こだわりと愛着が超娯楽作を生む
国境を超えた笑顔のメソッドはディテールまで練り上げた爽快感
内田 けんじ
映画監督 (2012年11月2日記事)

ちょっとしたハプニングに乗じて、羽振りの良さそうな男の『ロッカーの鍵』を自分のものとすり替えた売れない役者。その出来心が人生を180度変えてしまうとも知らずに…。 そんな、いかにもフィクション映画的な始まりの『鍵泥棒のメソッド』。観客が持っている”映画的な展開の予想“を遥かに超える作品を作り出している内田けんじ監督の新作だ。今回もその期待にがっちり応えてくれた内田監督。先の読めない展開と意外なエンディングで、最後の一秒までスクリーンに釘付となった。トロント国際映画祭(TIFF)での上映会を終え、内田監督にお会いしたのは翌日。と、やって来た内田監督の手には屋台のホットドッグ。飾らない人柄の監督のようだ。

インタビュア(以下、イ)「おはようございます。昨日の上映会では多くの笑いが起こっていましたね」

内田監督(以下、内)「僕は映画の最後に場内に入ったんですが、笑いが起こってたので、良かったなと思いましたね」

イ「日本人以外のお客さんも良く笑ってましたよ。でも、やっぱり(海外のお客さんだからこそ)不思議に思うこととか、あるんでしょうね」

「そうですね。『殴るときに何で小銭を握るんだ?』とかね」

イ「メリケンサック(Brass Knuckles)?」

「笑。そうそう」

イ「この作品は、そういう細かい部分というか、情報が盛りだくさんですよね。とにかく細かい演出に笑えました」

「”フィクションフィクションした話“なので、いける所までいってしまおう、というのはありました。撮影中に何か出来ないかと思っていて、遊べるところは遊ぼうとスタッフからも色々アイディアを出してもらいました。例えば小銭はその中の一つですね。キャラクターを特徴づける為にしています」

イ「なるほど。そう考えると、ますます細部まで凝りに凝った作品ですね。撮影は大変だったのでは?」

「そうでもなかったですよ。役者さん達も面白くしよう、と思ってくれてて、いい雰囲気で出来ました。あの3人(堺雅人さん、香川照之さん、広末涼子さん)は凄く仲もいいですので、苦労と言うよりも楽しかったですね」

タナダ ユキ

イ「3人とも今を時めく方々で凄く豪華ですよね。この人が出てるから、ということで注目されるのは予想に難くないですが、主演が有名だからこそのデメリットってあるんですか?」

「有名な方が出てくれた方がもちろん、お客さんに対してアピール出来るというのはあるんですけど、先入観なく見られるから、知らない人(例えば、新人の俳優さん)が出てきた方が物語は楽しめるかも知れませんね。ただ、実力があれば俳優さんは有名になってしまいますし、映画自体が役者さんを見せるものであるからね…。
でも、有名な方に出て頂いた時に僕がやりたいのは、『みんなが知ってるあの人の印象をちょっと変える』ということなんです。『あ、こういう演技もされるんだな』っていう全く違うイメージを観客に持ってもらえるような…」

イ「それ、感じましたよ。特に香川照之さん。”良いお兄さん“のイメージの俳優さんだったのに、今回は意外でした」

「香川さんはインスピレーションというか、香川さんでコンドウ役を考えた時にワクワクしました。3人ともそうですが、この役に充てたらどうなるのか、それが計算できない所があって、しかも凄くワクワクする。そういうキャスティングです」

イ「一番こだわったシーンはどこですか?」

「うーん、全体的に全部こだわっているんですが…(笑)。楽しかったのはお風呂屋さんのシーンですよね」

イ「コンドウが記憶を失うところですね。あんなに派手にツルっと転んだら、記憶も失いますよね(笑)」

「笑。あれは、1日がかりでお風呂屋さんで撮影してたんですよ。(ワイヤーで吊り上げたりせず)香川さんに実際に飛んでいただいてます。前貼りひとつで何度も…楽しかったですねぇ(笑)」

イ「ぶつかった拍子に人物が入れ替わる話はよくありますが、この作品は1人が確信犯というひねりが入ってますね。どのくらいシナリオを練ったんですか?」

「プロットになってからは1年半くらい。でも、その前があるので全部で4年くらいですよ。3人のキャラクターが出てくるけど違うストーリーで、色々書いてたけどダメでそれは捨てて…。その後に、人物が入れ替わるというアイディアが出てからは1年くらいです」

イ「4年ですか !? いつもそれくらいのサイクルなんですか?」

「いや、温めてるわけじゃないですよ。本当は早く書きたいんですよ(笑)」

イ「映画から質問はズレますけど、映画監督でなければ何になってますか?」

「うーん、小学校の頃からそれ(映画監督になること)しか、ずっと考えてなかった。桜井(堺雅人さんの役名)みたいなボロアパートにずっと住んでいたんです。その時は20代後半かな。映画監督として何にもなくても(鳴かず飛ばずでも)40歳までは頑張ろうと…。今、40なんですけど、良かったですよ、トロントにも呼ばれるようになって(笑)」

イ「その時にやろうと思っていた映画もコメディタッチのものですか?」

「まあ、そうですね。軽いものですね。日本の映画って湿ったものが多いんですよね。だから軽い雰囲気の、空気が湿らないものが出来ないかなと思ったんです」

イ「監督にとって映画の良さ、映画の魅力は何ですか?」

「やっぱり、色んな人と作るところですよね。時間的にもお金も、限られた中で結果を出さないといけないんですけど、そこには複数の人がいる。監督なんて結局、何にもしないですから…。役者さんが演じてくれてカメラマンがカメラを回して絵を撮るでしょ? だから実際にやってくれるのは他の人で、監督はイメージを伝えるだけ。もちろんその難しさはあるけど、人の才能を使えるというか、色んな人の才能を寄せ集めることが出来るんですよね。それが悪い方向に行かないようにある程度は監督としてコントロールしますが、監督のビジョン通り作品が出来るよりも、少し道筋が変わっていたとしても他の人のアイディアが入ってきた方が僕はいい映画になるんじゃないかな、と思います」

イ「これからの目標は?」

「監督としての目標とか、そういうものは特に無いんです。そういうことより、もうね…また映画が撮りたいんですよ。とにかく早く次の映画を撮りたいな、って。それだけです」。

 
 


Biography

うちだ けんじ

映画監督、脚本家。高校卒業後、サンフランシスコ州立大学芸術学部映画科に留学・卒業。2002年、自主映画作品『WEEKEND BLUES』(01)がぴあフィルムフェスティバル(PFF)アワード入選。05年に制作したPFFスカラシップ作品『運命じゃない人』はカンヌ国際映画祭にてフランス作家協会賞(脚本賞)を始めとする4つの賞に輝くほか、報知映画賞最優秀監督賞、新藤兼人賞優秀新人監督賞(銀賞)などを受賞。『アフタースクール』(08)で日本アカデミー賞 優秀脚本賞。9月から日本公開されている『鍵泥棒のメソッド』は最新作。