サンドウィッチのなかみ (2013年10月4日記事)

Vol.47 スライドショー 

「ここまでだけなんだけど」といってカナダにいる旦那に見せたニューファウンドランド州の旅行スライドショー。
この旅行から帰宅した翌日に私は宮城県石巻市で拙作『長面』の2度目の上映会のため日本に出発していた。そして母の介護。だから忙しくて約束のスライドショーも日本で完成しなかった。「いい出来だ。本当にいい旅だったなあ。あとが楽しみだね」とたった8分のスライドショーを観て感慨ぶかく彼が言う。2週間で2800枚もの写真を撮ってしまった私達。旅行中は何度も喧嘩して口もきかない時間もあったし、豪雨や濃霧で運転しにくい部分もあった。なのに帰ってきてみるとお互いに感じることは同じなのだ。
「いい旅」。
年とともに私達の感受性は変化しているのだろうか。いいほうに。持って行ったのは2人の小型デジカメ2台と、撮った写真をすぐ東京の娘にメールで送れるように持参したiPad mini。そして大好きな光景に出会ったときに使うフルフレームのデジタル一眼レフカメラ。小型デジカメの目的はお気に入りのレストランやB&B、場所のサインなどを撮る記録写真。コンピューターで4台分のカメラから写真を訪問先別のフォルダーに落とすことは手間のかかる退屈な作業だ。

若い頃私達は同じメーカーの一眼レフカメラをぶら下げ、レンズを交換し合って撮りまくっていた。将来2人で写真展しようナンテ夢も描いたこともある。だがデジタルの時代になると彼は興味を失い始めた。目が悪くなったのも手伝って今はオート設定で時たま撮る程度だ。だが運転だけは好きで譲らない。「ああ〜、通りすぎちゃった」と写真のチャンスを失ったわたしが言うと、「ごめん」といってどこまでも引き返す。そして、私が撮りおわるまで、じっと待っている。絶対にせかすことはしない。
だから彼の好きな地質学的な写真もいっぱい撮る事にしている。
百枚中一枚でも自分で本当に気に入った写真があれば私は本望だ。だから今回の2800枚のなかには何枚もあってもよさそうなのだが…。最終的に決定的な瞬間の一枚を選び出し、日本を出てくる前に写真展に応募した。運よく去年にひき続き、上野の東京都美術館の総合写真展に出品が確定した。旦那も一緒に喜んでくれた。写真の整理とスライドショーの作成は今も続く。場所別、日にち別に並べ、よさそうなのだけ拾っていく。広大な前人未踏の原野、紺青の海原、自然の氷山彫刻、そして突如として でてくる私達の変わり果てた顔。接写で(iPad には三脚がないからこうなる)。素直に受け入れるしかない私のスッピンとやたら目立つ彼の前歯2本。旅行写真は気取らず自然体でいいのだと自分に言い聞かせる。表情をみていると当時の雰囲気が思い出されて楽しい。霧が雨にかわり、私が海岸からなかなか戻らないので心配して彼が探しに来たときに撮った写真がある。
霧に包まれ、遠くからオレンジ色のジャケットを着た彼がこちらに向かってゆっくり歩いてくる。ある時は岸壁の上からふと気付いて撮った、歩きながら浜で石を探す彼の小さな後姿。スライドショーを作りながら旅行先で買ったCDの音楽を、並べた写真と一緒に流してみる。そんな作業を何十回も繰り返しているうち、胸が一杯になり、目頭が熱くなってしまった。私に強烈な印象を与えたのは文明を寄せ付けない、限りなく広い荒野や、悪天候に映える自然の赤や緑、ぬれて輝く久遠の岩ばかりではない。その奥には(2人で過ごす時間があとどれだけ残されているのだろうか)、という別の次元があったのだ。「ああ、泣けてきちゃう」と私がぼやくと、「よっぽど気に入ったんだね。意外だなあ」とコンピューターを覗き込むように彼が言った。


「サンドウィッチのなかみ」一覧へ

<コラム一覧へ