サンドウィッチのなかみ (2015年11月6日記事)

Vol.72 男は振り向くなすべては今

いい言葉だ。落語家の6代桂文枝師匠が故藤本義一氏から賜った言葉だそうだ。主語の性はどうでもいい。いいことも悪いことも含めていつまでも過去を引きずっている人は「今」という時間を生きていない。過去があるから今の自分がいる訳で、これからは「今」の積み重ねで残りの未来が出来上がる、と考えればワクワクもしてくるというもの。

一庶民の私にも仕事に生き甲斐を感じた時や人生の底辺の時期があった。でも猛スピードで過ぎて行く人生の中で、振り返っている暇もなくいつも突っ走ってきた。立ち止まって考えたのは、家庭に君臨していた厳格な父があっけなく2000年に逝った時だった。いつかは母も逝く、私も逝く。みんな逝く。それからはやりたいと思ったことは何でもやれるよう自分なりに体制を整えながら歩んできた。歩き出すと不思議と何かが起こる。フルタイムの仕事からフリーランスになり、撮影の仕事をしながら日本とカナダを往復するようになった。そしてそんな生活スタイルだからこそ出来るプロジェクトに自然に出会えるようになる。震災のドキュメンタリー『長面(ながつら)きえた故郷』の制作もその一つだ。フリーになっていたから被災地に飛んで行けたのだ。

「そのうち時間ができたら」とよく聞くが、私は言った覚えが無い。いつも関心のあることには時間を作り、せっせと使ってきた。いまさら止まらない。その流れでこの秋は家族旅行の提案をした。旦那は自主的に巻き込まれてくれる。彼の年齢を考えると娘にも同行して欲しいところだが、モントリオールの娘はいつも忙しい。旦那とはカナダの西も東も行って来たが彼はカナダから出たがらない。さてどこへ?

プリンスエドワード島から船で5時間。セントローレンス湾に位置する人口13,000人弱の12の島からなるマドレーヌ諸島がある。連結した7島はぐるぐる巡っても100キロあるかどうかだ。シニア向きのんびりドライブコースと、アカディアン文化で美味な食が期待できそうだ。旦那はエキサイトし、娘からも珍しくいい返事が飛び込んだ。

余談だがエア・カナダのポイントを使うとトロントからマドレーヌ諸島は往復15,000ポイント。少し近いプリンスエドワード島は25,000ポイントと高い。マドレーヌ諸島は遠くてもケベック州に属するのでオンタリオ州の隣という理屈からだ。

そんなワケで、思い立ってから4日後、旅行の段取りも済んだ。あとは出発まで元気でいること。日本の母も病院で安定していてくれることを願う。地震や津波が避けられない自然現象なら、人間の死も予期出来ない自然現象。だから一応の覚悟はしておくが待つべきものでもない。すべては「今」、と再確認。


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