現代アートを体で表現 ~紆余曲折の末に辿りついたプロへの道~
森本 沙原
コンテンポラリーダンサー(2012年9月21日記事)

 しなやかな肢体から躍動感が溢れ、彼女が動くと空気が澄み渡る…それがレッスンを見学させてもらった時の森本沙原さんの印象。カナダのコンテンポラリーダンスの第一人者として知られるペギー・ベイカー氏が率いるダンスカンパニーPeggy Baker Dance Projectsに所属する彼女は、その中心メンバーとして舞台に立つダンサーだ。彼女が『Night Garden』というダンスプロジェクトでNuit Blancheに参加されると聞き、今回の作品について、そしてプロになった経緯など、お話を伺った。

 チュチュに憧れて7歳の時にバレエ教室に通い始めたという森本さん。トロントに来た理由は、カナダ・ナショナル・バレエスクールへの留学だった。

 「1年目は、英語を学ぶのに必死で日本のことを考える余裕がなく、ホームシックにも全くかからなかったですね。学校はプライベートスクールのバレエ科みたいな感じでした。普通教科+バレエのレッスンの毎日。寮生活で、バレエに専念できるように洗濯などもしてくれる環境で…。日本人は学年に私しかいなかったのでラッキーというか、英語を覚えるのは早かったですね」

 と、12歳だった留学当初のことを振り返る。バレエから入ったダンスの世界。そこからコンテンポラリーダンスへの転機は何だったのだろうか?

 「グレード9(中学2年生)の時からずっとペギー(ベイカー氏)のモダンダンスのクラスを取っていたんですが、当時の私にはコンテンポラリーは体に染み込んでこなかったんですね。グレード12になってやっとその良さに気づき、そこから一気に惚れ込みました。そして悩んだ挙句、卒業後にコンテンポラリーをやっていこうと決めたんです。コンテンポラリーは、絵に例えると現代アート。何でもありうる。その魅力は、こういうところ(予測のできない展開)にあるんだなと思いました」

森本 沙原

 森本さんは、コンテンポラリーダンス界において最も影響力の強い人物と評されるペギー・ベイカー氏が代表を務めるカンパニーのメインダンサーとして活躍。また、クラスで振付の手本をするデモンストレーターとして踊り、時には、同カンパニーのリハーサルディレクターとして舞台演出の指揮を執る。さらに、氏の過去の作品をビデオを元に再編成するなど、ベイカー氏のダンスを次世代へ伝える後継者として期待されている。

 「(後継者的な)立場にあることは、ありがたいと思います。バレエは動きに名前があって、次の世代に伝えやすいんですけど、コンテンポラリーは動きに名前が付いていない。振付家によって動きのスタイルが違うので、ビデオで見てもどこから動いているのかが(振付家本人しか知らない部分が多いため)分からなかったり…。ペギーのダンススタイルを長年学んで、彼女の元で踊っているのは私くらいしかいないので、彼女の作品を(私が次世代へ)受け渡しすることができたら、それはすごくうれしく思います」

 レッスン中、ベイカー氏の短い指示だけで求められているものをすんなりと体で表現する森本さん、まさに阿吽の呼吸だ。ベイカー氏の元で仕事をするようになったきっかけについて訊ねてみた。

「もともと彼女のダンスのファンだったんですが、高校卒業後、1年間オランダにいた時にヨーロッパのカンパニーの作品を沢山見たんです。その中で、ペギーの作品の偉大さに気づきました。

 あと、ヨーロッパ各地で受けたオーディションにひっかからなかったこともありましたね。結局、トロントで受けたオーディションに合格して戻ってきたんですが、それが初めてのダンスの仕事だったのに、3か月の試用期間後に解雇されてしまって…。ダンサーのコミュニティは小さいので、その直後はトロントにいるのも居心地が悪くて、またヨーロッパに行こうかな…と考えました。そんな時でしたね、ペギーからデモンストレーターのオファーがあったのは」

 決して順調なスタートではなかったと話す森本さんは、最初の仕事で解雇された時、プロダンサーとなるべく道を必死で考えたという。

「ダンスをやめることは全く考えませんでしたが、ダンサーに向いていないのかも、とは思いました。ダンスに限らず何でもそうだと思いますが、自分がやりたいという気持ちが第一条件だと思うんですけど、それがあるからって成功できるわけじゃないですよね。コンテンポラリーダンサーとしてのキャリアを始めたばかりだったので、どこに自分の身を置くのがベストなのか…。ヨーロッパに行ったとしたら何が変わるのか? カンパニーに入ることが最短のプロの道なのですが、だからといって、どのカンパニーでもいいわけじゃないし…。単に場所を変えたからといって(自分の)ダンサーとしてのポジションが変わるわけではないですからね」

行く先を模索している間に、恩師からのオファーがあったことは本当にタイミングがよかったと語る彼女。彼女にはプロダンサーとしてキャリアを積んでいく中で大切にしている言葉があるという。

「『日々暮らしていく中で、こつこつと目標に近づく努力を続けていけば、予想図通りの道のりじゃないかもしれないけれども、到達しようと思っている場所には着くもの』この言葉は、ペギーからいただいたんですけど、ダンスを続けていく上で支えになりました。なかなか舞台に立てない時期とか。私自身、バレエをやりたいと思ってトロントに来たんですけど、今はコンテンポラリーダンサーになっているじゃないですか。留学前の目標とは違うけれど、ダンサーとしての夢は叶っている。常に好奇心のある物を目の前に置くようにしていますが、何年後かの目標を明確に決めていない(時間で目標設定をしない)理由もペギーの言葉に通じているのかと思いますね」

最後に、今回のNuit Blancheで披露される作品『Night Garden』について聞いてみた。

「今回の作品は、12人のダンサーが4グループに分かれて20分ずつ交代で踊ります。10年の作品『coalesce』と12年に作られた『Piano/Quartet』のパートの再編成で、12時間ぶっ通しの舞台です。照明アーティストLarry Hahnによる光の演出も加わって、おもしろいプロジェクトになると思っています。

コンテンポラリーダンスは分かりにくいっていうイメージがあると思うんですよね。見る側のポイントとしては、分かろうと意識するのでなく、ありのままを見ていただければと思います。Nuit Blancheは無料だし、いつ来ていつ帰ってもいいから、気軽に見られるのがいいですよね。これを機に、コンテンポラリーダンスを身近に感じてもらえればと思います」。

   

森本さんの作品が見られる『Nuit Blanche』についての記事はこちら

   >>Nuit Blanche 2012


 
 


Biography

もりもと さはら

1984年生まれ。東京都出身。12歳から単身留学でカナダ・ナショナル・バレエスクールに入学。02年同スクール卒業。04年9月から翌6月までオランダのロッテルダムアカデミーで学ぶ。08年からはPeggy Baker Dance Projectsのメンバーとして活躍している。来年1月にはカルガリーにて「coalesce」、2月にはトロントにて「Alreatonic Solo No.1」と新作となる「Split Screen Stereophonic」、4月にはオタワで「Piano/Quartet」の公演が予定されている。

ウェブサイト: saharamorimoto.com