映画は関わった人たちの 努力の積み重ねでできている
Cellin Gluck
映画監督 チェリン・グラック(2016年6月3日記事)

©Sthanlee Mirador 2016

一番インスパイアされるものはリアリティの中にある

今年で第5回目を迎えるトロント日本映画祭が6月9日から23日まで日系文化会館で開催される。この映画祭を楽しみにしている地元映画ファンの数は年々増加。それに呼応するように、今年は話題作が総勢24本揃った。中でも12日に上映予定の、『杉原千畝 スギハラチウネ』は日本でヒットした注目作。ユダヤ難民に日本通過ビザを発行して、6,000人の命を救った杉原千畝氏の伝記映画だ。国際色豊かなキャストにハリウッドの製作チームが加わり、文字通り国境を超えた超大作となった本作のメガホンをとったのは、和歌山県出身のチェリン・グラック監督。上映に先がけてグラック監督にお話を伺った。


▲映画『杉原千畝 スギハラチウネ』より

―まず、映画『杉原千畝 スギハラチウネ』の監督をすることになった経緯を教えてください
「映画『太平洋の奇跡―フォックスと呼ばれた男―』で米国サイドの監督をした時、出演者だった唐沢寿明さんと親しくなり、是非一緒に何か撮ろう! と計画していたんです。唐沢さんは僕が監督した映画『サイドウェイズ』をとても気に入ってくれていました。それで、杉原千畝役が彼に決まった時、監督は是非チェリンで、と勧めてくれたんです」

―そうでしたか。本作を製作する中で一番こだわった点は何ですか?

「私はユダヤ系の父と日系人の母の血を引いてます。その上、日本で生まれていますから、日本や日本人、そしてユダヤ人やユダヤ教の描き方に間違いがあってはならない。その部分には特にこだわりました」

―ポーランドでの2か月間に亘る撮影はいろいろな面で大変だったのではないでしょうか?
「苦労はなかったなどとは言いませんし、スケジュールもハードでした。それでも、覚えてないだけかも知れませんが、圧倒的に大変だったことはありません。役者さん達は母国語ではない英語での演技が多かったのですが、プロとして一生懸命やっていただいた結果がこの作品です」
 
—撮影中で印象に残っている出来事を教えてください
「特別な出来事ではありませんが、『やっぱり映画作りは良いなぁ』としみじみ思った瞬間がありました。それは、ある朝、まだ暗い中で現場に立っていた時、あらゆる分野のスタッフ達がそれぞれの持ち場で作業していたんですね。そして、みるみるうちに当時の世界が再現されていった。それを目の当たりにして、優秀な役者さん達と素晴らしいスタッフに支えられて、自分は本当に恵まれている、と感じたことが忘れられません」


▲映画『杉原千畝 スギハラチウネ』より

—映画監督を目指すようになったきっかけを教えてください
「子どもの頃、和歌山大学の英語教授だった親父が、英語が聞きたく月に何回か洋画を見に連れて行ってくれたんです。そのおかげで素晴らしい映画の世界を知ることができました。もともと舞台や演劇にも憧れていましたが、映画業界に入ってからは、同じモノを創るならクリエイティブ面で『リーダー』になろう! と。そう思っているうちに、自然に監督を目指すようになったように思います」

—影響を受けた映画作品を教えてください
「子どもの頃に見た『クレオパトラ』、『鳥』、『おかしなおかしなおかしな世界』、『ピンク・パンサー』、『グレートレース』など、それから特に忘れられないのは『エル・シド』と『カサブランカ』です」

—敬愛する映画監督はいますか?
「一緒にモノを創っていると実感させてくれたリドリー・スコット監督の影響は強いですね。彼から学んだ事は2つあります。まず『監督の仕事はある意味6割がキャスティングである』ということ。もう1つは『どんなに苦しくても、楽しみながら出来ないのならやらない方が良い』ということです。あと、西部劇の巨匠サム・ペキンパー監督の編集マンだったロジャー・スポティスウッド監督から聞いた話なのですが、彼がその日に上がってきたラッシュをただ普通につなぐと、ペキンパー監督から『俺が撮ってきたモノ通りにつながれても困る。俺が撮ったとも分からないモノを見つけ出すのがお前の仕事だ』と叱られたそうです。この話を聞いて『なるほど。良い映画作りは皆の努力が重なって初めて出来るモノなのだ』と感じました。僕と編集マンのジム・ムンローの間では『the little treasure you never knew you had』を探すのも楽しみの一つです」

—映画監督として、どのようなものからインスパイアされますか?

「一番インスパイアされるのはリアリティですね。英語では “truth is stranger than fiction”とよく言いますが、実際そうだと思います。『杉原千畝』に関しても、歴史に対して豊富なイマジネーションがある人も、史実にはかなわない。そのほかに僕が常に興味を持っているのは、歴史の境目や人と文化が大きく変わろうとしていく時期の話です」

—次はどんな作品を撮ってみたいですか?

「できれば今まであまり語られていない話で、日本と米国を結ぶようなプロジェクトをやりたいですね。ペリーが初めて日本を訪れた頃の、政治とは関係ないちょっとした出来事とか。あと、第二次世界大戦で大活躍した米陸軍の日系部隊、第442連隊戦闘団の話にも惹かれています」

—最後に映画『杉原千畝 スギハラチウネ』を楽しみにしている読者へメッセージをお願いします

「この映画は、ある一人の男が周りの人々やさまざまな状況の中で変わっていき、自分が正しいと思った道を歩んでいった物語です。大切なメッセージが込められていますが、歴史ドラマとしてだけでなく、エンターテインメントとしても楽しんでいただけたら嬉しいです」。





 
 


Biography

チェリン・グラック

1958年、和歌山県生まれ。日本で高校を卒業後、米国のポモナ・カレッジおよびピッツァーカレッジで演劇を学び、その後フランスのソルボンヌ大学へ留学。プロデューサー業などを経て、80年より映画助監督として活動を始める。2009年に『サイドウェイズ』で監督デビュー。自身の多文化的な立場を生かし、日米両国で活躍。主な作品は、映画『杉原千畝 スギハラチウネ』(2015年、監督)、『太平洋の奇跡—フォックスと呼ばれた男—』(11年、脚本および米国監督)、『サイドウェイズ』(09年、監督)、『20世紀少年』シリーズ(08年~09年、海外ユニット演出)ほか多数。