世界中の人の心に僕の生きた証を残したい
Takahito Nakamura
大道芸人 中村 鷹人(2017年7月14日記事)

毎週末、ダンダス・スクエア前で黄色のコスチュームに身を包み、バケツを叩く大道芸人、TKエンターテイナーこと中村鷹人さん。日本を離れ、異国の地で路上パフォーマンスをする彼は、何を思いバケツを叩き続けるのだろうか?  「僕は産まれてすぐに、母親から捨てられたんです」と自身の壮絶な生い立ちを語り始めた中村さん。
「母親が20歳の頃にできちゃった子供でした。気付いたときにはもう堕ろせないくらいになっていたらしく、母親は子供を持つ覚悟ができないまま僕を産みました。産まれてすぐに施設に預けられ、そこで3年間過ごした後母親に引き取られて一緒に暮らしましたが、毎日DVを受けていました」
そんな彼にも、小学生の時に初めての親友ができたのだという。
「家が隣同士だったので、毎晩ベランダ越しに話をしていたんです。今日学校であったことや、将来の夢とか。本当によくある男の子同士の会話ですね」
その後、中村さんの人生観を大きく変えた出来事が起こる。
「その子が突然ベランダに顔を出さなくなりました。実は、母親の怒鳴り声や僕の泣き声に耐えられなくなって引っ越したらしいんです。それ以来、僕はどんな時も笑っているようになりました。周りに悲しんでいる姿を見せてはいけない、人が自分から離れてしまうと思ったからです」と振り返る。
母親からのDVや育児放棄、親友の突然の引越しを経験し、中村さんは涙を封印した。
「だからこそ、路上でバケツを叩いている時が、自分が生きていることを一番実感できるんです。人の笑顔に囲まれると安心できるんですよね」
幼少期から親と一緒に暮らすことなく育った中村さんの周りには、いつも誰もいなかったことから「誰かの記憶に残りたい、そしてみんな笑顔になってほしい」と思っていたのだそう。バケツドラムを演奏している理由についてを聞くと「バケツをたまたま拾ったから始めただけで、実はそこまでバケツドラムにこだわっているわけではないんです」という意外な答えが返ってきた。
「人を笑わせることができればいいので、手段は何でもいいと思っています。世界中どこにでも人はいるので、場所だってどこでもいい。僕が何かしらの行動をする中で出会った人の記憶に残りたいですね。今は、トロントでの路上パフォーマンスを通じて、多くの人に僕という存在を知ってもらいたいと思っています」
来年の春までトロントに滞在した後、ニューヨークやイギリスなどでも活動していく予定とのことだ。自身の壮絶な人生が大きく影響している大道芸人
TKエンターテイナーの活動の原点だが、大道芸を続けている理由は、自身の存在理由を示す方法なのかもしれない。 「世界中のより多くの人に、自分がいたことを証明したいですね。これからどんな人と出会えるのか楽しみで仕方ないです」と語るその目は、まるで遠足前の子供のようにキラキラと輝いていた。

 

Biography

なかむら たかひと
エンターテイナー。2017年の5月よりオーストラリアからトロントに渡る。毎週末にダンダス・スクエア前で、エンターテイナーTKとして路上パフォーマンスを行う。7月22日開催のJ-TOWN夏祭りに参加予定。