サンドウィッチのなかみ (2012年7月19日記事)

Vol.44 気ままな二人旅

日本とカナダを行き来していると落ち着いた時間が取りにくい。それが旦那との時間。高齢が進んで大分行動範囲が狭くなってきている彼。2人で気ままな旅行ができるのも今のうち。そしてNewfoundlandの西海岸とLabrador行きが決定。TorontoからDeer Lakeまでの直行便と、初日と最終日のB&B、そしてレンタカーをおさえれば間は何とかなる。相談してから1週間で話がまとまった。5月24日に出発して2週間。ちょうど観光ラッシュが始まる寸前だ。シーフードに胸が膨らむ。

NewfoundlandのViking Trail 430号線を北上していく。Port au Choixでは蝦工船がちょうど荷揚げをしていた。航海中シーフード三昧かと船員に聞けば、「ポークだよ」と期待はずれの返事が返って来る。「中に入ってみるかい?」といわれ、では失礼、と手をとってもらって漁船にお邪魔する。旦那は車で待機。私は立派な船長室やデジタル化した操縦装置に目をみはる。帰り際、「これもって行きなよ」といって大ひらめの切り身の入ったビニール袋を差し出される。礼を言って受け取るが生は持ち歩けない。朝食をとったレストランに戻りお願いして道中のスナック用に調理してもらった。そしてLabradorに渡るフェリーの中でひらめ三昧は終了。

Labradorの叩きつけられるような強風にさらされ、顔のシワが一段と増えてしまった。が気にしない。大草原を思わせるような平原がL'Anseau-Loupの高台にあるB&Bの眼下に広がっていた。強風の青空にバタバタと大胆に踊るシーツの音が今でも懐かしく響く。Red Bay までのドライブは壮観でカナダに何十年も住んでいてもこの国の知られざる美しさにいまもって言葉がでない。RedBayからMary's Harbourは砂利道だが、珍しい地形断層、厳しい山肌、凍った湖など、自然の成す業に私達は幾度も息をのんで車をとめた。Mary's Harbourの古ぼけた安宿のような建物が私達の唯一のホテル。
朝、小さな港に出てみると蟹工船から大量の活きのいいスノー・クラブが荷揚げされていた。船員たちとの会話の合間に旦那が聞く。「蟹を少し分けてもらえませんかね」「工場に行ってみな」。目前の7億ドルをかけて建てたという冷凍工場では町の女性たちが蟹の仕分けをしていた。「日本から1人来ていますよ」と監督風の人が茹でた蟹の足4匹分入ったビニールの大袋を私達に差し出しながら言った。奥から出てきたのは工場員と同じ身なりをした30代の男性。「うっわあ〜ッこんなところで日本人に出会うなんて」。彼も私も地球の果てで懐かしい同朋にやっと出会えたかのように至極感激しあった。彼は蟹をアジア諸国に販売する日本の海産物会社の代表者。蟹をアジア諸国に送り込んでいる。1か月自炊生活しながらこの小さな町の大きな工場で働いている。久びさに頼もしい日本を感じた。日程上Mary's Harbourが私達の旅の北限となり、Red Bayに引き返す。ここは地形的にも大変興味深い。氷山も沖に浮かぶ。16世紀にBasque民族が捕鯨活動をしたところとして歴史的価値があり、展示館は面白い。さて、もらってきた蟹をどうやって食べるか? 旦那は金物屋で食べる道具を買おうというが、そんなものはどこにもない。「その辺にある石で叩けばいいじゃい」。

私は2億年ぐらい経っていそうな岩のカケラで袋の外からバンバンたたいた。粉々に砕かれた蟹の殻を上手にはがしながら、レストランのバルコニーのテーブルをかりて一緒にむしゃむしゃ食べた。

ただだったので美味しさ倍増。病気にもならず、交通事故にもあわず、こうして2人の旅は無事に終わった。そして2日後に成田に飛んだ私。あとには膨大な量の旅の写真。日本で私が整理して帰ってくるのを旦那は楽しみにカナダで待っている。


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