人に見せない部分を垣間見る
その一瞬にゾクゾクする
Daihachi Yoshida
映画監督 吉田大八(2013年7月19日記事)

未知の世界に挑み続けるクリエイティビティの原点

作品を通して、異国の文化を知る。
そんな映画の醍醐味をトロントニアンに広く伝える「トロント日本映画祭」が6月13日から28日にかけて行なわれ、今年も多くの映画ファンを楽しませた。その閉幕を飾ったのは、本年度の日本アカデミー賞を始め国内の映画賞を総なめにした『桐島、部活やめるってよ』。トロント日本映画祭で同作が上映されたのにともない、舞台挨拶のためここトロントに初めて降り立った吉田大八監督に話を伺った。観終わった後の論争が論争を呼び、近年では異例のロングランを記録した本作。誰もが見たことのある学校の風景の中で、突然姿を消した"スター"桐島を巡り、それまで交わることのなかった高校生たちの感情が交差し、昇華していくさまが痛みを伴いながらも瑞々しく描かれている。4作目の長編映画で初め10代の主人公を撮った監督は、今までと全く異なるアプローチで臨んだ。

桐島、部活やめるってよ 「若い俳優と一緒に仕事をした経験があまりなかったので、一本の映画を作るという共同作業の前にニュアンスを掴みたいと思いました。だから、キャスティングの段階から同じ人に何回も会ったり、大勢を集めて一緒にいるのを横から見たり、いろんなやり方で若い俳優たちの可能性を探りました。今の若者の映画にしたかったので、自分の中にある勝手なイメージを押しつけるのはつまらないし、彼らが自然にリラックスして出すリアリティと映画が求める物語をどう調和させるのか、探るために長いお見合いみたいなものをやったんです」

監督とキャスト、また設定上で部員同士や親友同士のキャストたちが実際に一緒に行動することによって築いたリアリティ。それはスクリーンに映る個々の表情や集団ならではの空気など、"当たり前"な関係性にしっかりと表れている。

「特に高校時代では自分が脇役だとは思わないじゃないですか。社会に出て大きな組織に属すると自分の役割を受け入れざるを得ないですけど、学生のときは基本みんな同い年だから、今は何となくこっちが目立ってるけど、自分の世界の中心はあくまで自分で、という意識を持っている。自分が世界の中心だと思っている子たちが集まった学校の教室という空間の密度の高さを出来る限り表現したかったんです」

吉田監督といえば、女性の繊細な感情の描写に定評がある。本作の中でも、女子同士の微妙な心情が心をとらえて離さない。
「女の子の場面をやるときは女の子の気持ちになってやるし、全員が主人公のつもりでやるから撮影はすごく大変でしたけど、やっぱり自分が女子でない分、一番やりたかったところでもありました。女性が観て女子がリアルだと言ってくれるのは、すごく達成感がありますね」

そんな女子たち然り、学園内に渦巻く個々の感情が結集したときに何が起きるのか? その象徴として、原作の小説にはない、映画部が撮る"ゾンビ"を監督は取り入れた。 「彼らが作る映画がゾンビ映画だったら面白いなという単純な思いつきだったんです。でも後から考えてみると、ゾンビが噛みつくとゾンビじゃない人もゾンビになる。下から食らいついて自分のところに引きずり下ろすということですよね。そうすると映画部の彼らのように浮かばれない気持ちを持ってる人の心情をゾンビに託しやすいなと。作りながらゾンビにして良かったなと思います」
ちなみに、単純ながら映画部の部長・前田(神木隆之介)と吉田監督を重ねずにはいられないのだが、「よく言われるんです」とご本人。

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「僕の高校時代は、音楽が好きでバンドをやってました。だから前田にとっての映画が僕にとっての音楽で、好きだけど才能はないし仕事としては思えない、でも好きだからやらずにはいられないものでした。たまたま映画に興味を持ち始めたのは高校を卒業した頃で、大学生のときに前田みたいに8ミリのフィルムで映画を撮るのが楽しかったんです。映画に興味を持ち始めたのは『爆裂都市 BURST CITY』という作品で、あるバンドが演奏中のバンドを襲ってステージを乗っ取るというシーンがあるんです。それをそのまま真似して、ある一家が食事中に別の家族が家に上がり込んでやっつけ、そのまま同じご飯を食べるという映画を最初に撮ったんです。その名も『爆 裂家族』と。そしたらそれが意外とウケて、意外と出来ちゃうなと(笑)」

そんな衝撃的な処女作の内容を知った後でますます気になるのが、吉田監督の作品づくりのテーマだ。本作や『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』など、知ってると思い込んでた人の知らない一面を知ったときの衝撃、そして立ち直りというテーマに一貫性を感じるのは思い過ごしだろうか?

「テーマというか、そういう人にすごく興味があるんですね。ふとした瞬間に『あれ、この人すごく優しい人だと思っていたのに、酷い人なんじゃないか』などと思うのにすごくゾクゾクします。やっぱり人ってみんな人に見せる部分と見せない部分を使い分けてますよね。その人に見せない部分が垣間見える一瞬が魅力的に見えるし、それを見たいとは思います。だから俳優さんに役を頼むときもパブリックイメージじゃないものを映画の中で見れるんじゃないかと思うときに初めて頼みたくなるんです。そういう冒険をしてくれる気になった俳優さんが、僕の映画に出てくれる感じですよね」

「でも普段、人に見せてないものを見せてほしいと言ってるんだから、自分も得意なところだけでやるのはフェアじゃない」と言う監督。実はこの秋、人生初の舞台演出に挑むことが先日発表されたばかりだ。原作は、『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』の著者でもある本谷有希子の小説「ぬるい毒」。著者本人がこの小説の舞台化は無理と断言したが…。

「僕も本谷さんもM気があるというか、普通にやりやすいものにモチベーションが上がらないというか。彼女が小説にするということはそもそも演劇になりにくいに決まってるんですけど、彼女の戯曲を自分がわざわざそのまま演出するのに意味が持てなくて。全く勝算はないけど、もう発表になっちゃったので後には引けないです(笑)。すごく怖いんですけど、そういうことで自分を駆り立てていかないと。人にやれと言うんだから自分もやれというのをまだ続けられるうちは続けたいと思ってます。舞台なんて何やったらいいのか本当に分からないんです。だから今年最大のチャレンジですね」

残念ながら同舞台は日本のみでの公演となるが、また新たなステージでその才能をどのように発揮するのか? 飽くなき挑戦のその先を、まだまだ楽しみにしていたい。 



 
 


Biography

よしだ だいはち

鹿児島県出身。1987年にCM制作会社に入社し、CMディレクターとして多くの広告賞を受賞。2007年には、初の長編劇場用映画『腑抜けども、悲しみの愛を見せろ』が、第60回カンヌ国際映画祭の批評家週間部門に招待され、話題となる。『クヒオ大佐』(09)、『パーマネント野ばら』(10)に続く4 本目の長編映 画『桐島、部活やめるってよ』で第36回日本アカデミー賞最優秀作品賞などを受賞。