体の感覚を研ぎ澄まして感じる
国境を超えるダンスアート
Benjamin Kamino
舞踊家 ベンジャミン・カミノ(2013年8月2日記事)

野生的でいてセンシティブ。研ぎ澄まされた「裸体」を駆使したパフォーマンスに、まず度肝を抜かれる。彼の名前はベンジャミン・カミノ。
国境を超えて活躍する若きカナダの俊才が、8月に控えるトロントでのダンスの祭典「dance: made in canada」での出演を前に語ってくれた。今回トロントで初めて披露する「Nudity.Desire」は、ベンジャミンさんが5年前からずっと取り組んでいるソロダンスの一つ。旧約聖書で描かれる「アダムとイヴ」の解釈に一石を投じたイタリアの哲学者、ジョルジョ・アガンベンの著書『裸性』を基に、言葉と欲望の原点を文字通り、体現している。

Benjamin Kamino 「一般的な解釈では、アダムとイヴは禁断の果実を食べたことにより知性を身につけ、自分たちが裸でいることに恥を感じる。でもアガンベンは発想を逆転させ、2人は知性ではなく知性で満たす"空虚"を手に入れたのだと解釈している。何かを得たのではなく神の恩寵を失い、空になったのだと。このダンスは踊りそれ自体を見せると いうより、この哲学を理解するプロセスなんです」

一見奔放な裸体での舞いに続き、一連の踊りにダイナミックさを加えるのが体を覆う白紙と墨によるパフォーマンスだ。
「白紙は、空虚の象徴なんです。白紙によって出来たスペースはとても滑らかなものから荒削りになっていく。この変化こそがこのダンスにとってとても大切なんです。また、口から吐き出す墨も言葉の喪失、人間が原点に返る瞬間を表現しているんです」

ダンスを通して、言葉の奥にある意味を探す旅。その独特な創作スタイルの原点はどこにあるのだろうか? 彼のダンスのルーツを聞いてみた。
「僕がダンスに興味を抱いたのは、13歳のとき。家族と一緒に結婚パーティに行ったとき、僕はシャイすぎて皆と一緒にダンスできなかったんだ。それでその帰り道 に、(振付け師でもある)母親にダンス教室に通いたいと言ったのがきっかけです。それからバレエを中心にクラシックからモダンなものまでを学びました。即興ダ ンスに恋に落ちたのは、高校に入ってから。目を閉じて床に寝て、体を巡る血の流れ、音を感じて自由に踊るということに夢中になり、ステージに立つ快感をそこで知 りました。鏡を見ながらフォームを整えていくバレエとは全く異なる、感覚を研ぎ澄ますメソッドに出会えたことはとても幸運でした」
それからニューヨーク大学でのバレエの訓練を経て「自分自身の体をより深く理解できた」という彼は、全く異なるダンス文化をもつメキシコでのダンス研究プロジェクト「interferencias」で新たな扉を開けた。

「メキシコで過ごした時間は本当に特別でしたね。そこで僕たちは、振付け師の指示通りに踊るのではなく、皆が同等の立場で集まって踊るという『コラボレーション』の意味を追究したわけです。このプロジェクトでの出会いからまた新たな出会いが生まれ、自然と輪が広がっていきました。南米、中南米のダンスはヨーロッパとも北米とも違う、唯一無二の文化。生々しくてとてもエモーショナルだし、文化として解放的な裸体での表現が浸透しているんです」

欧米の哲学をベースとしながら、南米で培った解放的な体現方法を取り入れた彼独自の舞い。それを言葉で表現するなら? と聞くと「僕は僕の体が求めるダンスを知るためにあらゆる踊りを学んでいるから、コンテンポラリーダンスなどと一言で表現することはできない。知識に基づいていないダンスと言えばいいかな」と話すベンジャミンさん。一方で、自身の踊りと両親のルーツである日本の舞踏が比較されることについては、素直に嬉しいという。

「全く意識はしてないけど、その要素を感じ取られるのは嬉しいことです。日本の舞踏にこれまで取り組んだことはないのですが、とても魅力を感じています。特に、田中泯さんの破天荒なダンススタイルがすごく好きなんです。これまで日本を訪れたことがないので、彼の所有する田んぼで彼の舞踏のワークショップにいつか参加したいですね。もちろん自分自身が日本でパフォーマンスをする日も夢見てます」

さらに、地元カナダで過ごす夏は久しぶりというベンジャミンさん。イベントに向けての抑えきれぬ興奮を最後に語ってくれた。

「地元カナダでのダンスシーンに参加できて嬉しいし、ほかのアーティストたちに会えるのが楽しみです。深夜のパフォーマンスではまた一味違うものを予定しているので、それも楽しみにしていてくださいね」。



 
 


Biography

ベンジャミン・カミノ

トロントとモントリオールを拠点に活動。メキシコ、ブラジルなどで幅広くパフォーマンスをこなす。8月14日から17日までトロントで開催されるダンスの祭「dance: made in canada」に出演予定。