感動を与える演奏は楽しく弾くことから生まれる
Etsuko Kimura
バイオリニスト 木村 悦子 (2015年7月17日記事)
先月26日まで日系文化会館で開催されていたトロント日本映画祭。6月18日にはオーケストラをテーマにした作品『マエストロ!』の上映会が行なわれ、トロント交響楽団でアシスタント・コンサートマスターを務めているバイオリニストの木村悦子さんが特別ゲストとして登場した。 上映前にピアノとの二重奏でヴィエニャフスキ 作曲の『華麗なるポロネーズ第2番イ長調』を披露した木村さんは、演奏が終わるやいなや、観客からスタンディングオベーションを受けた。

「学校で例えると、指揮者が校長先生、 コンサートマスターが学級担任、その次にアソシエイト・コンサートマスターがいて、それが副担任。アシスタント・コンサートマスターとは学級委員長みたいなものです。要するに指揮者(校長先生)からまわってきた伝言を、コンサートマスター(学級担任)、アソシエイト・コンサートマスター(副担任)が受け取って、それを生徒の代表であるアシスタント・コンサートマスター(学級委員長)が、クラス(楽団員)全員に伝えるという感じです」とアシスタント・コンサートマスターについて分かりやすく説明してくれた木村さんは、その役割についてさらに続けた。

©Malcolm Cook

「リハーサルの時間は限られているので、その短い時間の中でコンサートマスターの指示をいかに早く全員に伝えるかが重要になります。このポジションには、技術面でのオーディションのほかに、オーケストラの中でアシスタント・コンサートマスターの位置(前列から4番目)に座って弾く、そして、1番前のコンサートマスターの位置に座って弾く期間がそれぞれ設けられ、その様子を見て、審査されました。役割は先ほど述べた通りですが、ソフトスキルとしては、中間管理職に求められるものと同じようなものだと思います。 縁の下の力持ちができて、主張しすぎない程度のリーダー的な要素が求められます」。

両親とも音楽に携わっていたため、「物心ついた時から楽器を触っていた」という木村さんは4歳からバイオリンを習い始める。

「子どもの頃はバイオリンが嫌いでした。音楽は大好きだったので、歌やフルートをやりたいと親に頼んだりして、何とかバイオリン以外のことをしようと試みた時期もありました。嫌だったバイオリンが楽しくなってきたのは、高校生になった頃ですね。新しいバイオリンの先生が、ヨーロッパ留学から帰ってきたばかりの若い先生で気が合ったのと、ちょうどその頃、アマチュアのオーケストラに入ったのがきっかけでした」。

©ツーポイント伊藤裕司

日本で音楽大学の大学院までを修了し、その後トロント大学に留学。トロント大学では「自分の意見をきちっと主張できるよう、楽譜を眺めて頭で考えてきなさい」と言われ、それが一番戸惑ったという木村さん。英語の上達とともに克服したというが、先生や両親を敬い、礼儀を重んじるようしつけられた木村さんにとって、先生に対してYOUという対等な言葉を使うことや目上の人に自分の考えを述べることが苦痛でたまらなかったと、留学時代を振り返る。現在、トロント交響楽団やソロでの演奏活動に加え、トロント大学、カナダの音楽キャンプでの講師など、多岐に渡り活躍しているが、彼女には3年ほど、育児のためにバイオリンを弾かなかった時期があった。

「復帰した時は技術より、ステージの感覚が鈍っていることを強く感じました。舞台に立った時のお辞儀のタイミングを忘れてしまっていたり…。技術の方は毎日練習することで、すぐに戻ってきましたが、ステージの感覚が戻るのには時間がかかりました。頻繁に本番をしていた頃は、長時間のステージでも、集中力のピークをどこに持っていくかを感覚で分かっていましたが、3年離れると力の配分を忘れてしまって、1曲目でクタクタになってしまったりしたことがありました」。

©ツーポイント伊藤裕司

子育て中は、隙間時間を見つけてはバイオリンに触れていたというが、練習の成果は時間との比例ではないと語る。 「若い時と違って時間が限られているので、パッと譜面を見て、難しそうなところを集中的に練習するようになりました。この音からこの音にするのにはどうすればいいか、という体の感覚を頭に叩き込んで覚えるようにしています。そうすると、10回やらなくちゃいけないところが2回で済むようになります。スポーツ選手の方はそうやってトレーニングされていると聞きますが、同じような感じです。頭を使って効率よく練習するようにしています」。

今年でトロント交響楽団でのアシスタント・コンサートマスターのキャリアも8年目となる木村さん。彼女には常に心に留めている言葉がある 。それは 「音楽は音我苦(おんがく)にあらず」。

「高校の時の音楽の先生が卒業時にサイン帳に書いてくれた言葉なんですけど、音楽は音を楽しむためのものであって、苦しむものであってはいけない。”自分が楽しくないと聴いている人も楽しくないよ“という意味です。お客さんはその一瞬を楽しもうと思って演奏を聴きに来てくださっています。例えば、 嫌なことがあったからってムスっとした顔をして弾いていたらそのお客さんの一瞬の夢が壊れてしまいますよね。人間なので、もちろん体調が悪い時もありますが、エンタテイナーとしてステージでお客さんを目の前にした時は、どんな小さなことでも絶対に手を抜かない。それだけは肝に銘じてやっています。自分が一生懸命やっていれば、聴いている人も楽しい、聴いてくれた人たちが楽しい思いをして帰ってくれたら、自分もいい気分になります」。   


 
 


Biography

きむら えつこ

4歳よりバイオリンを始める。 大阪音楽大学、同大学院を修了後トロント大学に留学。1992年、ヨーゼフ・シゲティ・バイオリン・コンクール3位入賞をきっかけに、ザ・カレッジ・オペラハウス管弦楽団、大阪市音楽団、 トロント交響楽団などのオーケストラと共演。2007年よりトロント交響楽団のアシスタント・コンサート・マスターに就任。演奏活動のみならず、トロント大学講師、カナダの音楽キャンプ講師などで後進の指導にも努めている。

木村悦子さんサイト:www.ekviolin.com


トロント交響楽団サイト:www.tso.ca