サンドウィッチのなかみ (2013年1月4日記事)

Vol.39 ああ福島

「8時から観たい番組があるの」。味噌汁の具を切りながら娘が言った。ヒレカツを3人分ジュウジュウウ横で揚げながら私は内心感心する。その日の8時はNHKで新しい大河ドラマ、「八重の桜」がスタートすることになっていた。日本の歴史など殆ど知るはずも無い娘がなぜ興味を持つのか?

歴史ドラマの定番といえば水戸黄門、徳川家康・豊臣秀吉、平清盛などなど知り尽くした人達が中心人物。 だが「八重の桜」の主人公は新島八重。私の歴史の教科書にも載っていなかった。京都の同志社大学(旧英学校)の開設者、新島襄といえば団塊族の方たちは知っているはずだが、八重はその妻だった人。会津藩の砲術師範、山本家に生まれて17歳年上の兄、山本覚馬に鉄砲術を習い、24歳にして残虐な会津籠城戦を戦いぬいたといわれる稀なる女武者。夫の死後は日清戦争(1895)及び日露戦争(1905)で篤志看護婦として活躍する。だからドラマになっても当然のお方。

私はここでドラマの宣伝をするつもりは無い。ただ背景が福島と言うことに注目したい。娘が「八重の桜」を見たいと言い出したのも福島県が舞台だからという。話は飛ぶが、福島の原発近くにあった双葉町は震災後、町ごと埼玉県に避難した。そしてその避難所から見た原発と日本社会をドキュメントした映画「Nuclear Nation」(舩橋淳監督)がベルリン国際映画祭で上映されることになり、娘が仕事の傍ら、慣れない福島弁の英訳を仰せつかり徹夜で働いた。娘は震災2か月後に岩手・宮城と被災地各地を私と巡ったが、福島と繋がるのはそれが初めて。だから、福島原発事故を知識として外から眺めるのではなく、福島を自分なりにもっと理解したいという気持ちが沸き、今回の大河ドラマへ発展したらしい。いじらしいというか、けなげというか。テレビドラマのシリーズに取り上げられると舞台になったその土地は観光地化される。ことに日本はこれがうまい。福島県会津若松市には〈大河ドラマ館〉と言うのが出来て1月からオープンした。

50回まで続くこのドラマと平行して福島に観光ブームが来るに違いない。いや、もうスタートしている。鶴ヶ城の天守閣では放送にあわせて幕末をテーマとした展示会を企画している。娘は「復興のためのドラマだ」と言う。そういえば、数日前にも別の番組で「白虎隊」をやっていた。これも会津藩重臣西郷頼母の武勇伝。「八重の桜」にも別の役者で同じ人物が出てくる。幕末から昭和を生きた新島八重に扮するは美人で細身の女優、綾瀬はるか。
60キロの米俵を軽々持ち上げたといわれるがっしりとした体つきの実物の八重とはかなりかけ離れたイメージだが、必ずや視聴者の目を楽しませてくれることだろう。八重ばかりではなく、兄の覚馬(西島秀俊)は文武に秀で23歳で江戸にでて洋学を学び、蘭学所を開設した。あの時代に女性に鉄砲の技術を伝授するとは相当先進的な男で あり、そういう人間がいたこと自体ワクワクしてくるではないか。3・11の大震災後、福島の放射能汚染地域から内地の会津若松市、会津坂下町、会津美里町へ、人々は避難した。そして多くの人が毎日曜日「八重の桜」にチャンネルを合わせるに違いない。新島八重の英雄伝に奮い立たされ元気をもらうかもしれない。

彼女は88歳の人生を全うする。地元の人たちの話題も震災を越えて大きく飛躍するだろう。雑誌、『歴史街道』の初頭で黒鉄ヒロシ氏が「八重に咲く会津の心」として一筆書いておられるが、その締めくくりにこうあった。《…この国のカタチを思い出す為には、会津の心の中に探せば良い。八重の人生をなぞってみれば、その血と筋肉と、骨格とがあらわとなる》上手い味噌汁とヒレカツを綺麗に平らげ、娘と母と私は心をひとつにしてテレビに向かったノデス。


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