サンドウィッチのなかみ (2013年4月5日記事)

Vol.42 『長面(ながつら)』―きえた故

3月22日にこのドキュメンタリー映画を石巻市で初公開した。大きな反響に驚いている。
高台に立つ未来志向の美しい建造物、石巻市遊楽館。このとっておきの素敵な場所が会場。高橋館長さんの計らいで共催となり、ホールとレセプションスペースを無料で提供していただいた。そして予想以上のことが次々と起こる。

震災の映像をみたくない、という風潮が被災地にあるなか、300人ほどの人たちが見に来てくれればよし、としていたところ立ち席も入れて満杯の600人が入った。仮設住宅からも住民がマイクロバスで続々と会場に入る。この映画が受け入れられるかどうかは賭けだった。観客にとっても賭けであったはず。観たくない物を観せられるかもしれないのだから。この映画を観たのは被写体の一人であるトロント在住のモガール和子さんだけ。あとは制作関係者以外誰もいない。溢れるばかりの好奇に満ちた人々の顔を目前に私は心のなかで敬礼した。一年半の時間をかけて仕上げてよかった。
2月に石巻在住の和子さんの妹、福田祐子さんの車で市内を回り、ポスターやチラシを届けた際、地元の新聞社の取材を受けた。記事が広範囲に報道され、興味が広がったことも観客数に加担している。また共催の道の駅【上品の郷】でも入れ代わり立ち代わり事務所を訪れる人々に太田駅長さんが話の合間にチラシを手渡す。

「俺、仲間に話しとくわ。整理券もっと頂戴」という具合に広がる。和子さんもトロントからe-mailで地元の友人たちに呼びかけた。地方は人と人との繋がりが強い。
「お義父さんには昔お世話になりました」と祐子さんに声をかける人もいる。「変なところで繋がっているんだねぇ」とドライブしながら喜ぶ私達。

95歳のお義父さんのいる老人ホームに向かいまた敬礼。映画の題は全壊した町『長面』だがテーマは〔ふるさと〕という概念。『長面』は姉妹の〔ふるさと〕。姉は地球 の反対側に、妹は長面と目と鼻の先に住む。震災2か月後の被災地の人々の暮らしは、共に食べ、よく喋り、笑う、そして時に涙する。繋がりを心のより所に、静かに、ゆっくりと、しかし確実に歩んでいく姿である。現実と向き合い新しい出発をする姉。淡々とした生活から東北の底力がにじみ出てくるのを絵に描いたような妹。2人の結束。被災地には幾度も足を運んでいるが、いつも元気をもらってくるのは私のほうだ。気仙沼の唐桑で瓦礫の仕分けの手伝いをした経験から、家が破壊されることの意味がある程度私は理解できる。吐き出されたものが自分の所有物と同じようなものだったから。しかし私の実家のある練馬区の中村地区が壊滅し、更地になることは全く想像を絶する。瓦礫ではなく、ふるさとを失った人を通してでしか伝えられない無形のなにかがそこにある。

映画の後、トロントの有志から和子さんに託された義援金の贈呈式も行なわれた。カナダから5人の応援団も来た。館長さんは首尾よく、アンケートを用意していて、観客に協力を仰いだ。あとで遊楽館入場者数が最高記録だったと知らされる。この超近代的施設は石巻市の中心部から離れた山の上にあるので、行く機会のない人々にとっては石巻発見のよいチャンスにもなったのではないかと思う。数日後、市から送られてきたアンケートには「感動した」「元気をもらった」「もう一度みたい」「素敵な施設」「素晴らしい会場」等々が記されていた。今振り返ると、上映側、施設側、観客側とこの3者が一体になり、それぞれにハッピーな気持ちになれた、と感じ たのは私だけではないと思う。上映会の翌日、6月の再上映が決まった。また石巻へ行く。ふるさとを失った多くの人たちに観て欲しい。そして理解出来ない私達に教えて欲しい。もっと心がシェアできるように。


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