サンドウィッチのなかみ (2016年4月15日記事)

Vol.77 震災5年 長面に立つ

「今この光景をみてどう思われますか?」「…」。私の答えが声になるまで数秒かかった。拙作のドキュメンタリー映画『長面 きえた故郷』が4月2日に仙台で上映されるのに先立って、仙台放送に取材された時のこと。いつもは取材する側がされる側にいる、妙なシチュエーションだ。

「懐かしさ、より別世界」と私。同映画に出演したトロントのモガール和子さんに聞いていた風光明媚な長面地区を写真でしか知らない私は、津波で破壊された光景が長面との出会いだった。水面下に無惨に残る家の土台、海と化した畑、瓦礫の間に挟まり紙屑のようになった車、なぎ倒された墓石。皮肉にも見渡す限りの青空。強風にさらされた地上の残骸を太陽が隅々まで照らし出していたのを、今でもはっきりと覚えている。

沿岸地域の復興は遅く、今は広大な空き地を整備しているかのようにどこも土砂だらけ。取材の日は大雨のなかで行なわれた。無数のクレーン車が点在しているが稼働しているのかどうかは遠くて分からない。「完成まで5年か10年か…」。防潮堤の工事だ、とそばにいた一人の操縦士が小さく言った。沈下物体を引き上げる巨大な機材が無造作に放置されている。和子さんのお兄さんの車もこれで発見されたのだろうか。

取材には和子さんの妹、福田祐子さんも合流。懐かしかった。本当は彼女は、誰もいなくなった長面に足を入れるのは辛いのだという。持ち前の明るさで話す彼女の声も、時折涙でかすれる。霞の向こうに見覚えのある山々が、「大丈夫だよ」と語っているかのように雄々しい姿を見せていた。取材後、道の駅「上品(じょうぼん)の郷」に立ち寄り、撮影の良き協力者でもあった太田実駅長さんに名物の“ずんだ餅”を頂き皆で温まる。

この時3週間前のことを思い出していた。「のど自慢で歌うよ〜!」と祐子さんの声が石巻から携帯に飛び込んだ。私は東京から仙台に着いたばかりで、ポスターやチラシを地図を頼りに一人配り歩いていて何か心もとなかった。「がんばれ〜!」と彼女にエールを送った私は、気がつけば反対に自分が勇気づけられていた。震災で亡くなった祐子さんの姪が好きだった歌をNHKのど自慢で歌った彼女は、震災5年の節目にもう帰らぬ家族へ精一杯の供養をしたのだと思う。

ボランティアや広報活動の成果もあって、上映会は3週間で定員400名に達した。入場出来ずにがっかりする人の心を思うといたたまれない。上映は1回ということもあって、決断にそう時間はかからなかった。隣の空いていた大ホールに急遽会場を変更し、最後の宣伝に賭ける。そして3月末には900人を超えていた。長面に関心を持つ人が、一同にこれほど集まる機会は珍しいのではないか。震災前の長面の人口を遥かに超えている。合掌。



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