音楽を通して想像の世界を体験して欲しい
Etsuko Terada & Kikuo Watanabe
ピアニスト 寺田悦子 & 渡邉規久雄(2016年9月2日記事)

より豊かで立体的な響きがデュオの魅力

来る9月24日(土)、トロントのグレン・グールド・スタジオにて、ピアニスト寺田悦子さんと渡邉規久雄さんによるジャパニーズ・ソーシャル・サービス(JSS)チャリティコンサートが開催される。二人は日本を拠点に内外で精力的に活躍中のピアニスト。寺田さんはヨーロッパ各地でのソロ・コンサートやニューヨークのカーネギーホールで演奏した経験を持つ。渡邉さんはフィンランド音楽に造詣が深く、フィンランドの作曲家ジャン・シベリウスの作品普及の貢献を称えられ、2015年にフィンランド政府から「シベリウス・メダル」を授与されている。夫婦としてデュオ・コンサートも数多くこなしており、宝石の輝きを彷彿とさせる華やかなパフォーマンスで観客を魅了し続けている。そんなお二人にお話を伺った。

―トロントで演奏会を開くことになった経緯を教えてください

寺田「十数年前からトロントに住んでいる従姉が昨年夏に一時帰国した折に、私達がトロントを訪ねる話が出ました。それならトロントで演奏会をしたらという提案をいただき、JSSの山本順子さんをご紹介いただきました。山本さんからJSSの活動内容を詳しく伺い、私達も長いこと外国で生活していたので、JSSの意義ある活動にとても感銘を受け、少しでもお役に立てればと思い、今回のチャリティーコンサートへとつながりました」



―お二人は海外生活でどんなことに苦労されましたか?

渡邉「私は日本の高校を卒業した年に家族とスイスに移住しました。小さな寄宿学校で音楽家だった教授夫妻と共に過ごし、ヨーロッパの文化、芸術面の教養を学び、音楽家になることを決意しました。その後、インディアナ大学音楽学部ピアノ科に入学して大学院を卒業するまでの6年間プラス1年をブルーミントンという街で過ごしました。インディアナ大学は全米第1位の音楽学部を誇る大学ですが、私が一番苦労したのは実は英作文の授業です。宿題と格闘する私を、日系アメリカ人の友人が親身になって助けてくれ、そのおかげで何とか単位を取ることができました」

寺田「私は16歳の時にウィーンの音楽院に入学して、5歳年上の姉と自炊生活をしていました。当時のヨーロッパの生活は質素で、天井の高い大きな部屋でも冬はストーブ一つだけ、お風呂は週に1回(あとは身体を拭くだけ)でしたが、別段それを苦労とも思いませんでしたね。ただ、一番悲しかったのは、留学してから半年後くらいに寒さと練習のし過ぎで左手首が腱鞘炎にかかってしまったことです。数年かかって完治させましたが、思うように練習が出来ない時期があり、何のために自分はここにいるのだろう、と思い悩みました。先生や下宿の大家さん、姉が親身になって心配してくれて、ありがたかったです」

—お二人はインディアナ大学在学中に知り合って学生結婚されたとか。今回、ご夫婦でのデュオ・コンサートですね

寺田「二台ピアノの面白さは2+2が4ではなくそれ以上、無限大に拡がります。男女の肉体的な差や個性の違いはありますが、逆にそれがために表現の幅が広がる面白さがあります。レパートリーにはオーケストラ曲の編曲もあり、一台で弾くソロよりも響きがより豊かで立体的になることがデュオの魅力ですね」

デュオを始めたのはいつからですか?

寺田「1983年に外務省から南米へ演奏旅行に行かないかという打診があり、さすがに遠い南米への一人旅は気が進まなかったのですが、その時『お二人で弾かれたらどうですか?』という提案をいただいたんです。長旅も二人ならば心強いし、楽しかろう、と。そんな不純な理由で始めました(笑)」

渡邉「あと、フィンランドのヘルシンキでコンサートをした時、現地の全国紙がインタビュー記事を大きく掲載してくれました。そのおかげか、それまで会ったことのないフィンランド人の『親戚』を名乗る人達が会場に数名現れたことは嬉しい驚きでした。それから、ロシアのサンクトペテルブルグで演奏した時、聴衆から熱烈な反応と拍手を受けました。舞台芸術に特別の愛着と長い歴史を持つ国の人々の、音楽への熱い想いが伝わってきて感激しました」



—世界を舞台に活躍されているお二人ですが、印象に残っている思い出を教えてください

寺田「そうですね、いろいろありますが、今お話しした南米公演では、夜9時の開演時間になってもチラホラとしか聴衆がいなくて真っ青になっていたら、主催者は全く慌てず騒がず。10時近くになって満員となり、開演。それが普通だと後で聞いて驚きました」

—今回の演目を教えてください

渡邉前半はそれぞれがソロを弾きます。まず私がシベリウスの『樹の組曲』という小品集より3曲と『フィンランディア』のピアノ編曲版を弾きます。トロントの皆様に素朴な北欧の自然をスケッチしたような優しい心に満ちたシベリウスのピアノ作品をぜひ聴いていただきたいと思い選曲しました」

寺田「私はショパンの若い頃の代表作の『アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ』と後期の円熟を極めた代表作『バラード第4番』の2曲を弾きます」

渡邉「後半は二台ピアノの定番の名曲、モーツァルトの『二台ピアノのためのソナタ』とラフマニノフの『組曲第2番』。モーツァルトでは二台のピアノが対等に主張し、まるで会話するように響き合いながら、生き生きとした音楽を繰り広げます。ラフマニノフは二台ピアノのレパートリーとして近年大変人気の高い作品ですが、作曲家自身も名ピアニストだったため、かなり高度な演奏テクニックを要する名人芸的な華やかさのある大曲です」

—最後にコンサートを楽しみにしている読者へメッセージをお願いします最後にコンサートを楽しみにしている読者へメッセージをお願いします

寺田「偶然のご縁からトロントでのコンサートが実現することになりました。音楽を通して日常から離れた想像の世界を体験していただきたいと思います。そして、演奏を通して作曲家と私たちの想いが届くことを願っています。また、今回のコンサートでJSSの活動をより多くの皆様に知っていただき、今後サポートしてくださる方が増えたら何より嬉しいです」。


コンサート情報
■ 日 時:9月24日(土)19時~
■ 場 所:Glenn Gould Studios (250 Front St. W.)
■ 入場料:$50
■ 連絡先:416-385-7124
■ サイト:www.jss.ca

Biography

てらだ えつこ
16歳でウィーンに留学、ウィーン国立アカデミーを最優秀賞で卒業後、アメリカに渡り、ジュリアード音楽院大学院、インディアナ大学などで研鑽。1977年第2回ルービンシュタイン国際ピアノ・コンクールで第3位と金賞を受賞。日本ショパン協会賞を受賞。1978年にリーズ国際ピアノ・コンクールに入賞。現在、東京、大阪をはじめヨーロッパ各地やロシア、ニューヨークなど内外で活躍中。日本大学芸術学部大学院研究科教授。

わたなべ きくお
1974年インディアナ大学卒業。1976年同大学院を卒院。1976年7月、日経ホールにてデビューリサイタル。以降、日本フィル、東京響、京都市響、仙台フィルの定期演奏会に出演。国際交流基金の音楽大使として南米、中央アジア、フィンランド、ロシアなど内外で演奏活動を行っている。2015年12月、フィンランド政府より長年に渡るシベリウス音楽の紹介、普及の功績により「シベリウスメダル」を授与。武蔵野音楽大学ピアノ科教授。