東日本大震災ファンドレイジング特別上映『犬に名前をつける日』
Akane Yamada
映画監督 山田 あかね(2016年2月5日記事)

一生懸命な姿を見れば、人は動く

愛犬、ゴールデンレトリーバーのナツを病気で亡くした傷心のテレビディレクター、久野かなみ(小林聡美)は、先輩の映画監督の勧めにより、犬の命をテーマにした映画を撮り始める。動物愛護センターで一定期間保護されている飼い主のいない犬と猫。かなみは、センターで殺処分される犬猫や東日本大震災後、福島の原発20キロ圏内に取り残された犬猫の姿を目の当たりにし、衝撃を受ける。そして取材を進めていくうちに、過酷な状況から一頭でも多くの命を救おうとする人たちに出会い、ある決心をする…。

日系文化会館にて3月10日(木)に行なわれる東日本大震災5年目の特別ファンドレイジング上映会の招待作品、『犬に名前をつける日』。ペットとして私たちの生活に身近な存在になった犬や猫。家族の一員のように可愛がる人がいる一方、飼いきれずに殺処分を行なう公的機関に持ち込む人もいるのが実情だ。この作品は、人間の身勝手さゆえに酷い状況におかれた犬や猫たちを救おうと奮闘する人々を描いたドキュメンタリードラマ。上映会当日に舞台挨拶に登場する山田あかね監督に話を伺った。


―ストーリーはご自身の経験が元になっていると伺いました。
「2010年の秋、飼っていたゴールデンレトリーバーが亡くなり、ペットロスになったんです。仕事に対してもやる気がでないほど、落ち込んでしまって…。それで、ゴールデンレトリーバーの発祥の地、スコットランドに行ったりしました。そんな中、映画にも出演している先輩の映画監督、渋谷昶子(しぶやのぶこ)さん(『挑戦』で、1964年のカンヌ国際映画祭短編部門グランプリ受賞)に勧められて、犬の命をテーマに取材を始めました。ところが、取材を始めて間もなく、東日本大震災が起こりました。2011年の4月に現地に行きましたが、被害の大きさに衝撃を受け、撮影はせず、ボランティアとして犬と猫の保護をして帰りました。
普段、テレビ番組を作るときは、企画を立てて、予算を決め、結論に向かって撮影していくのですが、この作品に関しては、予算も考えず、結論も決めず、“犬に関して気になることは全部撮る”という方針で作りました。自分の思いだけでストレートに作りたかったんです。
最初は、関東近県で殺処分数の多い、千葉県の動物愛護センターに取材に行きました。そこで、センターから犬と猫を救い出し、里親探しをしている『ちばわん』という保護団体を知りました。『ちばわん』の活動を取材するうち、「被災地の犬と猫に不妊去勢手術をしに行くけど、一緒に来ますか?」と言われて同行。そこで出会ったのが、『犬猫みなしご救援隊』でした。『みなしご』のメンバーが福島に保護活動に行く時、連れて行ってもらったり…。そうやって、4年間撮り続けてきました」

―小林聡美さんが演じるTVディレクターを中心に物語が展開する、ドキュメンタリーとドラマが融合したスタイルにしたのはどういう理由からでしょうか?
「ドキュメンタリーという手法だと、見る人が限られてしまう気がしたんです。小林聡美さんや上川隆也さんに出てもらうことによって、たくさんの人が見るきっかけになればと考えました。ドラマが入ることによって、見やすくなったと思います。それと、報道番組のようにテーマを直接訴える形ではなく、単なる犬好きの私が、殺処分や被災地に残された犬と猫を前にしてどう感じたか、彼らを命がけで救う人達と出会って何を思ったか、映画を見る人に取材者と一緒に体験してほしいと思いました。私自身、自分にできることはなんだろうと迷いながら取材していたんです。小林聡美さんには、福島の被災犬の行方を追いかけた『むっちゃんの幸せ~福島の被災犬がたどった数奇な運命~』(NHK)で、むっちゃんの声を担当してもらった縁があり、主人公をお願いしました。小林さんは犬と猫を飼っていた経験があるので、演技を越えて、犬と猫へむける愛情あふれるまなざしが生まれ、とても良かったと思っています」

—動物の撮影に際して、苦労した点はありましたか?
「何回も通って、犬や猫たちに親しんでいたので、特に困ったことはありませんでした。いわゆるタレント犬を使うことはしたくないと思っていました。私が今飼っているゴールデンレトリーバーも出ています。いつも一緒にいるので自然な感じが出ていると思います」

—飼い主が飼いきれなくなってしまった犬や猫を捨ててしまうという問題について、取材を通してどのようなことを1番強く思いましたか?
「日本は今、過渡期にあると思います。かつては、番犬や猟犬として飼われるのが一般的でした。犬や猫を家族の一員と考えるようになったのは最近のことで、気持ちにばらつきがあるのは仕方がないことなのかもしれません。一方で、犬と人間の間にお金が介在するようになったのも最近です。人気の犬種は高く売れるので、まるで工場で製品を作るように子犬を生ませるブリーダーも出てきました。命がお金儲けの対象になってしまっているのが問題だと思います。
ただ、悪いことばかりではなく、好転していることもあります。犬猫の殺処分数は、1974年には約120万頭、取材を始めた2011年は約17万頭でしたが、2014年には約10万頭に減り、毎年その数は減っています。それには『ちばわん』や『犬猫みなしご救援隊』などボランティアの人たちのがんばりが大きく作用していると思います。
千葉県の愛護センターに初めて行った時は、殺処分を待つ犬たちは大部屋に一緒に入れられていました。ストレスからいじめが起こったり、感染症が流行ると全頭命を落とすなど悲惨なこともありました。ところが、取材を重ねていくうちに、一頭一頭ケージに入れる個別管理になったり、全頭にワクチンを打つようになったりとセンターも変わって来ました。ドッグランが出来て、散歩したり、走ったりできるようになった。最近では不妊去勢手術も行われ、積極的に里親探しもしています。
センターの職員に話を聞くと、ボランティアが必死に犬を助けているのを見て、自分たちも何かできないかと考えるようになったと言います。ボランティアの人達の一生懸命働く姿が行政を変えたんです。現状を嘆くだけでなく、動き出すことで、まわりの人の心を変えるのだと学びました」


—山田監督の次回作を教えてください
「ここ数年追いかけている人物にpha(ファ)さんという日本一有名なニートがいます。phaさんは名門京都大学の出身ですが、「毎日好きな時間まで寝ていたい」という理由で働かないユニークな人。必死で仕事をしてきた自分には新鮮でした。全てがお金に換算され、過労死や自殺の多い日本の矛盾をあぶり出しているように感じます。働かなくても生きられる方法を探しているようです。自分のテーマに“弱いものが弱いままで生きられる社会”というのがあり、犬や猫、ニート、女性という社会的弱者にいつも興味があります。phaさんとその周りの人達を描いたドキュメンタリーを作る予定です」

—最後に、トロントで上映会を楽しみにしている読者に向けてメッセージをお願いします
「トロント出身で女優であり監督である、サラ・ポーリーは尊敬する監督の一人で、ドキュメンタリーとドラマを融合させた『Stories We Tell(邦題:物語る私たち)』はこの映画を作る時、とても影響を受けた作品です。『Crash』で知られるポール・ハギス監督もカナダ出身。敬愛する監督の出身地で上映できて光栄に思っています。トロントでは、動物の保護施設も訪問したいと思っています」。 

『犬に名前をつける日』上映会のお知らせ
日 時:3月10日(木)19時〜(フードの販売は18時〜)
入場料:一般$12、JCCC会員$10
※入場料、フードの全収益金はJCCCファウンデーション日本地震救済基金(JERF)の奨学金として寄付されます。


 
 


Biography

やまだ あかね

東京生まれ。テレビ番組のディレクター、ドラマの脚本家、演出家、小説家、映画監督として数多くの作品を制作。主な作品に映画『すべては海になる』(2010年)、小説『ベイビーシャワー』『しまうたGTS』『まじめなわたしの不まじめな愛情』など。最新作に映画の原作ノンフィクション『犬に名前をつける日』がある。