サンドウィッチのなかみ (2014年12月5日記事)

Vol.61 本 – 特効薬

団塊族の私にとって人生の折り返し地点は過ぎた。だから人生いかに生きるべきかとか、成功への道とかいう哲学じみた本を読む時期は終わったと思っている。ひと言でいえばtoo late。今となっては自分を肯定し、脳の血の巡りが良くなりそうな面白い本を読む。

レクリエーションとしての読書は読み始めの3ページが勝負だ。惹きつけられない物にダラダラとかじりついていることはない。この2か月半で9冊の本が停滞ぎみの私の脳細胞を活性させた。

日本の本屋の店頭で必ず目立つのが池井戸潤著の『半沢直樹』シリーズ4冊。金融業界の駆け引きを媒体とした青年銀行員半沢直樹の奮闘記だ。2冊目までがドラマとしてTBS系で2013年に放映された。当時、母の状態が悪化して私はテレビどころではなかったので観ていない。番組終了後も半沢を演じた役者、堺雅人氏の写真が街頭に溢れている。最終回では平成第1位の42%(関東地区)の視聴率を獲得したというから覗く価値はある。

買うと決めたわけでもなく立ち読みで1ページ目に目を通したその瞬間から虜になってしまった。新作で4冊目となる『銀翼のイカロス』は 太平洋の上空で一気に読む。役者の独特な童顔が扮するクールで頭脳明晰な半沢の「やられたら倍返し」策略の 一部始終が脳裏に投影された。

日本から持って来た沢辺有司著の新書『ワケありな日本の領土』はカナダから日本を考えるいい材料になった。尖閣諸島や竹島の所有権が論議されるなか、日本人なら知っておくべき領土問題の課題と現状をこの本はわかりやすく分析し、歴史に残る漁師達の動き、中国の海軍力と日本の海軍力の現状と将来などに関して、メディアで混同する報道が飛び交う中、中立の立場から説明している。統治権の議論をする前に必読の一冊かもしれない。私の安倍内閣の集団的自衛権に対する考え方も少し変わって来た。

家の地下室で整理をしていたら35年前に読んだ司馬遼太郎著の『関ヶ原』上中下3巻がでてきた。”関ヶ原の戦い“とは徳川家康勢と、豊臣秀吉の死後に幼少の一子秀頼の天下継承を旗印にかかげた石田三成勢との壮大合戦だ。ちょうど私はテレビで大河ドラマ『軍師官兵衛』(豊臣秀吉の軍師黒田官兵衛の話)に凝っていたのでこの古本がドラマの続きにあたりタイミングがいい。

官兵衛の息子黒田長政は、衰退した豊臣家でなく家康の下で功績を挙げていく。読んでいるうち、気がつけば歴史上の人物と役者の顔が重なり、私の頭の中で新しいドラマが展開されていく。邪道な読書法かもしれないが痛快極まりない。

『関ヶ原』が家康の勝利でひと息ついたころ、娘から『Wild』を渡された。ケベックの監督Jean-Marc Vallée 氏が映画化し、今年のTIFFで話題になった。プロのハイカーでも難所と言われるパシフィック・クレスト・トレイルに26歳で素人の女性が挑戦する実話。94日、1770キロ(約青森から下関の距離)のサバイバルが始まる。

ハイク用品、本、飲料水、食料をバックパックに詰め込みすべて万端のはずが…ハイクの途中で学ぶのが重量の軽減という基礎の基礎。 燃料違いでストーブは火もつかず、買った靴は小さすぎて爪が何枚もはがれ、サンダルにガムテープを巻き付けて歩く日々も。

灼熱の砂漠気候から凍えるような雪山まで頼るのはただひとり、自分。荒野で過酷な試練に会うと人生の苦悩など比較にならないほど微小にみえてくる。この深刻で滑稽な素人ハイクを私はハラハラしながら頭で一緒に体験した。12月に公開の映画はどのように演出されているだろうか。

今回手にした本はどれも大当たり。しかしともすると溺れがちな読書に決めたルールがある。それは、健康の為に意識的に沢山歩いた日にだけ自分へのご褒美として読むということ。これが結構うまくいき、最近ハイキングブーツをはくのが楽しくなった。いつかいいことがありそうな気配がする。


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