心惹かれるのは古くて壮大なストーリー
Aya Kanno
漫画家 菅野 文 (2015年7月3日記事)
5月9日と10日に行なわれたトロント・コミック・アート・フェスティバル。トロント・リファレンス図書館とその近くにあるマリオット・ホテルを会場に行なわれたイベントに、漫画家の菅野文さんが特別ゲストとして参加した。菅野さんは、男らしさと女性(乙女)的な趣向をあわせ持つ男子高校生を主人公にした『オトメン(乙男)』で広く知られている漫画家。累計発行部数470万部という同大ヒット作は、2009年にテレビドラマ化され、そのタイトルがその年の流行語大賞候補となるなど社会現象を巻き起こした。そして現在は、中世に起こったイギリスの内乱、薔薇戦争の最後の王であるリチャード3世を主人公にした『薔薇王の葬列』が好評連載中だ。

▲薔薇王の葬列(Requiem of the Rose King)
© 2014 AYA KANNO/AKITASHOTEN


これまで 『北走新選組』、『凍鉄の花』、『誠のくに』などで 新撰組をテーマにした日本の歴史モノを輩出してきた菅野さん。今回はじめて中世のヨーロッパをテーマにした理由を伺う。

「『薔薇王の葬列』制作のきっかけは、シェイクスピアの史劇にはまったことですね。特にリチャード3世が好きなキャラクターだったので描いてみたいと強く思いました」

13年の連載開始前と今年3月の2回に亘りイギリスへ取材旅行に出掛け、舞台となる建築物を綿密に再現している同作。史実を扱ってはいるものの、そこに、菅野さんオリジナルのストーリーを織り交ぜている。

「歴史がすごく好きなので、描いているうちにその世界に入り込んでしまい、歴史上のキャラクターと重なりそうな時もありますが、なんとか自分らしさを入れて、オリジナルのストーリーにするようにしています。当時の社会情勢と自分が感じた印象、解釈を入れて描いているファンタジーです」

主人公のリチャード3世を両性具有(男女両性を合わせ持つ)というキャラクターで登場させているのはその顕著な例だ。

「最近の研究では、そうではなかったことが発表されていますが、シェイクスピアの史劇では背中が曲がった男として描かれています。日本ではそういったことを作品として描くのがタブーなので、ジェンダーの話に変えました」

13年まで連載された大ヒット作『オトメン(乙男)』も、男性の中の女性らしさに焦点が当てられていた。「ジェンダーをテーマにされるのは、ご自身の興味からですか?」と問うと、もっと広い意味で社会の枠というものに疑問を持っているのだ、と答えた。

▲ オトメン(乙男)(Otomen)
© Aya Kanno 2006/HAKUSENSHA, Inc.


「どちらも、社会的な縛りとか常識みたいなものと、個人的な生き方の違いみたいなものに苦しむ…というような作品ですね。女性、男性、という性だけでなく、私の周りの人たちを見ても、それぞれ自分を押し殺して社会の枠にはめようとして生きている人が多いような感じがします。私自身が押さえつけられることなく自由に育ったが故に、”なんでこうしないといけないって決まっているのかな?“と強く疑問に感じるんですよね。なぜ女の人は髪を長くしているのか、お化粧をしているのか、スカートを履いているのか…。なんで男の人は同じようにしないのかな? とか。また、男の子が電車に夢中になっていると、”やっぱり男の子は電車好きだよね“など、その一面だけ、その子だけを見て、”どうしてみんなそうだよねってなるの?“と。そういうことがすごく疑問に思えるんですよ」

そのような自身の命題と、当時の芸能人や周囲の発言などから女性的な男性が多いなと感じ、生み出されたという『オトメン(乙男)』。ドラマ化については、「ドラマ化して欲しいと思って描いていたので、すごく嬉しかったです」というが、放映を見るのは恥ずかしくてたまらなかったと語る。

「ドラマは全回見ました。自分で描いたセリフを人が言うって死ぬほど恥ずかしいですよ。例えると、自分の日記を人に声を出して読まれるような感じですね」

漫画家として15年のキャリアを持つ菅野さんは、19歳の頃に作品を白泉社の「花とゆめ」 編集部に持って行き、即採用された。いわゆる不遇時代はなかったというが、漫画を描き続けていく上で、生みの苦しみを経験することはもちろんあるという。

「ストーリーと絵を比べて、楽しいと感じることが多いのはストーリーを考えることですね。絵については、どう頑張っても納得がいくように描けない、うまく描けないということがこれまでに何回かありました。長く続ける予定ではなかった連載が予想外に続いた時もモチベーションを保つために色々と苦心しました。違う作品を考えたり描くこともひとつの手ですね。漫画の辛さは漫画でしか乗り越えられないので」

デビューして間もない頃は担当の編集者と一から話し合って描くこともあったというが、基本的には自分の描きたいものを描ける状況であるという。

「自分からこれを描きたいんだけど…と、担当者に提案していますね。反応が悪い場合は、なんとか説得して…とやっています。『オトメン(乙男)』の時も自分からの提案でした」

漫画とは、「死ぬまで描いていたい」ものだという菅野さん。最後に、今後の作品について伺った。

「モノ心ついた時から漫画を描いていました。そして幼い頃から歴史にもすごく興味がありました。その大好きな歴史を漫画の題材にすることは自分にとってベストなこと。古くて壮大な話が好きなので、今後も、もっと歴史モノを描いていきたいと思います」。



 
 


Biography

かんの あや

2001年、「花とゆめ」(白泉社)に掲載された『ソウルレスキュー』でデビュー。以降、『ココロに花を‼』(白泉社『花とゆめ』、『ザ花とゆめ』連載)、『北走新選組』(白泉社『別冊花とゆめ』)、『凍鉄の花』(白泉社『花とゆめプラス』 )など作品数多数。06年から13年まで「別冊花とゆめ」にて連載された『オトメン(乙男)』 は、09年にフジテレビにてドラマ化。現在、「月刊プリンセス」(秋田書店)にて『薔薇王の葬列』を好評連載中。