こだわりを諦めないこと
Akihiro Abe
Cosmos Records オーナー  安部晃弘(2014年5月16日記事)

60年代と70年代のものを中心に、様々なジャンルのレコードを取り揃えるレコードショップ「Cosmos Records」。ここでしか手に入らない商品を目当てに、世界中からお客が訪れる。今回のインタビューは、その店のオーナーである安部晃弘さん。こだわりを持ち続け、夢を形にするための秘訣とは。

「僕は8歳の時、父の仕事の関係でカナダに来ました。10年家族と一緒に過ごして、18歳の時、日本に家族全員で帰るか、カナダに1人で残るか選択するよう父に言われたんです。もう18なんだから自分で人生を決めろって。それで、大学を卒業してちゃんとした仕事につくことを条件に、トロントに残ることにしました」異国の地で単身残った安部さんは、父親との約束を果たすべく、大学卒業後、会計事務所で4年間働いた。「今考えてみれば、会計事務所でハイレベルな人たちと話せて、学べるという環境は貴重で、そういう経験ができて良かったのですが、20 代後半に差し掛かって、自分の人生ってなんだろうとか、このままでいいのかなとか、そういう大変なことを考えちゃったんですね」そのときに頭をよぎったのが、大好きな音楽のことだった。

「姉の影響でクラブに行ったことをきっかけに、10代の頃からDJを続けていました。それで、そういうところで仕事をしたいという願望がずっとあって。両親に内緒で会計事務所を辞めて、ナイトクラブを始めようとしたんです。でもそんなに甘くはなかった。当時は水とご飯だけしか買えないほどお金がなくて。日本に帰った方がいいかな、と考えたことが何度もありました」それでも諦めずに続け、98年に27歳でCosmos Records をオープン。さらに2000年には念願のクラブ「Una Mas」を開店した。世界各国のカリスマDJが集い、トロントで最もアツいクラブとしてカルチャー誌などで頻繁に取り上げられた。

「始めたときには怖かったですよ。どうなるか分からないけれど、とにかくやってみようという思いでいました。ただ自分が音楽を好きだという気持ちと、それまでに出会った人を大切にするということだけを、一生懸命やろうと思っていましたね」その後4年間、レコード店とクラブで働くという生活を続けたが、体力の限界を感じ、Una Mas を閉めることになる。しかしそれまでに得た人脈と安部さんのDJの才能が噂を呼び、彼が経営するCosmos Records には今も、世界中からDJやレコード愛好家たちがやって来る。

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「楽しいことをやっている時より、自分が苦労している時の方が、印象的な出会いが多いと思うんです。たとえば、会社を辞めた時やクラブを オープンできなかった時に出会った人の言葉は、すごく印象に残っている。音楽も一緒で、いい音楽は苦労している場所から出てくるんです。アメリカでいうと60年代、70年代は、黒人差別に対するデモの時代とか、女権運動の時代で、苦労をしていた人が多い。だからそういう歴史的な背景を持つ場所に行くと、いい音楽が出てくる。そういうところで一生懸命やった人の言葉は本物だと思うんです。彼らの音楽には彼らが本当に伝えたいこと、訴えたいことが詰まっている。音楽は言葉ですから。僕はそういう人たちの言葉をよく聞きたいと思うんです」そう語る安部さんのモットーは「Life is a melody」。

「音楽のメロディって上がったり下がったりするじゃないですか。人生も一緒だと思うんですよね。だから、できるだけなんでもやってみたほう がいいと思います。華やかなことだけではなく、汚いことも、例えばトイレを綺麗にすることでも、道を掃除することでも、とにかくやってみ る。一生懸命やっていると、必ず誰かが見ていてくれるので。あとは、失敗を怖がらない。強く生きている人はたくさん失敗している人でしょ う。うまくいっていても、そうでなくても、正しく生きていくっていうのが大切ですよね」



 
 
Biography

あべ あきひろ

3 歳の時、楽器会社で働く父の仕事に伴い家族で渡米。その後8歳の時にカナダへ移住。青春時代はトロントのクラブシーンでDJとして活躍。2000年にクラブ「Una Mas」をオープンさせたが、04 年にクローズ。現在はCosmos Records の経営に集中し、店舗のみでの販売にこだわる。店には豊富な品揃えを聞きつけたDJ やレコードのコレクターなど、世界中から客が訪れている。
cosmosrecords.ca