vol.33 備えあっても憂いあり 

ぐらぐら~ッ、ときた。とっさに(これか?)と体内の血液が一瞬にして凍結した。4年以内といわれたり30年以内といわれた大地震が今を選んだのか? ところが、だ。〈そのうちおさまるかもしれない〉と机に向かったまま何もしなかったいい加減な自分がそこにいた。家具の転倒防止、ガラスの飛散防止、食器類の滑り止め、停電・断水に備えたポータブル発電機や保存食料品、飲料水。そして脱出の際の防災器具・緊急用品などの準備は想像していた以上の経費をかけて99%完了していた。飛散防止のシートに至っては張ってあるかないか分からないくらい綺麗な仕上がりで、いまやプロの腕前を自負する私。なのに、地震がきたときの私のあやふやな行動が情けない。どうすりゃいいの?
ビル、地下鉄など、場所によって何が起こるかという「想定シナリオ」が内閣府の防災部のサイト(bousai.go.jp/simulator)にでていた。興味深いのは「震度6強体験シミュレーション」。たわいもないテストだがこれがいい。まず家具の転倒防止が出来ているか否か、から始まる。うちは転倒防止を施しているとはいえ、初回のテスト結果は無念の40点。2回目に80点、三度目の正直で100点がとれた。大雑把なテストだが繰り返しやったせいか基本はその漫画とともに脳裏に焼きついている。それと『一日前プロジェクト』の報告書(bousai.go.jp/km)というのもある。「災害の一日前に戻れるとしたら、あなたは何をしますか」と、地震や水害などの被害に遭われた人々からの意見をもとに内閣府防災部がまとめたものだ。 
内閣府防災部以外にも未経験者にとって大地震をより現実的に教えてくれるところがある。池袋消防署の四階にある防災館の地震体験室だ。従来、消防署では火災時の正しい消火器の使い方とか、煙にまかれずに脱出する方法などの訓練が行われてきたが、3・11以来大地震に備えた教育にも力を入れている。コースは約2時間で無料。訓練用の体験室がいくつもある。恥ずかしい話だが、私は消火器というものをこの日生まれて初めて操作した。大きなスクリーンに発火物が映し出されるとそれに向かってみんな一斉に消火器を使って消す。勿論デジタルだから炎は係員のボタン一つでついたり消えたりする。やってはいけないこと―それは炎にホースを向けて消そうとすること。それを私はやってしまった。火の元を直撃しないと本当の消化はできない。自分で消せるのは壁までで炎が天井に達したらさっさと逃げるのがルール。
東日本大地震の被災地を四度ほど訪れた。とはいえ、地震津波がもたらした大惨事を見たり、瓦礫の撤去を手伝ったり、被災者との交流を体験をしただけで、本当の恐ろしさはまだわかっていない。防災館の係員による説明のあと、いよいよ震度7を生身で体験する。小さな体験室にはテーブルのみ。壁に実際の3・11の揺れの映像が映し出されるとそのテーブルも踊りだした。下にもぐり両手で金属製の太い足にしがみついていた私はあまりに激しい揺れのため、頭をその足に強くぶつけてしまった。「いたあ~ッ!」地震によるテーブルの動きと人間の動きが一致しないのだ。テーブルと一緒に移動すればいいなどと気軽に考えていたのは大間違い。家では母に防災頭巾を被らせないとまずい。一緒に参加した友達は体の半分がテーブルからはみ出していたが、後で聞いたら別の人とぶつかって中に入れなかったと言う。家族全員が同じテーブルに潜るのは危険ということか。
カナダに帰ってもこんな体験がいかされるわけではない。といって日本にいても私が家族を守ってあげられる保証はない。去年の大災害は私がカナダに戻った直後に起こった。今は可能な限り自分で出来る準備はしているが、その緊急時を私は一体どこで迎えるはめになるのだろうか。


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