いつも新しいチャレンジがあるフォーリーという仕事
Goro Koyama
フォーリーアーティスト 小山 吾郎(2016年7月15日記事)

音で気味悪さを追求した『寄生獣』

トロント日本映画祭で上映された映画『寄生獣』。その上映前に、同作品の効果音を担当したトロント在住のフォーリーアーティスト、小山吾郎さんのライブ・デモンストレーションが行なわれた。フォーリーアーティストとは、映画の中の“音”を作る職業。映画では、俳優の台詞以外のほとんどの音は後付けすることが多い。その中の足音やドアが開く音などといった、さまざまな効果音をフォーリーアーティストが作っている。

『寄生獣』上映当日。開演時間に突然靴音が響き渡り、ざわついた会場がしんと静まり返った。そこへ優雅な足取りで入ってきた日系文化会館ジェームス・ヘロン館長。挨拶が始まると、次第に風音が強くなり、大粒の雨が降り出した。傘をさしてヘロン館長が退場すると、会場で効果音を出していた小山吾郎さんを、スポットライトが照らし出した。その日のデモンストレーションでは、主に『寄生獣』で使ったテクニックを披露した小山さん。音響監督からは「思い切りやってください!」と言われ、気味悪さを追求したという。特に人間を捕食する寄生生物「パラサイト」が動く時の音の不気味さに、会場は震え上がっていた。上映会終了後、小山吾郎さんにお話を伺った。

―映画冒頭ではついさっき聞いたパラサイトの音が出てきて、会場から笑いが起こっていましたね。セロリやグレープフルーツなど食べ物を使っているのには度肝を抜かれました
「パラサイトが人間を食い散らかすシーンは本当にセロリを食べて飲み込んでいました。あとは白菜やスイカ、大きいターキーの骨をバキバキやったり、ヨーグルトやゼリーもかなり使いましたね。もうスタジオの中がぐちゃぐちゃになりました(笑)」

―『寄生獣』の中で一番苦労したことを教えていただけますか?

「原作コミックの著者、岩明均さんは漫画の中で音を書かれているんですね。旦那さんの顔がパカッと開いて奥さんの顔を食べるシーンがありましたが、あれは1ページぶち抜きで『ぱふぁ』と書いてあるんですよ。岩明さんの表現にできるだけ忠実にしたいと思い、それが結構プレッシャーでした。『ぱふぁ』は最終的に、マイクに向かって色々な言い方でぱふぁって言ったものと新鮮野菜を混ぜて作りました。オリジナルレシピです(笑)」

―人間の声とは思えないサウンドでした。既成概念にとらわれない音作りの発想はどこから出てくるのでしょうか?
「とにかく常日頃から音をいっぱい聞いて、どの道具を使うとどんな音が出るか試しています。スーパーやガレージセールはうってつけの場所ですね。あとは、ふだん道行く人の足音を聞くなど常にスイッチが入っている状態です。実はね、モンスターの音をセロリとかグレープフルーツでやるっていう発想の方がすぐ出るんです。むしろ、足音をいかにきれいにするかの方が難しい。現実世界ですべての足音が全部きれいに聞こえるなんてありえないことですから」

—確かにそうですね
「ハイヒールの音にしても、実際にはカツンカツンではなく、ゴトンゴトンというものが多いですよね。本物よりもそれらしい音にする事が、大抵の場面で必要です。この映画の中で、ハイヒールを履いた田宮良子が背筋をピンと伸ばして学校の廊下を歩いてくるシーンがあります。実はあれ、今日のデモで使ったイタリア製の男物の靴音なんですよ。カツンカツンがいい感じだったので。足音に限らず、ストーリーのポイントをより良く伝えるだけの誇張を加えながらも耳障りでなく、台詞の邪魔にならない、音楽の邪魔にならない丁度いい音にするのに一番気を使います」

全体の音のバランスもフォーリーアーティストが考えるんですか?
「いえ、最終的なバランスを整えるのは音響監督やミキサーの仕事です。私は台詞、音楽、バックグラウンドの音、さらにサウンドエフェクトなどが後から重ねられる事を考慮して音を作ります。決して前に出しゃばらず、フォーリーでなければできない部分をきっちり押さえる。そこがこの仕事のおもしろさの一つでもあります」

—これまでに作ったお気に入りの音を教えてください
「水の音、足音、それから格闘シーンやホラー系のグチャグチャした音などたくさんあります。中でも、『Alice in Wonderland』で白の女王が媚薬を調合するシーンですね。3月ウサギがソルト・シェーカーを投げて、それがアリスの頭上を飛んでいく時、普通の『ヒュン!』じゃなくて、『シャカシャカシャカ』っていう音にしました。一瞬ですけど、かなりいいタッチだったと思っています」

—エミー賞受賞の『Hemingway & Gellhorn』の仕事で印象に残っていることは何ですか?
「ドキュメンタリー映画を手掛けていたヘミングウェイを手伝うゲルホーンが、映画に効果音をつけるシーンが印象に残っています」

—それってまさにフォーリーでは?
「そう! フォーリーをやっているシーンなんです。それに私がフォーリーをつけた、と。ゲルホーンを演じたニコール・キッドマンが、撮影中に『こんな変な仕事、本当にあるの?』と言ったとか、言わなかったとか(笑)」

—笑)。小山さんにとってフォーリーという仕事の醍醐味は何ですか?
「すでに20年以上やっていますが、飽きることがない。足音一つにしても、監督さんのスタイル、サウンドエディターさんの注文、こちらがやりたいこと、全て違う。いつも新しいチャレンジが必ずあります。そこが一番楽しいです」

—今後、やってみたいことがあれば教えてください
「いろいろな種類の映画をやってみたいというのはもちろんですが、それとは別にライブ上映をやってみたいですね。それも、録音できなかった頃の上映スタイルでやってみたい。以前に一度映画祭でやったことがありましたが、扱った作品がアート系だったので、今度は一般の人たちも楽しめる作品でやってみたいですね」。



 
 
Biography

こやま ごろう
1973年、埼玉県出まれ。日本の高校卒業後、オンタリオ州サンダーベイのコンフェデレーション・カレッジで映画製作を専攻。卒業後、フォーリー・アーティストの道へ。1997年の『The Sweet Hereafter』、2002年の『MAX』でジーニー賞、2002年の『Ravel's Brain』でジェミナイ賞を受賞。2012年、第64回エミー賞にてテレビ映画『Hemingway & Gellhorn』で最優秀音響効果賞を受賞ほか、受賞多数。