ヨーヨーが教えてくれた努力が報われるという世界
BLACK
ヨーヨーパフォーマー (2014年10月17日記事)


圧巻のパフォーマンスを『KURIOS』で披露

現在トロントで公演中のシルク・ドゥ・ソレイユ30周年記念公演『KURIOS』。驚きのアクロバットパフォーマンスはそのままに、コメディ色も加わった大好評のステージに、日本人のヨーヨー世界チャンピオン、BLACKさんが出演している。

ヨーヨーパーフォーマーとして世界各地で活躍しているBLACKさんは、昨年、各界の著名人が登壇する講演会「TED」に出演した。ヨーヨーのパフォーマンスに加え、その情熱溢れるスピーチでも話題となり、活動の場を広げている。9月下旬、ドックスエリアに設営されたシルク・ドゥ・ソレイユの会場で、BLACKさんに『KURIOS』出演に至った経緯、ヨーヨーとの出会い、TED出演についてなどを伺った。

― どのようないきさつで『KURIOS』への出演が決まったのですか?

「シルク・ドゥ・ソレイユのオーディションには2009年に合格しました。合格者は、その時点で出演者リストに入り、公演中のショーで代役が必要になった時や、新しくショーを創る時に、そのリストから出演者が選ばれるようになっています。ヨーヨーでオーディションに受かったのは私が初めてで、オーディションを受けた時点では、ヨーヨーアーティストの枠というのはありませんでした。今回の『KURIOS』でも、実は、最初からヨーヨーの要素があったわけではありませんでした。4月上旬、初演となるモントリオールの公演が始まる20日くらい前にキャスティング部門の方から出演依頼をいただきました。3月下旬に、ショーの最終チェックを行なった際、創業者のギー・ラリベルテ氏から”何か道具を高速で操るアーティストを入れるべきだ“という意見が出されたため、急遽、私に声が掛かり、今回の出演が決まったという感じです」

Ⓒ Martin Girard
▲シルク・ドゥ・ソレイユ『KURIOS』より


― ヨーヨーを始めたきっかけを教えてください

「中学生の頃、”ハイパーヨーヨー“とよばれる最新のヨーヨーが日本中の子どもたちの間でものすごく流行っていて、それを何気なく手に取ったというのが最初でした。ハイパーヨーヨーというのは、一見すると普通のヨーヨーなんですけど、中にベアリングという滑車のような部品が仕込まれていて、初心者でも扱いやすいのが特徴で、当時、最新のヨーヨーでした。ブーム当時は、技指南の本やビデオなどで、50種類ほどの基礎的な技を習得しました。さらに、当時は、海外のチャンピオンを招いたイベントなども開催されていたので、そこに足を運んで、デモンストレーションをビデオで撮影し、家でスロー再生して、真似をしながら技を習得していきました」

― ヨーヨーに夢中になったのはなぜですか?

「ヨーヨーと出会う前の自分は、手先も不器用で運動も苦手。何についても自信がなくて、何をやってもうまくいかないと思っていました。ヨーヨーについても流行っているから買ったものの、最初は真っ直ぐ投げることさえままならない状態でしたが、1週間ほど練習を続けたところ、ようやく基礎の技となる空回りの技を成功させることができたんです。そこで、時間をかけたらヨーヨーはうまくできるかもしれない、ちょっと大げさかもしれないですが、初めて努力が報われるという世界がヨーヨーの中に見えたんだと思うんですね。それでヨーヨーにのめり込んでいって、ブームが終わった後も続けて世界大会で優勝するまでに至りました」


― ヨーヨーパフォーマーとして初のシルク・ドゥ・ソレイユ出演を実現させた、そのモチベーションは何でしたか?

「実は一度、就職して会社員をした時期を経て、プロパフォーマーになった経緯があります。世界チャンピオンになったものの、それだけでは食べていけないという事情からです。私以外の世界チャンピオンもみんなそうなんですけど、ヨーヨーでは食べていくことはできないという悲しい状況があるんです。それで、シルク・ドゥ・ソレイユのような舞台でパフォーマンスを披露することができたら、僕個人というよりは、ヨーヨーに対する世間の見方が変わるんじゃないかなって思ったんです。そうなれば、後輩のチャンピオンたちは、もっといい環境の中で大会に取り組めたり、それだけで生活していく道もできるかもしれない。そういう環境を作りたいと思い、シルク・ドゥ・ソレイユを目指すようになりました」



― 昨年登壇された「TED」のプレゼンテーションでは、パフォーマンスにも驚きましたが、プレゼンテーションにも大変感動しました

「ありがとうございます。英語のスピーチについては、半年以上かけて準備しました。聞いてもらうと気づくかと思うんですが、すごくカタカナ英語だったと思うんですよ。発音もうまくないですし。日本人は、”英語を話せない“と謙遜する人がすごく多いと思うんです。でも、それは話せないんじゃなくて、完璧に話せないのが恥ずかしいから、話したがらないだけだと思うんですよね。そうではなく、カタカナ英語を恥ずかしがるよりも、相手に自分のメッセージを伝えるという気持ちを持ってのぞめば、きちんと通じるものなんだと実感しました。講演の後に出席者と交流する時間があったのですが、パフォーマンスについての感想より、スピーチに感動したという声をより多くいただきました。自分のメッセージが伝わったんだ、とうれしかったです」

―『KURIOS』のツアーは来年まで続きますが、夢が実演した今、次に目指すものは何ですか?

「今後はヨーヨーだけに限らず、講演などを積極的に行なっていきたいと考えています。それにはTEDに出演したことが大きなきっかけになっています。TEDに視聴者として出席するには、高額な会員費を支払わないといけません。出席者は、会員費を支払えるという経済力に加え、社会貢献に携わっているような方々に限られています。そういう方々は、個人的な目先の利益ではなく、世の中を良くしたいと考えているんですよね。未来の社会は、子どもたちが大人になって作っていくもの。だから教育はすごく大事なものだと話していました。実際に、出席者のうちの1人から、”ぜひ君の情熱を子どもたちに話して欲しい“と言われました。現在の子どもたちを取り巻く不安定な世の中で、”これがやりたいんだ!“という情熱を見つけられたら、今の子どもたちが生きていく1つの柱になる、と。私はそれを聞いて大きな感銘を受けました。それまでは後輩のヨーヨー選手の環境をよくしたいと考えて活動していたわけなんですけど、そこから与えられる影響というのは、ヨーヨーの世界だけ。でも、もし、私が教育という分野で貢献することができたら、その影響範囲は圧倒的に広くなるわけなんですよね。すでに、教育の現場での講演会は、日本国内でも始めています。昨年はインドネシアのバリ島にある先進インターナショナルスクール『グリーンスクール』で公演も行ないました。現在も、『KURIOS』のツアーで都市の移動の合間には、その都度日本へ帰国して、可能な範囲で講演活動などを行なっています」


― 最後に『KURIOS』の見どころについて教えてください

「今年はシルク・ドゥ・ソレイユの創業30周年にあたる年で『KURIOS』はそれを記念するショーなんです。明るい、楽しいイメージが前面に出ています。産業革命の直後くらいの時代設定なので、舞台のセットなどもスチームパンク(工業的)な感じを出しています。蒸気機関によって産業革命が起こり、経済を含めて世の中全体が上だけを向いて進んでいくという、非常にポジティブな雰囲気のショーになっています。今回の舞台で、私は『時の支配者』という役柄で出演しており、ショー全体に関わる重要な設定と密接な関係があります。その正体はぜひ実際にご覧いただければうれしく思います」。

BLACKさんが出演する『KURIOS』のトロント公演は10月26日まで。チケットのお求めはお早めに!



 
 


Biography

BLACK


東京都出身。2001年、ヨーヨー世界大会技術部門優勝。07年、同大会芸術部門優勝。13年、世界最高峰の講演会TEDに登壇。日本人として初めて正式にスピーチを行なう。14年より、シルク・ドゥ・ソレイユ最新ショー『KURIOS』に出演中。著書に『「好き」をつらぬこう』、『TEDスピーカーに学ぶ「伝える力」』がある。
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『KURIOS』チケットwww.cirquedusoleil.com