サンドウィッチのなかみ (2014年11月7日記事)

Vol.60 おみやげ

家族から日本からのお土産を頼まれることは殆どない。そうはいってもなにがしか買って帰る。これまでに旦那に喜ばれたのはユニクロの超 Lサイズの下着類。それと魚のみりん干しのようなおつまみや鰹の角煮類。さらには友人がいつも持たせてくれるお煎餅と家族や友達が好きなお菓子類。そんな変わり映えしないものが定番なのだ。だが9月にトロントに帰るときはちょっと変わったお土産が手に入った。

話せば長いが、私の旦那は天体ファン。ひと昔前は自分で天体望遠鏡まで組み立てた情熱派。天文雑誌を購読しスター・フェスタにも毎年出かけている。私はといえば、小学校の理科の時間に習った星座の幾つかをかろうじて覚えている程度。一緒に星空を眺めていても星座を認識するのが遅く、彼と天体の話をするのは苦手な方だ。

羽田出発の二日前に群馬県の日光白根山で星野写真の撮影会があることを知り、企画側がポータブルの赤道儀を無料で貸し出すというのにつられて申し込んだ。星を撮ったことのある人ならご存知だと思うがカメラを三脚に固定して撮影すると、地球は天の北極を軸に自転しているので星は線状に撮影される。星を点として撮影するにはカメラに赤道儀という機材を装着し、星の日周運動にあわせて動いてもらうと30秒以上の露出中にも星を追尾して撮影することが出来るというわけだ。

星景写真や星野写真が鏡筒を使って拡大撮影する天文写真と違うのは、広角レンズを使って、星を欲張って撮れるところにある。 実際にこの赤道儀を使ってみてエキサイトした私は、日本を発つ前に割引で同じものを手に入れた。もちろん旦那にプレゼントするのはこの機器でなく、私の腕! デジタル時代になってから旦那の撮影意欲は消えてしまったので、これで一緒に星を撮ろうという魂胆だ。

撮影当日、闇が訪れる前に機材をセッテイングし、あとは暗がりで操作するのに慣れる。その日は朝から曇りで星が見えるという保証はなかった。待てど暮らせど山の雲は晴れてくれない。気温が下がり、かなり空気が湿気ってきた。企画会社のスタッフからカイロが配られた。何人かが山の神社に願かけにいったと連絡がはいる。すると、ご利益があったのか、見る見るうちに雲がひらけ、満天の星が輝いた。

興奮とともにワーッと歓声が湧きおこる。暗闇のなかを私は天の川を目印に心を躍らせてレリーズでシャッターを押す。30秒から60秒待ってやっと画像が見れるテンポだ。参加者が興奮するなか、星空劇場は15分で幕を閉じた。空からぽつぽつと落ちて来た水滴が次第に量を増し、急いで機材をまとめ、ロープウェイの入り口に皆が集まった頃には大雨となった。土砂降りの中、するりするりと私達は暗黒の谷間を静かに下降する。

白根山2000メートルの頂上付近で撮影した星野写真には肉眼で見るよりさらに多くの星が実に星クズとなって映っている。宇宙とはなんとごみごみしていることか。流れ星も映る。私はどれがどの星座の一部なのか確認しないまま旦那にメールで報告し、帰国する。彼が星の謎解きをしてくれるだろう。

トロントの家に到着するなり、コンピュータで写真を一緒に見た。北極星のそばにあって分かりやすいはずのカシオペア座のWの形がどうしてもつながらない。星がありすぎる。湿気のせいだろうか、輝きの差がはっきりしない。ただ全体的にちりばめられた星は本当に美しい。クリスマスのカードにでもなりそう。やがて私の目がギブアップ。旦那の目も辛そう。「もうやめよう」。

コンピュータの電源を切り、腰をあげた二人。一人で撮った私の星野写真は天の川入りの星クズ写真。次回は目印になる星座を彼に決めてもらい、それを狙って撮ってみよう。湿気のない、空気のきれいなカナダの星空を一緒に眺めるのを初めて待ち望む気持ちになった。


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