長年夢に描いていたシルク・ドゥ・ソレイユへの出演
Arisa Tanaka
バトントワラー 田中 有紗 (2015年9月18日記事)
Martin Girard / shootstudio.ca Costumes: Eiko Ishioka © 2014 Cirque du Soleil

観客と心地よい空間を共有したい

ジプシーの言葉で“Wherever”という意味を持ち、あらゆることが起こりうるファンタジーの世界“VAREKAI”。そこに降り立った、翼を無くしたイカロスは、地上界でさまざまな出来事や人物と出会う…。トロントではエア・カナダ・センターにて9月2日から6日まで行なわれていたシルク・ドゥ・ソレイユの『VAREKAI』。その演目に出演しているのが日本人のバトントワラー、田中有紗さんだ。ステージの前半に登場する彼女の役どころは、好奇心旺盛で若さ溢れる思春期の女性。クルクルと高速でバトンを回したかと思うと、空中に高く投げ上げてキャッチするアクロバティックな演技、また、3本のバトンを扱うジャグリングのような技など、躍動感溢れる技の連続に観客の視線は田中さんのバトンさばきに集中。ため息がもれるほどの華麗な演技で会場を魅了した。


Martin Girard/shootstudio.ca
Costumes: Eiko Ishioka © 2014 Cirque du Soleil


Perla Global media Costumes : Eiko Ishioka © Cirque du Soleil 2015


Martin Girard / shootstudio.ca Costumes: Eiko Ishioka © 2014 Cirque du Soleil


John Davis Costumes: Eiko Ishioka ©2010 Cirque du Soleil

「バトントワラーは選手を引退すると、コーチになる以外の選択肢が日本にはなかなかないのが実情です。しかし同じくバトントワラーの高橋典子さんが2004年にシルク・ドゥ・ソレイユの『KÀ』に出演されたのを機に、私も行けたらいいなと思い始めました。私のコーチだった稲垣正司さんも、東京で08年から11年まで常設公演をしていたシルク・ドゥ・ソレイユの『ZED』に出演した経歴があり、話を聞いている限りは遠い世界に思えていたのですが、ある時、大阪でオーディションがあると聞いて、受けに行きました。そこで合格し、登録アーティストになったのは2009年のことです。登録アーティストに選ばれても、使われやすいアクトとそうではないアクトがあります。例えばトランポリンは、いろいろな演目、場面で必要とされることが多いのですが、バトンは毎回登場するようなアクトではないので、何のお話しもいただかないまま時間が過ぎ、期待も薄れていた頃、13年にキャスティングの方から電話をもらいました。夢じゃないかと思いながらも即答で、“行きます、行きます”と、返事をしたのを覚えています」と、『VAREKAI』出演のいきさつを話してくれた田中さん。

オファーを受けた当時、コーチをしていた田中さんは、抱えていた生徒の大きな大会を終えるのを待ち、日本を発った。そしてモントリオールでのトレーニング期間3週間を経た頃、メキシコに行くように言われ、そこから2か月間、ビックトップと呼ばれる移動テントの会場で公演を行ない、その後はトロントを含む北米のアリーナツアーに出演。ツアーに加わった当初は小さな役だったという田中さん。現在のソロのアクトを射止めるために努力したことは何かと問うと、「特別なことはしていないです。ちょうどアーティスティック・ディレクターからソロのアクトを与えられたのは、選手時代に培った“毎日必死にベストを尽くす”ということを継続しつつ、どういうアーティストになりたいのかを模索し、先が見えかけた頃。ベストなタイミングでした」と振り返る。

田中さんは3歳の時にバトンを習い始め、中学1年生の時に出場した第20回世界バトントワーリング選手権大会Jr.ペアの部での銀メダル獲得をはじめ、アダルト、シニアの部門においても世界選手権にてメダル獲得数多数という輝かしい経歴を持つ。競技大会とエンターテインメントにおいてのバトンとの比較を訊ねた。

「世界大会の場合は1年に1回。その日のために同じ演目を1年、2年練習して本番に挑むんです。大会のその瞬間は、命を削るような緊張感がありました。ですので、シルク・ドゥ・ソレイユのステージで、必死に練習して舞台に立って、“やりきった!”という思いでステージを降りた1日の終わりに、“はい、また明日もお願いね”と言われ、翌日もショーをやるということに、初めはとまどいを感じたのを覚えています。舞台の場合は、一発勝負の大会とは違って、ステージを踏んでいく間に、徐々に良くしていく、というようなスタイル。私の場合は、バックアップから今のレギュラーのソロアクトをやらせてもらったので、必死についていきながら、徐々に慣れていけたという感はありました。
また、エネルギーを一瞬に注ぐ大会での選手の緊張感というのは、見ているお客さんにも伝わってしまうものですよね。今、私が目指しているのはステージで演技をしながらお客さんと同じ空間の中で共に呼吸をし、心地よく見てもらえるような演技です」

バトンを続けている中で、やめようと思ったことが何度もある、と田中さん。しかしバトンを通してさまざまな経験、いろいろな世界が見られたので、25年続けてきた現在はバトンが体の一部にみたいな感覚になっているという。最後に、田中さんに今後の目標を伺った。


©Cirque du Soleil

「今は、シルク・ドゥ・ソレイユの公演に出演するという、自分がずっと描いてきた夢の中で生きているという状態です。トロント公演を終えて、1 0月からはヨーロッパやエジプトなどにも行く予定ですが、これまでメキシコ、アメリカをまわっただけでも、いろんな価値観に出会って、カルチャーショックを受け、学ぶべきこともたくさんありました。今後予定されている今までに行ったことがない国々での公演でも、いろんな思いをすると思うので、そこで学んだことを吸収しながら、さまざまな価値観、多くの人との出会いにも期待しています」。


Martin Girard / shootstudio.ca Costumes: Eiko Ishioka © 2014 Cirque du Soleil


Martin Girard / shootstudio.ca Costumes: Eiko Ishioka © 2014 Cirque du Soleil

 
 


Biography

たなか ありさ

3歳よりバトンを始め、中学1年生の時に第20回世界バトントワーリング選手権大会Jr・ペアの部で銀メダルを獲得。その後、第22回世界バトントワーリング選手権大会Jr・ペアの部で金メダル、第23回世界バトントワーリング選手権大会Jr.・ペアの部で金メダルなど、ジュニア時代から輝かしい成績を残す。2009年にシルク・ドゥ・ソレイユの登録アーティストとなり、現在『VAREKAI』に出演中。

『VAREKAI』オフィシャルサイト: www.cirquedusoleil.com/en/shows/varekai