今回も大丈夫だ!って言い聞かせながら目をつぶってジャンプする
Atsuko Hirayanagi
映画監督 平柳敦子(2017年11月10日記事)


見ると元気が出る。
そういう作品っていいなあと思います。


第42回トロント国際映画祭のディスカバリー部門に長編デビュー作『Oh Lucy!』を出品した平柳敦子監督は、実は3年前にもトロントを訪れている。その時に出品した21分ほどの短編作品を、今回はキャストを一新し、長編として完成させた。短編作品では、ショートショートフィルムフェスティバル&アジアほか、多くの国際映画祭で受賞を重ねたが、もともと長編として構想を練った企画だったといい、その言葉通り、短編作品は本作の序章に過ぎなかったことを感じさせる仕上がりとなっている。上映後の質疑応答の中では、平柳監督が観客に向かって「字幕付きの映画はどうでしたか」と逆質問するシーンもあった。客席からの回答として、温かく力強い拍手が沸き起こった。笑いと屈辱、自由とプライド、そして家族や姉妹の消えることのない傷の上に成り立つ絆が交錯する『Oh Lucy!』を引っさげて、劇場に着いたばかりの平柳監督にお話を伺う機会を得た。

―二度目のトロントはいかがですか。
3年前に短編『Oh Lucy!』を出品させていただきましたが、長編でまたここに帰ってこられてうれしいです。

―今回の主演は寺島しのぶさん、相手役には役所広司さん、『パールハーバー』などで人気のハリウッド俳優ジョシュ・ハートネットさんなど、超豪華キャストですね。
実は昨年(2016年)にサンダンス・インスティテュート/NHK賞という賞を受賞することができて、NHKのバックアップのおかげもあり、最高なキャスティングをすることができました。

―本作はオリジナルストーリーですが、どんなきっかけで書かれたのですか。
大学の授業で映画のアイディアを75個作るというエクササイズがありまして、これはその中の1本でした。実は当初は長編を想定して作った企画だったんですが、教授から「これは短編の方がいい」と言われて、まず短編を撮ることにしたんです。

―本作を撮る中で一番苦労したことは何ですか。
プロの素晴らしいキャストスタッフの皆さんのおかげで、スムーズに撮影が進みました。毎日とても刺激的な経験に満ちていて、もちろん大変なのですが、「苦労」したという感覚はありませんでした。

―ニューヨーク大学の大学院で映画を学ばれ、現在はサンフランシスコ在住ですが、作品の視点が日本であるのはなぜですか。
自分が見たり、触れたりしてきたものを作品にしたいと思っています。身近な風景であったり、人であったり、自分の中に強く残っているもの、それがたまたま日本だったということだと思います。

―影響を受けた監督はいますか。
自分の作品とは全然違うのですが、小さい頃ジャッキー・チェンが大好きでした。8歳くらいの時に初めて彼の作品を見て以来、ずっとあこがれていました。彼の作品を見ると元気が出る。そういう作品っていいなあと思います。

―今、一番興味を持っていることは?
興味を持てること、欲しいです。最近は子育てで大変で。今、4歳の息子と9歳の娘がいるのですが、特に4歳がすごいやんちゃでエネルギーを吸い取られています。周りの人のリアクションを見て、本能的にどうしたら人からアテンションをもらえるかを理解し、即興的に行動するので、すごいなぁといつも驚き、感心しています。

―ご出産はアメリカで?
息子はシンガポールで水中出産でした。娘はカリフォルニアのサンタモニカ生まれです。自然に産むには水中が一番体に負担がかからなくていいと読んだので、2回目はナチュラルでがんばろうと思ってうまくいきました(笑)。

―良いと思ったら未知のことでもどんどんチャンレンジしていく方ですか。
すごい心配性なんですよ。でも、だからこそ飛び込もうとするんでしょうね。怖がっている自分がイヤだから。「案ずるより産むがやすし」って自分に言い聞かせます。いつも終わった後には、やってよかったと思いますしね。その達成感を体が覚えていくんですよね。映画作りも同じで、今回も大丈夫だ!って言い聞かせながら、目をつぶってジャンプするっていう感じです。

―これまでの人生で一番チャレンジだったことは何ですか?
それはやはり映画作りのために大学院に行ったことです。もう最初の2週間なんて毎朝、歯磨きしながらオエッてなってましたね(笑)。それくらいプレッシャーで。毎日、学校をやめたいと思っていました。なぜかというと、クラスメート全員がなんらかの映画作りの経験があったんですよ。たとえば、ファイナルカットプロ(映像ソフトの一種)は皆、一回くらいは使ったことあるのに、私だけが触ったことすらない。だから一つのアサインメントに人の10倍、20倍の時間をかけてやっていました。寝る時間も全然なくて、それでもついていけない。当時は娘もまだ小さかったので、帰宅してから授乳したり。最初の2週間で激やせしました。

―それをどうやって乗り越えたんですか。
それでも2週間くらいしたら、あ、なんか、できる……って思えたんですよね。3週間くらい過ぎたら、大丈夫!って思えた。いくらでも辞める理由はあったけど、辞めなくて本当によかった。あの時辞めていたら、今ここにいることはなかったですしね。

―人は出会う必要のある人には必ず出会うことになるらしいですよね。
ああ、それ、分かる気がします。あと、人は問題に直面したとき、それは自分が向き合いたかった問題と何かで読んだ事があります。つまり、無意識にその問題を自分で招き入れている。チャレンジするため、自分が人間として成長するためなんでしょうね。

―最後にトロントの映画ファンに一言お願いします。
短編を観てくださった方がどのくらいいらっしゃるのか分かりませんが、来年3月に北米で劇場公開する予定ですので、成長した長編バージョンをぜひ見に来てください。



Toronto International Film Festival
2017年 トロント国際映画祭

Oh Lucy!

監督:平柳敦子
上映時間:95分
出演: 寺島しのぶ、南果歩、忽那汐里、役所広司、ジョシュ・ハートネットほか







Biography

ひらやなぎ あつこ
長野県生まれ、千葉県育ち。ニューヨーク大学大学院映画制作学科卒業。2012年『もう一回』がSSFF& ASIAでグランプリ他2部門で受賞。2012年『Oh Lucy!』がカンヌ国際映画際シネフォンダションで2位受賞、2015年サンダンス映画祭インターナショナル・フィクション部門で審査員賞受賞。その他受賞多数。現在、サンフランシスコ在住。