サンドウィッチのなかみ (2013年12月6日記事)

Vol.49 『恥』に欠けるツワモノ  

コカイン吸引発覚から6か月後に事実を認めたもののフォード氏は市長を辞任する気はない。
11月も半ば、トロント市議会の様子がお祭り騒ぎと報道された。ロブ・フォード市長に辞職するか、自ら無期限休暇をとって、薬物やコカイン常習者の治療にはいるかの質疑応答で市長に詰め寄る議員達。女性スタッフに対する品格を欠く言動も世界を驚かせる。彼の政治的功績よりも今や頂点に達した汚名のせいでトロントも日本のテレビ局から取材の依頼がくるほど世界的なニュースになってしまった。トロント市には破廉恥な暴失言や酩酊状態を理由に市長をクビにするという手だてがなく市議会も市民もやきもきしているというのが事態の根本だ。モラルの問題で彼は犯罪人にはなっていないからだ。

フォード市長は記者会見で、否認・弁解・謝罪・挑戦をくりかえし、そのカラフルな発言を面白がってフォード語録を作っている人もいる。オンタリオ州のウィン州首相は関与しないと発表したものの、トロントが市として機能を果たさないのなら対策を考えると発言。機能することを証明するため、11月15日の市議会では市長の緊急時の権限を副市長のケリー氏に委任する議案が出され、ついに反対がフォード氏と兄のダグ・フォード市議会議員のたった2人だけという状況下で可決した。 フォード市長の権限を剥奪し、スタッフを減らし、予算を削ることで実質のない地位にしてしまおうというのが議会の手だ。

これで収まるとおもったら、またしてもフォード氏は裁判で戦う姿勢をみせ、そうなれば税金の無駄使いになると脅す。市議会を超越した独裁者か。 日本なら自ら引退をせざるをえない状況に追い込まれ、謝罪とともに健康上の理由で姿をくらますか、命を絶ってしまう人もいる。申し訳なかった、という遺書があとで発見されたりして。日本社会には辞めれば、あるいは、死ねばお詫びになるという概念が現代社会でも根強い。そして週刊雑誌のネタになって事態は終焉を迎える。これは日本にあってカナダにない『恥文化』が根底にあるためだと思う。さらし者になる前に消え失せるのが武士道でもあるからだ。それがいいと言うつもりは全くないが、フォード氏の謝罪は『恥』とは全く無関係の奇妙で得体のしれないものだ。
この騒ぎのなか、ロブ・フォード人形をUnited Way の募金のため、1000個限定でフォード氏自らが発案して製造させた。1個1個サインをする市長の前は行列の人だかりで人形は半日で完売した。『恥』文化では考えられない異常な神経に世界が注目。 彼の凄みはこんなところにあるのかもしれない。1個20ドルのその人形はネットのオークションで300ドル台から一気に700ドルという値まで出た。 すべてUnited Wayにドネーションされるならフォード氏の恩恵にも繋がるのかもしれないが。サーズ感染病で海外からのトロント観光が御法度になって以来、フォード騒動はこの街を「話題の街」として再度世界のマップに位置づけた。これを書いている時点では彼は来年10月の選挙戦でとことん戦う姿勢だ。

当初は私もトロントの一市民として恥ずかしさを感じた1人だが現在はそれを遥かに超えて市議会の出方を興味深くみている。民主主義が勝利するか。それともこれが民主主義なのか。ある市民は言った。フォードが市長になったときは同じスポーツチームの仲間のような印象があったが今は幼稚園児に成り下がった、と。彼がコカイン吸引の告白をしたときにしていたネクタイがFord Confession Tieとして売り出されたとニュースが入った。売り上げの一部はSickKids に寄付されるとか。フォード氏ほど『恥』と無縁の人なら辞めても生きのびる選択肢はいくらでもあるはず。いよいよ彼が幼稚園を退園した後の将来が面白くなってきた。


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