ジャンルに拘らない勤勉な姿と好奇心
世界が注目する日本人バレエダンサー
服部 有吉
バレエダンサー・振付師(2012年1月20日記事)
2010年夏のバンクーバー五輪の開会式に登場し、注目を集めたカナダのアルバータ・バレエ団。約45年と歴史はヨーロッパのそれと比べると浅いが、クラシックからコンテンポラリーまで、幅広く人気の舞台を提供し続けているこのバレエ団のダンサー人の中でも、経歴はもちろん、その実力で観客から熱い視線を注がれているダンサーが服部有吉さん。カナダに渡る前にはドイツのハンブルグ・バレエ団で活躍、同団で初の東洋人ソリストとして話題となったダンサーだ。ハンブルグ・バレエ団時代から、ダンサーとして舞台を彩るのはもちろん、振付師としても活躍している服部有吉さんに今回はお話を伺った。

インタビューのために訪れたのは、服部さんがリードダンサーとして出演する『Love Lies Bleeding 』のトロント公演が行なわれているソニーセンター。トロント公演期間中で夜8時から本番の舞台があるにもかかわらず、日中であれば…と快くインタビューのリクエストを受けてくれた。ステージドアと呼ばれる楽屋の裏口へ向かうと、待ち合わせ時間ぴったりに”ひょっこり“と服部さんは現れた。噂に聞いたように、長身揃いのバレエダンサーとしては小柄な方だが、手足がスラリと長くバランスがよいのに驚くと、「サルっぽい?」と冗談を言って笑う彼に、公演期間中の本番までの過ごし方について聞いてみた。

「いつもですか? 昼寝したり、ご飯を食べたりしてるだけですよ。カンパニー(バレエ団)によってスケジュールは違いますけど、ダンサーって言っても、普通の会社員と同じですよ。コンピュータの前に座る代わりに踊っている、というだけです」

バレエファンの注目を集める、世界でも指折りのダンサーだ気負いは全くない。しかし写真撮影のためにいくつかポーズをとってもらうと、その身体がしなやかに動く度に爽やかな、そして引き締まった空気がスッと入ってくる。静かな動きが持つそんな清涼感は、例えば、高くジャンプをした時の力強い躍動感と美しく対比を成し、優しいお兄さんという雰囲気からダンサーとなる瞬間だ。
『Love Lies Bleeding 』はエルトン・ジョンとバーニー・トーピンによる作品をふんだんに盛り込んだ音楽はもとより、エルトンの自伝的物語とも言える内容で話題のバレエ作品。ホモセクシャリティーやドラッグ、エイズなどのネガティブな要素を取り込みつつもドラァグクイーンを思わせる衣装やアクロバット的な仕掛けなどが観客の目を奪う。”バレエ“という固定概念を持っている人には、それをいい意味で裏切ってくれる作品と言えるだろう。

「(今回の作品は)古典バレエが苦手な人でも、面白く観てもらえると思いますよ。バレエっていうのはやっぱり、貴族が作ったものですから、(格式があって敷居が高いと思われがちなのは)当然だと思うんですよね。実際、ある程度の知識がないと楽しめないでしょうし… 受身では絶対面白くないですよ。でも、こんな不景気だから、(『LoveLies Bleeding 』のように)あっけらかんとした作品を見てすっきりしたいという人も多いんじゃないでしょうか? 10年くらい前だとヘビーなテーマでやっている作品も多くありましたけど、少し(お客さんが欲する作品の)比重は変わってきているのかな、と思います。ただ、(あっけらかんとした作品であっても)何かしらお客さんに感動を味わってもらえるものがないといけないと思いますけど」

服部さんが語るように、今回の作品はヘビーなテーマを含みつつも、楽しい、どちらかといえば異色のバレエ作品だろう。ケーブルに吊られて宙を舞うシーンもある。

「あれ、結構大変なんですよ(笑)。大掛かりになればなるほど抑制されることも出てきますしね…。でも、そういうのをひっくるめて、全てがこちらの実力次第だと思うんです」

大変と言いつつ、アクロバティックなダンス内容は、服部さんには守備範囲のようだ。

「友達にヒップホップダンサーとかサーカスでやっている人とかがいるので、そういう人たちと一緒に遊んでる時に、(ダンス・ムーブメントの)トリックなどをを教えてもらったりすることはあります。 僕はダンサーとしてやっていきたいと思っているので、何でも踊れるように、そういうつもりでいます。能とか狂言とかにも興味があるんですよ」

服部さんの”ダンス“に対しての勤勉な姿勢と好奇心は、過去、日本で上演された『ラプソディ・イン・ブルー』にも現れていたことを思い出す。
オーケストラとダンスを融合をさせたこの舞台は、通常は舞台下や舞台手前のオーケストラピットと呼ばれる所で演奏しているオーケストラメンバーを舞台上に。加えて、パントマイムとバレエなど、ダンスのジャンルでバックグラウンドが異なる若いダンサー達が同じステージに並び、それぞれのジャンルがぶつかり合うという実験的な作品だった。

「ジャンルの統合っていうのは、ライフワークみたいな感じでやっています。昨年の夏は日本で自主公演という形でやりましたけど、こういう衝撃的なダンスパフォーマンスはちょっと顔も年齢層も、純粋にバレエを見に来るお客さんとは違いますね。だから(普段、バレエを観に来るような)お客さんに違うものを見せているっていう感覚ではないですし、今までのお客さんが繰り返し来てくれる、とは考えていません。そんなところは、一期一会である、と感じています。僕の中では、いかにして観客と一緒に成長していくかという課題があるんですよね。日本で自主公演に切り替えたのは、コマーシャルな公演ばかりをやっていると、”種“を植え付けられないと思ったからです。どうやったら若い人たちと一緒に成長して行けるのか。がんばろうとしている人たちと一緒にやっていけるか、と考えた時に、自主公演で教えながら一緒に作っていく。そういうことで、種を植えていけたらな、と思ったんです」

若い世代の観客とダンサー、どちらもが共に成長していけるように…。そして、同じ世代のダンサーとして一緒に”ダンスという芸術“をより大きく育んでいこうという姿勢に、ダンスに対しての愛情が溢れる出すのが分かる。

「今、芸術はサバイバルモードに入ってきていると思うんです。もちろん、生き残ることが第一ですが、その過程で、(次へと続く)種植えをちゃんとやっていくことが大事になってくる。一人のダンサーとして… 僕の世代でそれが花開く、開かない、ではなくて、意思を伝えて、それをみんながどこかで完成させてくれればいいな、と思っています」。

Biography

はっとり ゆうきち
1980 年東京都生まれ。バレエダンサー、 振付師。6 歳からバレエを始め、13 歳で ドイツに単身留学。振付師ジョン・イノマ イヤーに認められ、コンテンポラリーバレ エの名門ハンブルク・バレエ団へ。03 年 に同団で東洋人初のソリストとなる。06 年よりカナダ、アルバータ・バレエ団へ移 籍し、ダンサー兼振付師として活躍中。 10 年にはバンクーバー五輪の開会式にダ ンサーとして出演。『Love Lies Bleeding』 にはリードダンサーとして出演。トロント でも上演され、各方面から高い評価を受 けた。