サンドウィッチのなかみ (2014年5月2日記事)

Vol.54 まさかの体験  

東京で心身ともにフル回転していたところ母が長期療養型の病院に入院することになり、私は安心したと同時に気持ちに余裕ができていた。にもかかわらず忙しい生活が続き、食生活は外食が主になっていた。そして体型やなりふりも構なくなってしまった。気がつけば、私のウエストラインは消えている。かといって食品天国日本では口に入るものを制限するだけの強い意志をもたない私。どうしたら現状打破できるか。

なぜか捨てずに取っておいた駅前ジムの広告を眺めることしばし。休会制度〔カナダにいる間は会費を払わなくてよい、という意味〕 があるというので思いきって見学に行く。筋トレの機械が所狭しと並び、ヨガ、マーシャル、フラダンス、バレエなど、プログラムにはインパクトがありそうなクラス名が満載。入会の初日、機械で筋トレをしている時だった。横目でガラス越しに見えたフラダンス・クラスにふと気をとられる私。全員中高年の女性達。腰の曲がったおばあさんも結構楽しそうにやっているではないか。トロントでフラに誘われたときはなんでこの私が? とまるで違う世界のことのようで自分がやるものとは思えなかった。次の週にはその私がトレパン姿で最後列に構え、手をひらひらさせて踊っていたのだ。
クラスのあと「ちゃんと踊れてましたね。」とインストラクターが私に声をかけてくれた。大柄模様のフラの衣装がよく似合っているのはほんの少数だが、体操だからそんなのはどうでもいいのだろう。日本のシニアは開き直っている。2週目には私もネットで購入した安いフラのパウスカートをはいて踊りの群れに入っていた。ホンワカ踊っているように見えても踊りの順番を覚えるのが結構大変なのがわかる。だがトレパンのときは気にならなかった大きな鏡に映った自分のパウ姿、あの恐ろしさは何に例えよう。腰を振り手を波のように柔らかく流して踊るのもなかなかフェミニンで新鮮な感じだが 鏡を見たとたん、地獄に突き落とされるような嫌悪に陥る。(見ちゃいけない、見ちゃいけない)と自分に言い聞かせながらパウ姿のきれいなインストラクターだけを必死にみつめて過ごすこと1時間。

かつてトロントの友達に大人のバレエ教室に誘われたこともあるがフラと同じ理由で行かなかった。でもここでならやれるかも、と心が簡単に傾く。本音は同じ会費でできるのだからやらなきゃ損、という経済観念という脳の指令に従ったまでだが。こうしてフラのあと、中高年のバレエクラスが始まる。バレエをするのは私の人生でこれが最後のチャンスになるかもしれないと思えば真剣さも増してくる。実は私は幼稚園のときにバレエで蝶々になったことがある。だからバレエは経験者(!)。そのプライド(?)をもって背筋をピンとのばし、インストラクターについて足を右へ左へとつきだしていく。
フラと違ってバレエは姿勢を精密に保っていないとバランスが崩れる。(うん、なかなかいいぞ)。鏡に映るトレパン姿もどうやら地獄はまぬがれそうだ。筋トレと2つのクラスを終え、ジムの風呂にはいり血液を巡らせるだけ巡らせ自分をリセットする。トロントに戻ったある日、Heart and Stroke Foundationのウェブサイトでストロークのリスク・テストをやってみた。間違ってウエスト63センチと入れたら痩せ過ぎだから体重を増やせとの警告。実際に計ってみたら73センチだったのでインプットし直すと、事細かにどんな体操をどのくらいの頻度でやっているかと質問攻めにあう。状況は厳しくなってきた。さあ、トロントでは水泳とウォーキング、日本ではフラにバレエ。その間に機械の筋トレを少々。開き直りもいれ、これでなんとかなるでしょうかこの体。


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