サンドウィッチのなかみ (2014年6月6日記事)

Vol.55 出かける 

日本から一時帰国してモントリオールに住んでいる娘に頼まれた荷物を届けるため出かけることになった。話すと旦那も一緒に行くという。運転好きの彼は何十年も無事故で誰よりも自信があり上手… なはず。しかし加齢とともに目にも支障がでて最近は休みながら運転してもらっている。残念ながら今回はあまり時間が取れないのでのんびり運転もしていられない。かといって交代運転は喧嘩のもと。

娘に電話で相談すると、「ママの車で来たら?」。そうか、そうすればいつ運転を交代するかは私が様子をみて決めればいいことだ。不服だった彼もなんとか承諾してくれた。地図を広げもう何年もご無沙汰のモントリオールまでの距離を確認するとトロントからノンストップで最低5時間。その夜彼が言った、「電車で行こう」。私は問題ないのだが、旅先で足がないということは高齢者同伴の場合、旅の形がかなりかわる。現地でレンタカーという選択肢もあったが、モントリオール駅に到着しても彼はレンタカーに興味を示さなかった。この時点で私の覚悟も決まる。医者からはもっと運動をするようにといわれているのだが、足が思うようにいかず人の何倍もかかる彼。

B&Bに到着後、娘に会うまでの時間つぶしにショッピングモールPlaceVille Marie(PVM)へ2人歩調をあわせていざ出発。現役時代に彼がそのコンコースのデザインに関与していたことと、隣のビルEdifice Sun Life も彼の父親が設計に加わっていたときているから、親子でモントリオールのランドマークに寄与したことは誇りであり懐かしいのだ。私の中にはせっかくだから彼をそこまで行かせてあげたいという思いと、健康の為に歩いてもらうというエクスキューズが共存していた。だが、高くそびえるビルは視界に入っているのに薄情にもなかなか近づいてくれない。地下鉄を降りると道のレールやビルの壁にもたれてまず一休み。どこを歩いても私の目はあのTを探している。「Tim Hortons だ!」と彼を励ましつつ一歩一歩また踏みだす。
何軒お世話になったことか。コーヒー漬けになりながらやっとPVMの真下に到着。いつまでもビルを眺める彼の姿を私もファインダーから眺める。なんとか娘の事務所付近の地下鉄駅にきた。目前に迫るのは図書館Grande bibliotheque du Quebec。ここに飛び込んだ目的は清潔なトイレとソファだ。モントリオールはトロントと違って地下鉄にも公道にもベンチがない。その割に浮浪者がやたらと目立つ。どうやら市はそういった人たちがベンチを占領しないように故意に置いていないようだ。旦那が休めるベンチは何処にもなかった。それだけではない。ハンデキャップ用のスロープや車椅子用の通り道の少なさにも驚く。私は母の介護で目が肥えてしまったせいでやたら気にかかること数多。

実は娘に会うもう一つの理由があった。彼女の好きなスパのマッサージを誕生日プレゼントすることだ。今、旦那の初参加で3人で初めて一緒にスパ入りし、身も心もリセットした後、タクシーでレストランへと向かう。ただ、この旅で彼はモントリオール現代美術館へ行きたがっていたのだ!調べれば夜9時までオープン。しかしレストランの食事は直ぐきたにもかかわらず、彼は時間をかけ美味しいステーキに舌鼓をうちながらゆっくり楽しんでいる。すでに食べ終わった娘に美術館に先にいって車椅子を用意してもらうように耳打ちする。時間との競争だ。閉館間際で入場券も販売終了になったところを娘が交渉して割引料金で売ってもらい、車椅子を広げて私達を待っていた。旦那は娘に押され、幸せそうに芸術作品を一つ一つ鑑賞し楽しむこと30分。「閉館で〜す」。男の容赦ない叫び声が館内に響き渡った。これでよかったのか?


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