サンドウィッチのなかみ (2014年4月4日記事)

Vol.53 つながる不思議 

「ジネンジョ送ります」と受話器の向こうで元気な男性の声。「えっ、ジネンジョって何ですか?」地方の野菜に無知な私はヤマイモに〔自然薯〕というのがあることをこの時知った。友人によると高級品らしい。翌日、宅配で長さ1メートルの箱に入った泥だらけの巨大なヤマイモが埼玉から届いた。私の父がよくヤマイモの擦ったのをご飯にかけて食べていたが、母は嫌いだったので調理しても自分では食べず、子ども達もそのまま食べずに育った。だから私も買ったことがない。

東日本大震災から3年が経ち、拙作のドキュメンタリー映画『長面(ながつら)― きえた故郷』が3月7日に東京で上映された。そのとき観客として来ていた宮城県石巻市出身の鈴木さんという男性が自然薯の送り主である。いまは埼玉県の住民だ。 石巻市の〔長面〕と一緒に壊滅した釜谷という村で育ち、子どもの頃大川小学校の裏山に自然薯をよく掘りにいったという。受付をしてくれた女性達に声をかけたところ、全員一致で〔自然薯パーティ〕が決まる。擦ってマグロにかける、ノリで巻いて揚げる、お好み焼きに入れる等々と、複数の料理人が一度に複数の調理をし、ビール片手に様々な自然薯の食感を楽しむ会となった。ことに私は輪切りの生かじり感が気に入った。集まったのは私の後輩と、個人的に良く知らない彼女の友人や顔見知りという程度で学生時代はそれほど近い仲でもなかった女性。

私を入れてこの4人があたかも昔から仲良しであったかのように台所で騒いでいる。この不思議な現象は一体何なのだろう。カナダから来たモガール和子さん(映画の登場人物)と息子のデニス君は日本旅行の初日に上映会に参加してくれた。イベントは観客と舞台のトークで盛り上がった。和子さんの同窓生がオリオンというウェブサイトで上映会の情報を載せてくれていた。その人からの連絡であの自然薯の鈴木さんも埼玉県から会場に駆けつけてくれたわけだ。都会ではあまり知られていない地名〔長面〕がポスターにでているので確かめに電話して来た人もいる。また、遠い親戚が〔長面〕で亡くなったのでもっと知っておこうという思いから参加した家族もいた。それも元トロントの駐在員家族でトロントの住所は私の家の近くという偶然。空が繋がっているように、日本が、地球がつながっているのが今更のごとく嬉しい。驚いたのは昔の仕事仲間のご夫婦が好物の牡蠣を〔長面〕から取り寄せているという。それに〔長面〕を含む石巻市の沿岸地域の復興支援ツアーを去年何回かやったという。十数年ぶりの再会だった。上映後、そのツアーに行ってみたいという人も幾人か出て来た。

震災後整備された被災地では、観光客の数が減り、土産物が売れなくなっているという。いまや三陸復興国立公園や南三陸金華山国定公園地域の復興は観光にもかかっている。震災で繋がった私もまたいつか行くだろう。この日、宮城県の石巻市が死者の数では一番甚大な被害を被ったことを知らなかった人も観客のなかに沢山いた。

『長面』という映画を媒体に新しい繋がりが出来たことは確かだが、上映会がなければこのままずっと一生会わずに終わってしまったかもしれない昔の学友や職場の友も来てくれた。そんな人達との繋がりが復活したことも意外というほかない。新しい友達をゼロからつくるのが難しい昨今、ふたたび繋がる喜びが味わえたのは感動だ。それは若い時よりも繋がる理由がはっきりしてきたからなのかもしれない。

先日自然薯が懐かしくて似たようなヤマイモを初めてスーパーで買った私。だが皮をむいたら手がかゆくなり、擦ったら水っぽくて腰が全くなかった。そうだ、来年は自然薯を求めて埼玉の鈴木さんに会いに行ってみようか。シャベルを持って?


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