諦めない、という人間の強さ
Yuki Nakamura
T Vプロデューサー/映画製作者 中村ゆき(2013年4月5日記事)

怒涛のように全てを飲み込んでいく津波、瓦礫ばかりで跡形もなくなった町。しかし、大地に根を下ろして踏まれても踏まれても花を咲かせるタンポポのように、未来を見つめて生きる被災者の皆さんの力強さが印象に残る。中村ゆき監督の『NEVER Forget・Never GIVE UP』が世界初上映された3月10日、日系文化会館では満員の観客が大画面に釘付けとなった。

映像からは、情け容赦なく人々の命を奪った自然の怖さだけでなく、被災者から直接語られるその後の生活に寄り添うような温かさが感じられる。

▲宮城県名取市閖上(ゆりあげ)中学校にカナダからの手紙を届ける

「取材をさせていただいた方は、みんな心に残っていますよ。亡くなられた方は勿論ですが、残された人はもっと苦しいということを教えてくれた山内あけみさんや、藤村先生などの教育者の方々。先生のような指導や考え方が生徒達に笑顔を与えているんです。生徒といえば福島高校の航くん。大人よりもしっかりした考えを持っています。 そして、やっぱり、佐藤康男さん。
彼は本当に明るくて、何故この方を紹介されたのか分からなかったくらい。植物の話とか松島の美しさを淡々と、にこにこしながら語るんです。
実は彼は、家をそのまま流されてシェルターで生活してる方だったんです。本当にびっくりしました。家は土台だけ残して無くなっている。そこに立って『お金なんてね』と言える。目から鱗、鱗どころじゃなくてボロボロと垢というか全てのものが落ちた感じがしました。『お金を抱えて死んでいく人は幸せじゃない。人の繋がりが大事なんだよ。おはよう、こんばんは、って(声を掛け合う)ことを大切にしなさい』と教えてくれました」

1人ひとりの顔と名前を思い出しながら目を赤くする中村さん。彼らは選んで取材をしたわけでなく、不思議な縁で引き合わされた人々だったという。

「最初から知っていた人はジェイソン石田さんとエリック・チャンさんだけです。後は全員、紹介してもらいながら広がりました」
ジェイソンさんらは、学校で英語などを教えることで文化交流を促すJETプログラムに参加する形でカナダを発ち、日本に滞在している若者だ。

「彼らは(震災後)、親に引き戻されてたにも関わらず、『新学期が始まるから』と言って日本に帰っていくんです。その時、凄いなと思いましたね。
 まさか自分が(被災地に)行くとは思っていなかったんです。酷い状況だということは知っていたし、原発の事故も…。でも、気持ちって本当に紙一重で、ある日ころっと変わるんです。絶対行く、という気持ちになったのは、彼らの行動があったからかも知れません」

そして、ジェイソンさんらが日本に向けて出発してから間髪いれず、自らも実際に被災地に赴いた中村さん。

Pizza e Pazzi


「被災地に迷惑をかけないように気を遣いましたが、自分が良かれと思った行動でも間接的に罪なことをしてしまったということはあると思います。でもね、被災者の皆さんは心が広い。この教訓を他に生かすことで助けられる命は助けたい。救われる命が多かったらそれでいい。だから、風化させないことが一番大切だと思いました。震災は悲しいことで大変なことであるけど、起こってしまったことで表面化した人間の純粋な部分、それを私は浴びて帰ってきたんです。そういう意味では、差し上げたものは凄く少なくて、頂いたものが凄く多かったですね」

土壇場に立たされた人間の強さを知った中村さんは、同時に自分の直ぐ近くにいる人の優しさにも触れた。今回の作品制作に寝る間も惜しんで力を貸してくれたジョー(OMINI TV のシニアエディター、ジョー・サントスさん)や、音楽担当の漆戸啓さん(うるしどひろし、「カズン」)だ。

「足を向けて寝られないです(笑)。彼ら以外にも本当に色々な人達に助けられました。タイトル通り、私も『NEVER Forget・Never GIVE UP』。被災地で生活する彼らにはギブアップするというチョイスはない。だから、(取材中に)泣いていたのは私だけです。
これから、今回繋がったこの縁を大切に、心ばかりの支援をしたいですね。上映会では高額の寄付をしてくださった方がいたり、名前が残らない現金だけでも4000ドル以上ありました。復興には時間が掛かりますし、原発問題は簡単に解決するような問題ではありませんが、やりかけた大プロジェクト。今後も支援を続けていきたいと思っています」。

 
 


Biography

なかむら ゆき

TV プロデューサー、映画製作者。OMNI TV の日本語番組「ワイワイ・ワイド」(現在は放送終了)のプロデューサー、レポーターとして活躍。07 年、バンクーバーのドキュメンタリー映画祭(DOXA)で上映された自らの監督作品『ノーモア広島、ノーモア長崎』が、National Film Board of Canada より最優秀カナディアン・ドキュメンタリー作品として選ばれ、「コリン・ロー賞」を受賞している。