サンドウィッチのなかみ (2016年11月4日記事)

Vol.83 “頭”が高い(二話)

母の94歳の誕生日を無事終え一息ついた頃、旧友から一泊旅行に誘われた。その日を楽しみに待ち望んでいたところへ来たのが大型台風。日本の豪雨はカナダの大雨の比ではない。ブーメランのように西に東に移動する異例の台風。予報によると旅行先を予定日に直撃する。刻々と現実化していく進路情報にホテルからも彼女のところに警戒の電話があった。決断に時間はかからなかった。

最寄りの駅で新幹線の切符をキャンセルしに行ったところ、電車は運行しているので別の日に出発するのでなければキャンセル料は必須とのこと。キャンセル料が発生しないのは運休になった時だそうだ。ということは当日運行中の電車に乗って無事着いても、この台風では帰りの新幹線が運休になる可能性は十分有る。その時キャンセル料が無料になっても意味はない。線路土砂崩れで復旧に数日かかれば乗客へのインパクトは甚大だ。それに対し、「二次災害に対しては弊社の責任ではありませんから」と返した。カウンターの向こうは床が高いせいか、ふんぞり返った彼の目線が私を見下ろす。テレビやラジオが災害に会わぬよう前もって準備するように、と散々勧告しているのに、「うちはメディアではないので、それによって方針を変えることはありません」と宣う。私は1,000円程のキャンセル料が払えない訳ではない。“おもてなし”だの、“大人の休日”などと宣伝しておきながら、乗客の安全が見えないこの男の顔がこの大企業の顔なのが情けない。「いつの時点で運休が決まるのですか」と更なる問いに男はいらだちを露にした。私の後ろにお客が列んだ。別の駅員が出て来て対応にあたる。「貴方のご両親が行ったきり戻ってこられなくなったらどうしますか?」彼の顔に困惑の色が見えた。この男も上の指令で動いているだけなのだ。自然災害から逃れるためのキャンセルにお金を徴収する鉄道会社。「指令元の連絡先を教えてください」でやっと男はフロアに下りて来た。

「仰ることはよくわかりました。キャンセル料の適用基準に関して上の方に伝えます。状況によっては返金もあり得ます」「失礼ですがこの駅に来る前、何処の駅で勤務してらしたのですか?」と聞くと「品川です」「ズが高いわけよね」と思わず私は声に出してしまった。お詫びに、と彼は中から超大型の手提げ袋を持って来た。中にはペン4本、プラのフォルダー2枚、プラ袋2枚と、この小さな駅の名前入りのマグネット6個。

友達はキャンセル料を払うことに違和感はなかったようだ。「言うだけ無駄なこと」なのだそうだ。平和な日本は疑問をもつことを忘れてしまったのかもしれない。





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