跳ねるマレットと共に心躍るマリンバの音
Haruka Fujii
打楽器奏者 藤井はるか(2013年2月15日記事)

暖かく会場に響く独特な音色。低めの音なのに何故か明るい気分にさせてくれるのがマリンバだ。太古のアフリカで地面に穴を掘り、そこに渡した木の板を叩いて音を出したことから始まった楽器といわれているが、原型となったその楽器が中南米へ渡り、現在の形となったのは比較的最近だという。マリンバは小学生の頃に音楽の時間で触れ たいわゆる木琴(正式名称はシロフォン・ザイロフォン)と似た楽器だが、実際にマリンバコンサートに足を運ぶ機会は、ピアノやバイオリンのそれより少ないだろう。しかし、一度その演奏・音色に触れると、心を奪われる楽器だ。そんなマリンバの魅力を味わうことが出来るイベント、『フジイ・パーカッション・アンド・ヴォイシズ』が現在開催中の『Spotlight Japan』の一環として開催される。

Mark Yungblut

 今回は、3月5日(火)のイベントに先立って、当日はマリンバの演奏を聞かせてくれる打楽器奏者の藤井はるかさんにお話を伺った。『フジイ・パーカッション・アンド・ヴォイシズ』では、はるかさんのお母様である藤井むつ子さん、妹さんの藤井里佳さんの親子姉妹3人で出演。お母様と妹さんは日本から渡加されるが、なんとはるかさんはトロント在住。「トロントには主人の仕事の関係で来たんです。その前はニューヨークに住んでいました。

ニューヨークは高校生くらいから憧れて行った街で、(そこから)動くなんてひと欠片も思ってなくてかなり迷ってはいたんですけど…。トロントに移った主人を訪ねて行ったりきたりしてる間に、トロントは現代音楽がしっかりしていることが分かったんです。芸術の土壌があって、凄く恵まれたことに本当にいいお友達と巡りあうことが出来た。それが(移住の)大きな理由ですね」ニューヨークの名門、ジュリアード音楽院大学院過程で打楽器を専攻、そこからマネス音楽院にてさらにその腕に磨きをかけたはるかさん。実は、小さい頃は打楽器ではなくピアノを習っていたという。そして、都立芸術高校ピアノ科に入学する。

「マリンバを演奏している母親(マリンビスト)に抵抗したところもあって、高校生くらいまではピアノをやっていたんですが、ある時、ピアノに対する自分との相性がね、あんまり合ってないことに気付いたんです。それと同時に、打楽器に対する興味が止まらなかった。(打楽器を)やってみたいな…って。

 そこで、高校に居る間に転科試験を受け、打楽器科が受かった後に母親に伝えました。『私、打楽器やるから』っ言ったら凄い怒られましたけどね(笑)。
『女性で打楽器やってるなんて大変だし、どんな苦労が待っているか知らないのに』って…。でも、大学に入って一緒に演奏するようになって、今回みたいにツアーに廻れたりする。今はすごく喜んでくれています。

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母に怒られてしまうかもしれないけれど、母親として、というより、アーティストとして、演奏家として母をとても尊敬しています。
母は母で、私がアメリカでずっとやってきた経験を認めてくれている。母や妹と演奏することは特別ですね。初めて一緒に演奏する人とだったら越えていかなければいけないことや探りあいがあるんだけど、そういうことが全く無いですしね。お互い凄く分かってるから、省略できることが沢山ある。あんまり話さなくても出来るんですよ」太鼓なども演奏するはるかさんだが、今回は、3人でマリンバの演奏を聞かせてくれる。「私自身は打楽器、叩けるものは何でも叩くんですが(笑)、今回はマリンバのフィーチャーです。日本の芸術界の誇りとも言ってよい先生方の曲を紹介する予定です。打楽器界では知られている作曲家の方々なのですが、なかなか、特に日本の作曲家の方は、一般的に名前が出て行かないんです。素晴らしい音楽家ばかりなので是非紹介したいですね。

 カナダの有名な作曲家の方の曲も演奏します。クラウド・ヴィヴィエ氏の曲を今回用にアンサンブルにしたものと、マイケル・オエステル氏の楽曲です。これは世界初演ですよ」日本が誇る作曲家たちの作品と書き下ろし曲の世界初演、それだけでも十分に魅力的だが、あまり馴染みのない人でも視覚的に楽しめるのがマリンバという楽器の特徴の一つ。

「マリンバに限らずですが、打楽器って視覚的にまず面白いですよね。マリンバのマレット(演奏する際のバチ)は1人何本持ってると思いますか?実は、何百本も持ってるんですよ。先についている玉の部分の中身一つをとっても、ゴムだったり木だったり、真鍮だったり、いろいろ素材があるんです。その周りに巻いてあるものも綿だったり毛 だったり、細さとか巻き方の密度とかも違って、それによって全然音が変わるのでキリがありません。それらを、曲調によって使い分けていきます。暖かい曲の時はふさふさのものを使う、とかね。それに、暖かい音が出るマレットが2本あっても低い音がよく出るマレットなのか、それとも高い音が上手く出るのかというのが、また一本ずつ違うんですよ。大抵、多くて片手に4本持ってるんですが、4曲の楽章によって持ち替えこともあって面白いですよ。
人によってはマレットの玉の部分にスパンコールをつけて、キラキラさせたりする人もいます。私は不器用なのでやっていませんが(笑)」

 はるかさんは続けてこう語る。「マリンバは歴史的には短い楽器なんですよ。(今の形が作られてから)まだ100年経っていないんです。それだからこそ、この楽器のために書かれた曲もいいものは限られているし、そういう意味でも可能性、広がりがある楽器ですよね。歴史が短い分だけ、新しいことをやればそれが新しいスタンダードになっていく。

 奏法一つをとっても、常に新しいことを考えているんです。例えば、マリンバって今までは立って弾くものでしたけど、座って演奏することを考えだした人がいます。そういう可能性を追いかけて(打楽器を)やり始めて、好きになってしまったら止まらなかったんです」
"かえるの子はかえる"、打楽器への情熱は血の中に流れていたのかも知れませんね、というはるかさん。

「でも、親子・姉妹でも3人とも演奏は全然違うんです。母には60何年の歴史のある音があるし、妹は優しい音を出す。私は私で、ちょっと強い音。個人のキャラクターの違いがあるんですよ。そんなところも楽しんでくださいね」。



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藤井さん出演のイベント
「Fujii Percussion and Voices」
日 時:3 月5 日(火)20 時
場 所:Koerner Hal(l 273 Bloor St. W.)
入場料:$20 ~ 65
連絡先:416-408-0208
サイト:www.soundstreams.ca



 
 


Biography

ふじい はるか

埼玉県出身、トロント在住。3歳よりピアノを始め、高校で打楽器に転向。東京藝術大学音楽学部打楽器科を卒業。その後渡米してジュリアード音楽院大学院へ。さらに奨学生としてマネス音楽院にて学ぶ。ソリストとしてオーケストラに参加したり、リサイタルで精力的な活動を展開する他、2010 年にはヨーヨー・マ率いるシルクロード・アンサンブルのメンバーとしてツアーを廻るなど、国際的な音楽家たちとの交流を持ちながら様々な活躍をしている。
www.harukafujii.com